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愛の証

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「用意してくれて嬉しいけど、こんなに、食べきれないよ……」

「好きなものを、好きなだけでいいんだ。俺は今までシオンに何もしてあげられなかった。嫌でないなら、始めよう」

「嫌だなんて、滅相もない! ただ、もったいなくて」

 どうして、この国の人たちはこんなふうにシオンを大切に扱ってくれるのだろう。

 シオンだって、ヴァイスに何かしてあげられているとは思えない。

 口答えばかりで、突き放して。

 可愛くない態度を取り続けてきた。

 シオンが否定すれば、食前酒の給仕はトラリオがしてくれて、2人だけの晩餐が始まった。

 男性と2人で、こんなにお洒落なディナーを食べるなんて初めてで、乾杯だけでもまた、緊張した。

 グラスを傾けた一瞬、”そういえば、私もヴァイスも19歳だわ”などと無粋な常識が頭を掠めたが、速やかに追いやる。

 こちらのお国では関係なさそうだ。

 グラスを合わせて乾杯すると、ルビーのような色合いの液体がグラスの中でくるりと弧を描く。

 こくりと飲み干すと、芳醇な葡萄の味わいが口いっぱいに広がった。

「美味しい……!」

 ヴェーシュのサロンでは飲み損ねたが、こんなに美味しいものだなんて。

 ジュースのようなのに、えも言われぬコクがある。

 苦味も酸味もあるのに、口から消えるともっと欲しくなるくらいで、バランスが絶妙だ。

「気に入ってもらえて良かった。どんどん飲むといい。トラリオ」

 ヴァイスもグラスを空にして、シオンの感想に嬉しそうだ。

 ボトルを受け取って、ヴァイス自らグラスにお代わりを注いでくれる。

「わ、ありがとう。じゃあ、私も」

 互いにお酌し合って、少しずつ緊張が解ける。

 本来なら上流貴族のマナーに違反しているだろうけれど、トラリオたち家人は温かく見守ってくれた。

「料理も取り分けてもらおう。どれから食べる?」

「順番とか、決まってないの?」

「シオンの好きでいい。何から食べるのか興味がある。シオンは何が好きなんだ?」

「私? うーん……。じゃあ、この、テリーヌ?」

 手前にあった肉の冷菜が目に留まったので指差すと、ヴァイスは給仕を呼んで取り分けてくれた。

 そういえば、互いの好みも、まだよく知らない。

「ヴァイスは何が好きなの?」

「俺は特に……いつもなら端から順に食べて、腹が満ちたらそれで満足していた」

 そう来るか。……いいや、実は少し予想していた。

 数回の食事風景で、既にヴァイスにはそんな節が見られたから。

「だが……俺も好物を作ろうと思う。シオンと食事を楽しみたいから」

 しかし、前向きな言葉が出て、嬉しくなった。

「それがいいわ。じゃあ、これ、食べてみようよ。ローストビーフみたいなのも。それとあれ……」

「肉料理ばかりだ。シオンは肉が好きなんだな」

「あっ……」

 ふっ、とヴァイスが無造作に笑い、シオンの好みを言い当てる。

「これじゃあお行儀が悪いわね。お野菜も食べなきゃ」

「いいんだ、続けてくれ。俺にも、同じものを」

 くすくすとヴァイスが笑う。

「野菜も、下さい! バランスよく食べましょう」

 恥ずかしくなって、シオンは白身魚のマリネも皿に取ってもらった。
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