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舞踏会への招待状

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「そうね、そうしましょう! オリヴィエさん、今度はこれを」

 ラシェルは今度も一人で納得して、次々にドレスを当てては、評価を下していく。

 それを繰り返して全部で6着試した。

「うーん、オリヴィエさんの華やかな雰囲気には、これかしらね」

 婦人が最終的に選んだのは、裾の方に淡い紫のグラデーションが掛かったドレスだ。

 胸元と袖口はレースで縁取られている。腰には大きなリボンも付いていた。

 スカート部分はふんわりとした広がりがありながらも、生地は薄く、動き易そうだ。

「とても素敵ですね。気に入りました」

「ええ、そうでしょう?」

 婦人は満足気に頷いた。

「ちょっと、待ってね。手直しのサイズをメモするから……」

 ラシェルは、詰める箇所を採寸しては、メモにサイズを書き込む。

「そろそろ一度、休憩したらどうだい?」

 声で試着の終了を知ったのか、その合間に、セルゲイの声が掛かった。

「あら、セルゲイ様」

 婦人は驚いて振り返った。オリヴィエもドキンと心臓が跳ねた。

 家族でも使用人でもない男性と壁一枚を隔てて、衣服を脱ぎ着する。

 異性とそんなシチュエーションになるのは初めてだ。

 今更ながら、ルーカスが指摘した〝男たちと寝食を共にする” 現実を理解した。

 騎士服を着ている時は何ともなかったのに、女性らしいドレスに身を包んでいるからだろうか。

「もうしばし、お待ちを。ドレスに合わせてアクセサリーも選ばなくては」

 婦人は、うきうきと採寸の続きをする。

 もう、どれでもいいです。

 オリヴィエは心の中で呟くが、当然ながら口にはできない。

 せっかく夢中で選んでくれているのに、邪魔して機嫌を損ねても悪い。

「さあ、次はおぐしですわ」

 ラシェルはオリヴィエの髪をといた。プラチナブロンドが豊かに波打つ。

「綺麗な御髪ね……羨ましいわ」

 そう言って、ヘアアレンジを施す。編み込みを施して、サイドでまとめてアップした髪型だ。

「ねえ、セルゲイ様、お入りになって。こんな雰囲気はいかがかしら?」

 婦人は、今度は部屋の入り口に向かって声を掛けた。

 遠慮がちに扉が開いて、セルゲイが顔を出した。

「ああ、いいんじゃないかな」

「まあ! お上手ね」

 婦人が手を叩いたので、オリヴィエは慌てて前を向いた。鏡には自分の姿と、セルゲイの姿が映っている。

「よく似合っているよ」

 そう言ったセルゲイは、オリヴィエの耳元に口を寄せた。

「でも、気を付けて。団長はひどくやきもち妬きだから、他の男に見せないようにね」

 ぞくりと背筋を走ったのは――悪寒なのか。オリヴィエにはわからなかったが、思わず息を呑んだ。
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