74 / 131
異変
8
しおりを挟む
「何を愚かな。カルロの判定が真実なら、お前は正真正銘の招かれざる客だ。解放などするものか。この目で判定を確認次第、消えてもらう」
「早く外しなさい。リラはどこかって聞いてるの!」
「何たる口の聞き方か。これだから下賎な民は」
マグヌスはカルロの手を借りながら立ち上がると、大仰に眉を顰めた。
どうにもシオンを見下したいらしい。
こちらの意を1ミリも顧みない高慢な態度と、募る危機感に、とうとうシオンの堪忍袋の緒が切れた。
「うっさい、このクソジジイ! 鎖を外せって言ってんのよ! 耄碌しすぎて理解できない? この、ボケ!」
「な、な……!? こ、の」
マグヌスは顔を真っ赤に染めた。怒りで言葉にならないようだ。
「シュニー夫人、これ以上の侮辱は聞き捨てなりません。苦しみたくないなら大人しくしていてください」
「外せって言ってるのに、話が通じないのね、アンタたちは! 脅して言うなりになるとでも思うの!? やれるもんならやってみな」
「おのれ、不遜な!」
カルロまで肩を怒らせ、シオンに向かい手を翳した。
それが魔術の発動動作なのは、もう分かり切っている。
どの形式で攻撃を仕掛けるのかと身構えると、身に掛かる負荷で先ほどと同じで空気を圧縮する魔術だとわかった。
空気の圧縮は原子密度の操作に拠る。
シオンの知識はまだ初級レベルで、基礎の原理を理解したに過ぎない。
けれど、実際に一度その攻撃を喰らい、身体で学習している。
シオンは重たい鎖ごと、自身の右手を突き出した。
グッ、と掌にカルロの術式の核が触れる。
掌にかかる圧を、握り込む。
まるでーー蜜柑のように柔らかな果実のような感触だ。
「こんなんで私を倒そうと? 思ったより軽いわね」
掌に力を込めると、柔らかな果実が果汁を迸らせるようにして、核が弾けて散った。
「ばっ、馬鹿な」
「どうしたカルロ、そのような小娘に後れを取るなど」
「申し訳ありません。しかし、これは……」
カルロは呆然と自分とシオンの手を見比べた。
霧散した魔力を再び取り戻そうとしているが、シオンは拳を解かない。
魔力の質量が物を言うなら、絶対に手は緩めない。
「ええい、情けない。このような小物相手に手こずるとは。ならば私が直々に罰を下してやる」
カルロが制裁をしくじっても、拘束されているからかマグヌスは安易に前に出た。
手近にあった燭台を取る。
「待、お待ち下さい! 教皇様」
あんな物で殴れば、確実にシオンの頭は粉砕される。
消すなどと物騒な発言からして、本気でシオンを亡き者にするつもりらしい。
「神の代理人たるこの私を侮辱するなど、万死に値する。我が神の鉄槌を受けるがいい!」」
マグヌスは燭台を振り上げ、シオンに狙いを定めた。
「早く外しなさい。リラはどこかって聞いてるの!」
「何たる口の聞き方か。これだから下賎な民は」
マグヌスはカルロの手を借りながら立ち上がると、大仰に眉を顰めた。
どうにもシオンを見下したいらしい。
こちらの意を1ミリも顧みない高慢な態度と、募る危機感に、とうとうシオンの堪忍袋の緒が切れた。
「うっさい、このクソジジイ! 鎖を外せって言ってんのよ! 耄碌しすぎて理解できない? この、ボケ!」
「な、な……!? こ、の」
マグヌスは顔を真っ赤に染めた。怒りで言葉にならないようだ。
「シュニー夫人、これ以上の侮辱は聞き捨てなりません。苦しみたくないなら大人しくしていてください」
「外せって言ってるのに、話が通じないのね、アンタたちは! 脅して言うなりになるとでも思うの!? やれるもんならやってみな」
「おのれ、不遜な!」
カルロまで肩を怒らせ、シオンに向かい手を翳した。
それが魔術の発動動作なのは、もう分かり切っている。
どの形式で攻撃を仕掛けるのかと身構えると、身に掛かる負荷で先ほどと同じで空気を圧縮する魔術だとわかった。
空気の圧縮は原子密度の操作に拠る。
シオンの知識はまだ初級レベルで、基礎の原理を理解したに過ぎない。
けれど、実際に一度その攻撃を喰らい、身体で学習している。
シオンは重たい鎖ごと、自身の右手を突き出した。
グッ、と掌にカルロの術式の核が触れる。
掌にかかる圧を、握り込む。
まるでーー蜜柑のように柔らかな果実のような感触だ。
「こんなんで私を倒そうと? 思ったより軽いわね」
掌に力を込めると、柔らかな果実が果汁を迸らせるようにして、核が弾けて散った。
「ばっ、馬鹿な」
「どうしたカルロ、そのような小娘に後れを取るなど」
「申し訳ありません。しかし、これは……」
カルロは呆然と自分とシオンの手を見比べた。
霧散した魔力を再び取り戻そうとしているが、シオンは拳を解かない。
魔力の質量が物を言うなら、絶対に手は緩めない。
「ええい、情けない。このような小物相手に手こずるとは。ならば私が直々に罰を下してやる」
カルロが制裁をしくじっても、拘束されているからかマグヌスは安易に前に出た。
手近にあった燭台を取る。
「待、お待ち下さい! 教皇様」
あんな物で殴れば、確実にシオンの頭は粉砕される。
消すなどと物騒な発言からして、本気でシオンを亡き者にするつもりらしい。
「神の代理人たるこの私を侮辱するなど、万死に値する。我が神の鉄槌を受けるがいい!」」
マグヌスは燭台を振り上げ、シオンに狙いを定めた。
125
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

間違えられた番様は、消えました。
夕立悠理
恋愛
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる