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愛の証
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2人で広間を出ると、長い廊下は燭台の明かりに彩られていた。
回廊を抜けると、大きなガラス張りのドアがある。
「わあ……、本当に、とっても綺麗」
シオンは感嘆した。
日暮には室内に籠るので、夜の庭園に出たのは初めてだ。
城を取り囲むように咲き乱れる花々が淡い月明かりに照らされて、昼とは趣を異にしている。
「そうだな。だが、少し足元が頼りないか」
ヴァイスはシオンと繋いだ反対の手をすぅ、と持ち上げ、掌を上に向ける。
すると、庭園の道なりに、ぼぅ……と灯りが点った。
無数の蛍が、一斉に光を灯したような、幻想的な光景にシオンは息を呑む。
灯は小径に沿うように緩いカーブを描き、やがて庭園の奥へ続く一本道のように光の道となる。
「わぁ、素敵……! まるで夢を見ているみたい」
「ああ、綺麗だ。……俺は自分にこんな感情があるなんて、今まで知らなかった」
傍に佇むヴァイスが、なだらかに続く光の道を眺めて眩しそうに目を細めた。
「それって……?」
「誰かと並んで、何かを綺麗だと感じ、愛おしむ気持ちだ」
意外な言葉に、シオンは思わず真っ直ぐにヴァイスを見返した。
それって、どういう意味だろう?
今までに何かを綺麗だと感じたことがないのか。
愛おしんだことがないのか。
ヴァイスの表情が乏しいことには気づいていたし、幼少期から孤独だったと聞かされて知った。
けれど……そこまで決定的に、ヴァイスの情緒が欠落しているとは思い至らなかった。
夜風が吹き抜けて、編み込まれたシオンの後毛をふわりと一筋巻き上げる。
「初めて綺麗だと思ったのは、あの日だ。召喚したシオンを抱き留めた時、俺はこの世の理に触れたと思った。妻にすればこの人が俺の伴侶となり生涯そばにいてくれるのだと、舞い上がった」
肩が触れ合うほどの距離で、ヴァイスは儚げに微笑んだ。
「だから、シオンの気持ちを蔑ろにしてしまった。俺は、シオンに謝りたい」
ヴァイスは、繋いだ手はそのままに、おもむろに片膝を付いた。
騎士が貴婦人の手を取り、忠誠を誓うように手の甲に額を伏せる。
「リラが自分の子だと、嘘をついていて悪かった。シオンの気持ちも考えず、強引に妻にして、すまなかった。俺は、自分の幸せばかりを追い、シオンの幸福を無視していた。俺は不誠実だ」
急な行動と謝罪の内容に、シオンは動転した。
言葉の意味を理解できないほどではないが、そこまで深刻に事態を発展させたヴァイスに驚きを隠せない。
ヴァイスは良く言えば純粋で、悪く言えば、その分極端だ。
嘘をついた事実に変わりはないけれど、ヴァイスには理由があった。
自分ではなく、兄ネンゲルのための嘘だ。
兄弟の子を引き取って自分の子として育てるなんて、普通は並大抵の覚悟じゃできない。
その嘘を守るために、ヴァイスの支払った代償は大きい。
シオンに「浮気男」と詰られ、不利益を被ったのもそのせいだし、それに……。
(真実を打ち明けて、私に口止めをする機会なら、いくらでもあった。でも、ヴァイスはしなかった)
その手段を取らなかったのは、不誠実だからではない。
約束を果たそうとする、誠実さからだ。
回廊を抜けると、大きなガラス張りのドアがある。
「わあ……、本当に、とっても綺麗」
シオンは感嘆した。
日暮には室内に籠るので、夜の庭園に出たのは初めてだ。
城を取り囲むように咲き乱れる花々が淡い月明かりに照らされて、昼とは趣を異にしている。
「そうだな。だが、少し足元が頼りないか」
ヴァイスはシオンと繋いだ反対の手をすぅ、と持ち上げ、掌を上に向ける。
すると、庭園の道なりに、ぼぅ……と灯りが点った。
無数の蛍が、一斉に光を灯したような、幻想的な光景にシオンは息を呑む。
灯は小径に沿うように緩いカーブを描き、やがて庭園の奥へ続く一本道のように光の道となる。
「わぁ、素敵……! まるで夢を見ているみたい」
「ああ、綺麗だ。……俺は自分にこんな感情があるなんて、今まで知らなかった」
傍に佇むヴァイスが、なだらかに続く光の道を眺めて眩しそうに目を細めた。
「それって……?」
「誰かと並んで、何かを綺麗だと感じ、愛おしむ気持ちだ」
意外な言葉に、シオンは思わず真っ直ぐにヴァイスを見返した。
それって、どういう意味だろう?
今までに何かを綺麗だと感じたことがないのか。
愛おしんだことがないのか。
ヴァイスの表情が乏しいことには気づいていたし、幼少期から孤独だったと聞かされて知った。
けれど……そこまで決定的に、ヴァイスの情緒が欠落しているとは思い至らなかった。
夜風が吹き抜けて、編み込まれたシオンの後毛をふわりと一筋巻き上げる。
「初めて綺麗だと思ったのは、あの日だ。召喚したシオンを抱き留めた時、俺はこの世の理に触れたと思った。妻にすればこの人が俺の伴侶となり生涯そばにいてくれるのだと、舞い上がった」
肩が触れ合うほどの距離で、ヴァイスは儚げに微笑んだ。
「だから、シオンの気持ちを蔑ろにしてしまった。俺は、シオンに謝りたい」
ヴァイスは、繋いだ手はそのままに、おもむろに片膝を付いた。
騎士が貴婦人の手を取り、忠誠を誓うように手の甲に額を伏せる。
「リラが自分の子だと、嘘をついていて悪かった。シオンの気持ちも考えず、強引に妻にして、すまなかった。俺は、自分の幸せばかりを追い、シオンの幸福を無視していた。俺は不誠実だ」
急な行動と謝罪の内容に、シオンは動転した。
言葉の意味を理解できないほどではないが、そこまで深刻に事態を発展させたヴァイスに驚きを隠せない。
ヴァイスは良く言えば純粋で、悪く言えば、その分極端だ。
嘘をついた事実に変わりはないけれど、ヴァイスには理由があった。
自分ではなく、兄ネンゲルのための嘘だ。
兄弟の子を引き取って自分の子として育てるなんて、普通は並大抵の覚悟じゃできない。
その嘘を守るために、ヴァイスの支払った代償は大きい。
シオンに「浮気男」と詰られ、不利益を被ったのもそのせいだし、それに……。
(真実を打ち明けて、私に口止めをする機会なら、いくらでもあった。でも、ヴァイスはしなかった)
その手段を取らなかったのは、不誠実だからではない。
約束を果たそうとする、誠実さからだ。
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