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舞踏会への招待状
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自分でも大声だとわかり、恐縮する。
「大丈夫だ、心配するな。あくまで疑惑の段階だし、まだ確証は得ていない」
「だったら猶更……騎士団が出る必要はないのでは?」
オリヴィエは不思議に思った。
犯罪が疑われるなら、領主や警察の仕事だろう。騎士団が出向く理由がないのでは。
「犯人たちは聖女の候補者ばかりを狙って誘拐するらしく、聖殿の監察官から直接交渉があった」
「聖女候補……。だから、騎士団に打診があったのですね」
ルーカスの回答に得心する。
「そうだ。聖女が絡めば我々にも充分関連がある」
ルーカスは顎をさすった。彼が思案するときの癖のようだが、様になっているので、つい見惚れてしまう。
オリヴィエの視線に気づいているのかいないのか、ルーカスは言葉を続けた。
「警備には、俺の他に聖騎士も何人か参加する。お前は俺と共に会場入りし、招待客に混じって不審者がいないか監視しろ」
オリヴィエは弾かれたように顔を上げた。
一気に鼓動が早くなる。ルーカスと舞踏会で過ごせるなんて夢のようだ。
しかし――それは同時に、オリヴィエの恋心を周囲に露呈し、自分の未練を掘り返す行為にはなるまいか。
「それは……私と踊って下さるということでしょうか」
ルーカスは頷いた。彼が頷くだけで、自分の未来が明るくなる気がする。
どんな苦難にも耐えようと思えるほど、オリヴィエの心は弾んだ。
同時に胸には針に突かれたようなチクリとした痛みが刺さる。
「舞踏会で踊らなければ、怪しまれるからな。だが、くれぐれも正体が露見しないよう気をつけろ」
「はい!」
結局オリヴィエはルーカスと共に舞踏会に参加できる事になった。
彼の隣に立っても不自然ではないように、ドレスを新調しなくては――と浮かれた考えが頭をよぎる。
「あの、ド……」
しかし、声を出した直後に後悔する。
まだ年端も行かない女児が誘拐されているかもしれないのに、喜ぶなんて大罪も同然だ。
オリヴィエは、喉元まで出掛かった台詞を咄嗟に呑み込んだ。
「いえ、何でもありません」
ルーカスは不思議そうに首を傾げていたが、深く追及しないでくれた。
「衣装についてはセルゲイに一任してある。だが、既製品でもサイズ合わせが必要だろうから、午後から街へ行ってこい。セルゲイが呼びに来る」
「そう、なんですね。ありがとうございます。……あの、団長は……?」
「俺は、ある程度サイズは把握している。当日まで、特に不自由はない」
ルーカスは、オリヴィエの衣装になど興味がないようだった。
それもそうだろう。彼はただの上司で、それ以上の関係ではないのだから。
それから、二人は事務的な会話をいくつか交わし、オリヴィエは退室した。
執務室を出ると、廊下でセルゲイが待っていた。
「大丈夫だ、心配するな。あくまで疑惑の段階だし、まだ確証は得ていない」
「だったら猶更……騎士団が出る必要はないのでは?」
オリヴィエは不思議に思った。
犯罪が疑われるなら、領主や警察の仕事だろう。騎士団が出向く理由がないのでは。
「犯人たちは聖女の候補者ばかりを狙って誘拐するらしく、聖殿の監察官から直接交渉があった」
「聖女候補……。だから、騎士団に打診があったのですね」
ルーカスの回答に得心する。
「そうだ。聖女が絡めば我々にも充分関連がある」
ルーカスは顎をさすった。彼が思案するときの癖のようだが、様になっているので、つい見惚れてしまう。
オリヴィエの視線に気づいているのかいないのか、ルーカスは言葉を続けた。
「警備には、俺の他に聖騎士も何人か参加する。お前は俺と共に会場入りし、招待客に混じって不審者がいないか監視しろ」
オリヴィエは弾かれたように顔を上げた。
一気に鼓動が早くなる。ルーカスと舞踏会で過ごせるなんて夢のようだ。
しかし――それは同時に、オリヴィエの恋心を周囲に露呈し、自分の未練を掘り返す行為にはなるまいか。
「それは……私と踊って下さるということでしょうか」
ルーカスは頷いた。彼が頷くだけで、自分の未来が明るくなる気がする。
どんな苦難にも耐えようと思えるほど、オリヴィエの心は弾んだ。
同時に胸には針に突かれたようなチクリとした痛みが刺さる。
「舞踏会で踊らなければ、怪しまれるからな。だが、くれぐれも正体が露見しないよう気をつけろ」
「はい!」
結局オリヴィエはルーカスと共に舞踏会に参加できる事になった。
彼の隣に立っても不自然ではないように、ドレスを新調しなくては――と浮かれた考えが頭をよぎる。
「あの、ド……」
しかし、声を出した直後に後悔する。
まだ年端も行かない女児が誘拐されているかもしれないのに、喜ぶなんて大罪も同然だ。
オリヴィエは、喉元まで出掛かった台詞を咄嗟に呑み込んだ。
「いえ、何でもありません」
ルーカスは不思議そうに首を傾げていたが、深く追及しないでくれた。
「衣装についてはセルゲイに一任してある。だが、既製品でもサイズ合わせが必要だろうから、午後から街へ行ってこい。セルゲイが呼びに来る」
「そう、なんですね。ありがとうございます。……あの、団長は……?」
「俺は、ある程度サイズは把握している。当日まで、特に不自由はない」
ルーカスは、オリヴィエの衣装になど興味がないようだった。
それもそうだろう。彼はただの上司で、それ以上の関係ではないのだから。
それから、二人は事務的な会話をいくつか交わし、オリヴィエは退室した。
執務室を出ると、廊下でセルゲイが待っていた。
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