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舞踏会への招待状

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 それから二人は馬車に乗り込んで、街まで移動した。

 道すがら、二人は何気ない会話を交わす。

「副団長は、いつ騎士団に入団したんですか?」

「うん? ……16の、時だったかな」

 セルゲイは思い出すように呟いた。

「君のお兄さんと同期だよ。クリストファー、だよね。第3隊は今、国境警備に遠征中だ。すぐに会えなくて残念だね」

「いえ、兄は私の入団を良く思っていないので、会っても気まずいだけです」

 オリヴィエは苦笑いした。セルゲイ相手に、つい本音が出たなと後悔する。

「普通は、そうだろう。じゃあやはり、君は家族の反対を押し切って入団したわけだ」

 オリヴィエはぐっと、答えに詰まる。

 家族に反対されたのに、無理に騎士団に入団した。

 加えて、団長にも退団を迫られたのに、撥ねつけた。

 セルゲイも、どれだけ身の程知らずだと、呆れているのか。

「私は別に責めているわけじゃない。純粋に知りたいだけなんだ。どうして、そうまでして君のような貴族の令嬢が聖騎士団に籍を置きたいのか」

 問われて、オリヴィエは黙り込んだ。

 自分がこんな所まで来たのは、全て――。

「誰にも、話さないでくれますか……?」

 馬車の中はセルゲイとオリヴィエだけの密室だ。

 客車の壁を隔てているから、御者にも会話の詳細までは聞こえまい。

「そんなに深刻な話なの?」

 オリヴィエは返答に迷った。

 深刻かどうか、わからない。

 でも、あまり他人に大きな声でしたい話ではない。

 セルゲイは何か感じ取ったのか苦笑する。

「わかった。私一人の胸に秘めておく」

「じゃあ……」

 と、オリヴィエは語り始めた。

 ずっと、ルーカスに恋をしていること。

 聖女にはなれないけれど、彼の傍で、この王国を支えたいと願ったこと。

 セルゲイは黙って聞いていた。時折頷くように相槌を打つ。

 いつ、オリヴィエの人生の幕が下りるかわからない、とオルガノの預言のくだりまで語ると、セルゲイはぐっと息を呑んだ。

 表情の変化は僅かだが、同情するように眉を顰めてくれた。

「それは、辛かっただろう。なるほど、良くわかったよ」

 セルゲイは一人、納得したように呟いた。

 オリヴィエの話に同情をしつつも、どこか腑に落ちない顔をしていたが、やがて話題を変える。

「……ところで、実際に団長と再会して、どうだった?」

「どう、と仰いますと」

「団長に、男を感じる?」

 オリヴィエは赤面した。いきなり何を言い出すのだこの男は。

 直接的な物言いについ動揺を誘われるが、すぐに思い直す。

 男性は女性と違う。きっと、こういう言い回しが普通なのだ。

 きっと女子でいう「あの方ってとてもエスコートが上手で素敵なの。逞しい腕に抱かれてみたいわ」のようなノリに違いない。

「私の想像していた以上に、素敵な殿方におなりでした」

 オリヴィエは、ルーカスの外見を思い浮かべた。

「男らしい中にも、品があって凛々しくて……」

 彼の仕草や表情を思い返すと、今でも吐息が漏れそうだ。

 それから有耶無耶の内にキスをされたこと、それから――……

 それから先も勝手に回想された。ので、首を振って断ち切った。
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