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お茶会

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 そこまで気にかけてもらわなくても、と言い掛けた途中でヴェーシュがグラスを高く持ち上げ、乾杯の音頭をとった。

 邪魔をするほどの発言ではないので、引っ込める。

「本日は私の主催する親睦会にようこそお越し下さいました。ささやかですが、楽しい時間をお過ごしください。それでは、栄えあるエルデガリアの未来に、乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

 ヴェーシュがグラスを高く掲げると、他の夫人たちもそれに倣って唱和した。

 シオンも慌ててグラスを掲げると、皆の笑顔が一斉に自分に注がれるのを感じた。





 ***





 会が始まって約1時間。

 最初は緊張していたシオンだったが、次第に打ち解けて、全体を把握しつつも会話を楽しむ余裕が出てきた。

 未婚の令嬢たちの中には胡乱な目を向ける者も数名いたが、夫人方は概ね好意的な態度で接してくれた。

 懸念していたシャルロットも、王太子妃の目の前で騒ぎを起こす気はないらしい。

 それでも”社交界は魑魅魍魎の騙し合い”とサラから忠告を受けたため、好意を全面的に信用したわけではない。

 一歩引いて3者的な目で見ると、彼女らの態度に夫とヴァイスとの関係性が垣間見える気がした。

(そりゃあ、夫の上役の奥様だもんね。表立って敵視はされないってわけだ)

 今まで下っ端中の下っ端だったので、気にする必要もなかったが、立場がある人はそれなりに、社交場での立ち回りが必要らしい。

 そんな中、途中で促され、リラを紹介した。

「まあ! なんて愛らしいのでしょう!」

「本当にお可愛らしいわ。将来が楽しみですわね」

 夫人たちは口々に褒めそやすと、代わる代わる抱っこを申し出てくれた。

「まあ、この軽さ。家の子はもう5歳になりますの。赤子だった頃が懐かしいわ」

「小さくても器量良しのお嬢様ですわね。お目々がぱっちりして、綺麗な翡翠の色味。直接お目に掛かったことはないのですけど、大公閣下譲りなのかしら」

「か、もしれません、ね。まだ小さいからこれから変わっていくのかも……」

 触れられたくない話題に、シオンは曖昧な言葉で濁す。

 こればかりはどうにもならない。

 ヴァイスに似れば瞳はブルーになるはずだけれど、母親の遺伝子によって起きる変化は計れない。

 その女性の身体的特徴がシオンと似通っていれば良いのだけど。

 と、考えたところで、シオンは胸に澱が沈むような不快感を覚えた。

「大公閣下の瞳は澄んだサファイアのようなアイスブルーですわ、ソーラ様」

 穏やかな歓談の場に、すいとシャルロットが割り込んできた。

「そういえば、シャルロット嬢は大公閣下とご親戚でしたわね」

「はい。閣下とは従兄弟同士ですの。小さい頃から憧れて育ちましたので、閣下のご容姿は目を閉じていても思い出せます。ですからお心を射止めた夫人が羨ましいですわ。私にも魔力があればチャンスがあったかもしれませんのに」

「まあ。シャルロット嬢、お若いとはいえ、その発言ははしたなくてよ」

「素直さは美徳ですけれど、時と場所をわきまえなくてはね」

 シャルロットの介入に、手前でリラを抱いていた伯爵夫人ーーソーラ・コルストと、同じくクラリス・ミディアがやんわりとたしなめた。

 シオンならこの、あからさまな嫌味に憤慨し、閉口するだけのところだ。

 シャルロットの面子も保ちつつ、ちくりと忠告するのだから、嫋やかな微笑みを浮かべているが、2人とも相当にこなれている。

 なるほど、社交場とはこういうものか。
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