62 / 131
お茶会
11
しおりを挟む
こちらのお国は多分、貞操観念が強い。
日本でも過去には女性の純潔が重要視されている時代があった。
それに現代の日本でだって、出会って1、2ヶ月で……はそうないのではなかろうか。
「違うのよ、シオン。責めてるわけじゃないの。私こそ不躾でごめんなさい。ただ、女性同士のほうが話しやすいこともあるでしょう。選択肢のない状況で結婚を強いられて、貴女が辛い思いをしていないか……気になっていたの。私の思い過ごしならいいのだけど」
ヴェーシュはシオンの葛藤を察し、慌てて言葉を継いだ。
「辛いこと……」
その言葉に、シオンはピタリと固まった。
ヴェーシュはシオンを深く気遣ってくれていたのだ。
シオンがヴァイスと結ばれた経緯を、ヴェーシュはネンゲルから聞いているだろう。
ヴァイスは妻にするため、自分に並ぶ魔力を持つ女性を異世界から召喚した。
その女性がシオンだ。
ヴァイスはシオンを大変気に入り、密かに囲い、恋仲になった。
そうしている間に子をなし、出産を機に正式に王室に報告し、子の存在を盾に結婚を承諾させた。
シオンはヴェーシュの心配を的確に悟って、ごくりと唾を飲む。
(今まで誰も触れなかったからスルーしてたけど、やっぱりそうだよね。普通に考えれば、ヴァイス、すっごいヤバイ奴だ)
捉え方によっては、「拉致・監禁・陵辱」と三拍子揃った、立派な犯罪案件だ。
拉致・監禁は近からず遠からずである。
もしもシュニー城の人たちが優しくなかったら、シオンは絶望のどん底に叩き落とされていただろう。
ふと想像して、ゾッと怖気がした。
だが、それと同時にこの一月、自分がどれだけ恵まれて幸せに過ごしていたのかを思い知った。
突然故郷と離別して、丸きりの新生活に飛び込んだのに、シオンは毎日が楽しくて仕方なかった。
悲惨だった過去を思い出す間もないくらいに。
……それは突き詰めれば、ひとえにヴァイスのお陰だ。
(ヴァイスの名誉のためにも、そこは、否定しておかないと)
「ヴェーシュ様。お気遣いいただきありがとうございます。確かに最初は戸惑いましたが、辛いと思ったことは一度もありません」
「本当?」
「はい」
シオンはしっかりとヴェーシュの目を見て頷いた。
「ヴァイスは、その……常識破りで、強引なので、何を考えてるのか分からなくて不安になる時もあります。けど、根はとても生真面目で優しい人なんじゃないかと、感じるようになって」
「そうなの。それで、ヴァイスを好きになったの?」
ヴェーシュはシオンを見つめ返し、探るように尋ねた。
「は……い、そんなところです」
好きかと問われ、急に恥ずかしくなる。
何となく身体が火照るような気がして、誤魔化すように頬を掻いた。
良いタイミングで侍女が戻ってきて、カップに紅茶を注いでくれる。
日本でも過去には女性の純潔が重要視されている時代があった。
それに現代の日本でだって、出会って1、2ヶ月で……はそうないのではなかろうか。
「違うのよ、シオン。責めてるわけじゃないの。私こそ不躾でごめんなさい。ただ、女性同士のほうが話しやすいこともあるでしょう。選択肢のない状況で結婚を強いられて、貴女が辛い思いをしていないか……気になっていたの。私の思い過ごしならいいのだけど」
ヴェーシュはシオンの葛藤を察し、慌てて言葉を継いだ。
「辛いこと……」
その言葉に、シオンはピタリと固まった。
ヴェーシュはシオンを深く気遣ってくれていたのだ。
シオンがヴァイスと結ばれた経緯を、ヴェーシュはネンゲルから聞いているだろう。
ヴァイスは妻にするため、自分に並ぶ魔力を持つ女性を異世界から召喚した。
その女性がシオンだ。
ヴァイスはシオンを大変気に入り、密かに囲い、恋仲になった。
そうしている間に子をなし、出産を機に正式に王室に報告し、子の存在を盾に結婚を承諾させた。
シオンはヴェーシュの心配を的確に悟って、ごくりと唾を飲む。
(今まで誰も触れなかったからスルーしてたけど、やっぱりそうだよね。普通に考えれば、ヴァイス、すっごいヤバイ奴だ)
捉え方によっては、「拉致・監禁・陵辱」と三拍子揃った、立派な犯罪案件だ。
拉致・監禁は近からず遠からずである。
もしもシュニー城の人たちが優しくなかったら、シオンは絶望のどん底に叩き落とされていただろう。
ふと想像して、ゾッと怖気がした。
だが、それと同時にこの一月、自分がどれだけ恵まれて幸せに過ごしていたのかを思い知った。
突然故郷と離別して、丸きりの新生活に飛び込んだのに、シオンは毎日が楽しくて仕方なかった。
悲惨だった過去を思い出す間もないくらいに。
……それは突き詰めれば、ひとえにヴァイスのお陰だ。
(ヴァイスの名誉のためにも、そこは、否定しておかないと)
「ヴェーシュ様。お気遣いいただきありがとうございます。確かに最初は戸惑いましたが、辛いと思ったことは一度もありません」
「本当?」
「はい」
シオンはしっかりとヴェーシュの目を見て頷いた。
「ヴァイスは、その……常識破りで、強引なので、何を考えてるのか分からなくて不安になる時もあります。けど、根はとても生真面目で優しい人なんじゃないかと、感じるようになって」
「そうなの。それで、ヴァイスを好きになったの?」
ヴェーシュはシオンを見つめ返し、探るように尋ねた。
「は……い、そんなところです」
好きかと問われ、急に恥ずかしくなる。
何となく身体が火照るような気がして、誤魔化すように頬を掻いた。
良いタイミングで侍女が戻ってきて、カップに紅茶を注いでくれる。
131
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる