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選定式

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「はい。間違いありません」

 オリヴィエが頷くと、神官は祭壇から降りて、手にしている羊皮紙を読み上げていく。

「生年月日1073年8月16日、13歳……出身地シルバーモント領」

 神官は手元の紙にペンを走らせる。

(いよいよね)

 ドキドキと、胸が鳴る。オリヴィエは緊張を呑み込んで顔を上げた。

「それでは、聖女像の衣に触れてください」

 神官に促され、オリヴィエは頷いた。

 祭壇には等身大の聖女アイリス像が立っている。

 その頭上には臙脂の膜が下がっており、顔は隠されている。

 陶器の性質上、服装は定かではないが、ローブを纏っているようだ。

(ここに触れるだけでいいのよね?)

 オリヴィエは、祭壇に上がると、そろりと手を伸ばしてローブの裾に触れた。

(ん?)

 すると不思議なことに、触れた手から身体全体が眩い光に包まれた。

 それは聖堂全体に広がるほどの大きな光だった。

 まるで聖女アイリスの加護が降り注いでいるようだ――などとオリヴィエは思った。

 やがて、光が収まると、周囲の人々がざわめいた。

「え――……」

 光はしたものの、聖女像の衣には一切の変化がない。

 滑らかな陶器の肌は、照明の光をただ返すのみだ。

 まるで何の変化もない――オリヴィエは、呆然とした。

(まさか……)

 心臓が激しく脈打つ。そんな筈はないとわかっているが、その可能性が脳裏によぎる。

「これは……。今、確かに眩い光が満ちたような気が」

「しかし、この通り、衣の色は変化していませんぞ」

「確かに。では、判定は〝変化なし”ということで。次の方、どうぞ」

 神官は淡々と告げる。「変化なし」という言葉に、周囲から落胆の声が上がる。

「彼女が聖女じゃないのか……」

「じゃあ、残りの内の誰かってことか?」

「今回も、該当者はいないのか~」

(違う、何かの間違いよ)

 オリヴィエは心の中で否定した。

 全身から血の気が引いていくような、寒気がする。

 だが、結論は出ていた。判定は〝変化なし” だ。

「嘘……でしょ?」

 祭壇を降りても、現実を受け入れられない。

 私が聖女でないとしたら、いったい誰が?

 ルーカスと手を携えてこの国を守るのは、誰なの?

 次、また次にと壇上へ上がる少女たちに、茫然と目を向ける。

「オリヴィエ」

 シャルルが歩み寄ってくる。その手には、黄色の紙片がある。

 オリヴィエが取り落としたものを、拾ってくれたのだろう。

 シャルルはオリヴィエの肩を抱いたが、何の言も発さなかった。

 オリヴィエがどれほど聖女になる日を夢見ていたか、シャルルはよく知っている。

 どんな言葉も、慰めにならない。

 だから、ただ寄り添ってくれる。

 オリヴィエは泣き出したい気持ちを堪えた。

 泣くわけにはいかない。涙でシャルルの同情を買うようなことはしたくなかった。

(でも、私は、この国になくてはならない存在なのでしょう?)

 大勢の少女たちが祭壇に立ち、降りる。誰も彼も、緊張した面持ちで、次から次へとふるい落とされた。
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