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選定式

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 だが、オリヴィエの心は晴れるどころかますます重くなる一方だ。

(もう……何もかもどうでも良い)

 聖女になる夢が潰えた今、何を失っても良かった。

 何もいらないから、このまま消えてしまいたい。

 そんな暗い気持ちにすらなる。

 その時だった――コンコンと、ドアがノックされた。

「オリヴィエ! 私だ。入るよ」

「お兄様……」

 入って来たのは、王都で聖騎士団に従騎士として所属している、兄・クリストファーだった。

「聞いたよ、聖女の判定が下りなかったそうだな。でも、気落ちする必要はない。父上が教皇に掛け合ってくれるそうだし、私も……面白い人物を連れて来たんだよ。だから、元気を出して」

「面白い人物……?」

 クリストファーは聖騎士団だ。

 騎士団の修練場は王城内にある。

(もしや……)

 もしや、客人とはルーカスではなかろうか?
 
 秘密裏に連れて来てくれたのでは?

 一縷の望みに、一瞬だけオリヴィエの芯に灯が戻る。

「どうぞ、お入りください」

「待って、お兄様。私、こんな格好で……」

 オリヴィエは身を強張らせた。

 しかし、入室したのは、期待外れの人物だった。

「こちらです。オルガノ様」

 その人物は、執事のピノーに手を引かれていた。

 深紫のローブを目深にかぶって、覚束ない足取りで、部屋に入って来る。

「どなたですの……?」

 その人物は、目が見えないらしかった。

 クリストファー自らベッドの脇へ椅子を運び、オルガノを導く。

 オリヴィエも寝そべってはいられない。

 寝間着ながら姿勢を正して、オルガノに向き合った。

 フードを取ると、オルガノはやはり、盲目のようだ。

 瞼を閉じている。

「ご機嫌いかがですか? お美しいレディ」

「初めまして、オルガノ様と仰るの? 貴方はいったい……?」

「オルガノ様はね、都でも有名な占い師だ。それに高名なお医者様でもある。先代の聖女様とも親交があったそうだ」

「それで……」

 オリヴィエは、兄が連れてきた客人の素性を聞いて納得した。

 それはそうとして、今は目が不自由なのに占いができるのだろうか? 

 訝しんでいると、オルガノはローブの袖の先から、細く節くれ立った指を伸ばした。

「レディ、お手に触れてもよろしいかな」

「オリヴィエです、オルガノ様」

 オルガノより先に、クリストファーが名を告げた。

 オリヴィエの手を取って、オルガノの手を導く。

 目の見えない者がどうやって病を治し、未来を占うのか。

 不思議でならないが、本来ならばそれなりに身分のあるクリストファーがここまで、誠意を尽くす相手だ。

 伊達や酔狂ではあるまい。
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