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おあずけ

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「勿論全てご試着いただけますが、お召し替えにはお時間もご負担もかかります。閣下の見事なお見立ての中から数点、ご試着いただくものを奥様にお選びいただいてはいかがでしょうか?」

 なるほど。

 領主の無茶振りを否定せず、思いやる形で回避する。

 支配人の手腕に舌を巻くと同時に、シオンはホッと安堵した。

 確かにこの調子でドレスを選ばれたら、この店の品を買い占めかねない。

 シオンだって女子の1人だし、ドレスの試着なんて胸が躍るが、数による。

「ヴァイス、私は今まで用意してもらっていた服も気に入っていてまだまだ着たいから、そんなに沢山はいらないわ。ベッキー、足らないものだけを買い足したいんだけど、何が何着必要なのか教えてちょうだい」

 シオンは支配人を見習って、やんわりと要望を伝える。

 勢いを削がれたヴァイスは、しゅーんと目に見えて肩を落とした。

 しかし、思わぬところに伏兵が潜んでいた。

「そうですね。サラ様からは夜会用、サロン用のドレスを各4着以上、普段用のものを10着ほど、それぞれに合わせた小物とアクセサリー、が入り用と伺っております」

「そんなに……? 必要なくない?」

 無用な労力と出費を防ぎたかったのに、バッサリと否定したのはシオンが同意を期待していたべッキーだ。

「いいえ、今後社交で参加するパーティーや式典用に必要です。奥様はいつ王城に招かれてもおかしくないお立場ですし、夜会やお茶会などお誘いの申し出が続くかもしれません。その際の同席者に”あら、あのおドレス、あの時にもお召しだったわ”と、噂されるようなことになれば大公家、ひいては大公様が恥をかきます」

「そ、そうか……」

 シュニー城の使用人は一枚岩ではなかった。

 サラだけでなくベッキーも同じ見解のようだ。

 ヴァイスは早速、気を取り直して再度カタログに手を伸ばしている。

「ですが、奥様がデートの時間を気にされているのも充分承知しています。ですので、ドレス選びは効率良く、奥様の趣味にも合うよう、大公様の目に留まったものの中から吟味するのはいかがでしょう?」

(デートの時間を気にしているわけじゃないけど……)

 数ある中から、ヴァイスの観察眼によってふるいにかけてもらうのか。

 確かに効率は良さそうだ。

 胸中でごちながらも、シオンは素直に頷いた。

 勿体無い気持ちと散財することへの心苦しさは拭えないが、それがヴァイスの恥になるのなら、気にしても余計な気遣いだ。
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