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愛の証
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「坊っちゃま、奥様が到着されましたよ」
ほっほっ、と声を出して微笑むトラリオの声で、シオンはハッと我に返る。
「さあ、どうぞお言葉を」
「済まない。つい、見惚れてしまった。シオンがあまりに美しすぎて」
「そんな。褒めすぎよ……。それを言うなら、ヴァイスのほうが何倍も綺麗……」
気恥ずかしさと、目の毒になりそうな美貌から目を逸らすように、差し出された手に掌を乗せる。
自分でも普段より綺麗にしてもらった自負はあるが、それでも本気でめかし込んだヴァイスには遠く及ばない。
「いいや、他に讃える言葉を知らないなんて、つくづく俺は、至らない夫だ。これからはもっと努力する」
口下手な部分を反省してるって?
「いいっ、必要ないって。いや、私こそ口が悪くてごめんなさい。……ヴァイスはそのままで、今のままがいいよ」
シオンはおっかなびっくり、ヴァイスを見返した。
うっかり直視したら、胸が騒いで落ち着かなくなるので、そこはチラ見に留める。
「ありがとう。シオンは美しさだけでなく優しさも備えているんだったな。こんな女性を妻にできて、俺は幸せ者だ」
単に現状維持を推奨しただけなのに、こんなに褒めちぎられると余計に居た堪れない。
「仲がよろしくて大変結構なのですが、晩餐はこれからですよ」
トラリオに促され、ヴァイスはシオンの手を自分の肘に掛けさせる。
腕が触れ合う距離になって、益々身体が熱くなる。
2人が並んで階に立つと、それが合図となって、楽団が演奏を始めた。
予め決められていた音楽なのか、舞踏の始まりを告げる曲だ。
一段一段、踏みしめて降りるたびに、広間の中心にあるシャンデリアが、四方にある灯の光を受けて煌めく。
「わあ……!」
煌びやかな晩餐の会場に、シオンの口から思わず感嘆の声が漏れた。
白いクロスを掛けた長テーブルには模様の彫り込まれた燭台と、活けられた花々、とても2人では食べきれそうもない量の料理と、銀の食器が並んでいる。
その一瞬は、ヴァイスの存在よりも会場の華々しさのほうがシオンの頭を占拠した。
楽団の前を悠々と横切り、席へ案内されて、腰を下ろす。
「気に入ってくれたか?」
「気に入るも何も、こんなご馳走……!」
目の前の皿には、白身魚のマリネなどのオードブル、ローストビーフのような冷たい肉料理、野菜を包んだ前菜から、タルトなどの洋菓子、デザートの果物まで並んでいる。
いつも一汁一菜以上の食卓で、充分に有難いと感じていたのに、このおもてなしの迫力には圧倒される。
まるで映画に出てくるワンシーンのようだ。
ほっほっ、と声を出して微笑むトラリオの声で、シオンはハッと我に返る。
「さあ、どうぞお言葉を」
「済まない。つい、見惚れてしまった。シオンがあまりに美しすぎて」
「そんな。褒めすぎよ……。それを言うなら、ヴァイスのほうが何倍も綺麗……」
気恥ずかしさと、目の毒になりそうな美貌から目を逸らすように、差し出された手に掌を乗せる。
自分でも普段より綺麗にしてもらった自負はあるが、それでも本気でめかし込んだヴァイスには遠く及ばない。
「いいや、他に讃える言葉を知らないなんて、つくづく俺は、至らない夫だ。これからはもっと努力する」
口下手な部分を反省してるって?
「いいっ、必要ないって。いや、私こそ口が悪くてごめんなさい。……ヴァイスはそのままで、今のままがいいよ」
シオンはおっかなびっくり、ヴァイスを見返した。
うっかり直視したら、胸が騒いで落ち着かなくなるので、そこはチラ見に留める。
「ありがとう。シオンは美しさだけでなく優しさも備えているんだったな。こんな女性を妻にできて、俺は幸せ者だ」
単に現状維持を推奨しただけなのに、こんなに褒めちぎられると余計に居た堪れない。
「仲がよろしくて大変結構なのですが、晩餐はこれからですよ」
トラリオに促され、ヴァイスはシオンの手を自分の肘に掛けさせる。
腕が触れ合う距離になって、益々身体が熱くなる。
2人が並んで階に立つと、それが合図となって、楽団が演奏を始めた。
予め決められていた音楽なのか、舞踏の始まりを告げる曲だ。
一段一段、踏みしめて降りるたびに、広間の中心にあるシャンデリアが、四方にある灯の光を受けて煌めく。
「わあ……!」
煌びやかな晩餐の会場に、シオンの口から思わず感嘆の声が漏れた。
白いクロスを掛けた長テーブルには模様の彫り込まれた燭台と、活けられた花々、とても2人では食べきれそうもない量の料理と、銀の食器が並んでいる。
その一瞬は、ヴァイスの存在よりも会場の華々しさのほうがシオンの頭を占拠した。
楽団の前を悠々と横切り、席へ案内されて、腰を下ろす。
「気に入ってくれたか?」
「気に入るも何も、こんなご馳走……!」
目の前の皿には、白身魚のマリネなどのオードブル、ローストビーフのような冷たい肉料理、野菜を包んだ前菜から、タルトなどの洋菓子、デザートの果物まで並んでいる。
いつも一汁一菜以上の食卓で、充分に有難いと感じていたのに、このおもてなしの迫力には圧倒される。
まるで映画に出てくるワンシーンのようだ。
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