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お茶会

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 一方のシオンは、王城の離れにある庭園のサロンで手厚いもてなしを受けていた。

 シュニー城の庭園も美しいが、ヴェーシュのこの庭園は目を見張るものがある。

 国賓をもてなすために、代々の王妃が丹誠込めて作り上げた庭園は、異国のシオンから見ても見事だった。

 色とりどりの花々が咲き誇り、季節の草花が織りなすグラデーションの絨毯は目が眩むほど美しい。

 この一画でずっと過ごしていたいと思わせる魅力がある。

「さあ皆様、もうご存知だとは思いますけど、今日の主賓をご紹介しますわ。シュニー太公夫人のシオンよ、どうぞこちらへ」

 繊細な茶菓子と8客ばかり揃った華やかなティーカップの並んだテーブルには、既に招待客が揃っていた。

 それぞれの国の高位貴族の夫人や令嬢ばかりだと聞いている。

 その中には先日一悶着あった、シャルロット・アジュール公爵令嬢の姿もあった。

「日頃、私たち既婚者とお若いご令嬢とは交流があまりないでしょう? 今日は気兼ねなく、ご婦人同士で楽しい時間を過ごしましょうね」

 ヴェーシュはにこやかに微笑むと、シオンに椅子を勧めた。

「ありがとうございます。本日はお招きいただき光栄です」

 シオンが挨拶をすると、席についていた夫人たちはパチパチと拍手で歓迎してくれた。

 ヴェーシュは王太子妃と呼ぶに相応しく、天使のような外見の持ち主だった。

 控えめに輝くブロンドは緩く波打っていて、瞳は深い海の色だ。

「シオン、よく来てくれたわ。さ、座ってちょうだい。今日はね、貴女のお話をたくさん聞かせて欲しいのよ」

 ヴェーシュは嬉しそうに微笑むと、自分の隣の席に促した。

「私の?」

「ええ。だって、私はずっと貴女がどんな人なのか知りたかったんですもの。異国からいらしたのでしょう? 皆様もお聞きになりたいわよね?」

 ずらりと並んだ爽やかな装いの淑女の皆様方が、一様に頷いた。

「あの、私の話なんて……皆様のように面白いお話など何も。今日は皆様の社交場を見学させて頂くつもりで参りましたので、会が始まりましたらどうぞご放念下さい……」

 注目を浴び慣れないので、ゴニョゴニョと尻窄みになりながら視線を避けるように席についた。

(サラが言う通りだった。皆、すっごい気合入ってる)

 サロンといってもお茶会でしょう? そこまで飾らなくても。と反論したシオンを、女中頭のサラがキッパリ嗜めてくれた。

「何を仰います。王太子妃のサロンには上位貴族ばかりが集います。そこへ来て奥様は初めてのお目見えなのですからデビュタントも同様。大公様のご威光を示すためにも、お召し物から装飾品に至るまで最高級でなくては。とはいえ申し訳ないことに3日ではこの程度しかご用意できず、申し訳ありません」

 サラは謝りながらも、シオンを完璧な淑女に仕立ててくれた。

 髪は既婚女性らしく丁寧に結い上げて、メイクは薄化粧で控えめに。

 ドレスはサラの見立てで、白地に青紫の刺繍とビジューが散りばめられた上品かつ華やかな意匠だ。

 今朝はヴァイスとの悶着もあり、なかなか浮いた気持ちになれなかったが、従っておいて良かった。

「謙遜する必要はないのに。では先ずは会を始めましょう」

 ヴェーシュが合図をすると、控えていた女官たちがグラスを配って回った。

 グラスの中身は琥珀色に輝いて、ふつふつと気泡が上がってきている。

「シオンのグラスはシャンパンではなく、炭酸の入ったジュースだから安心してね? リラへの授乳があるでしょう」

 合間にこっそりとヴェーシュが耳打ちしてくれる。

 王太子妃といえば身分は最上なのに、ホストの気遣いに痛み入る。

「リラはミルクで育ててるんです。私、その……出ない体質なので。でも、有り難く頂戴します。よく冷えて美味しそう」

「あら、そうだったの。では後でもう1杯持ってこさせるわ」

 ちょっとだけ驚いたようにヴェーシュは目を瞠ったが、すぐに微笑で覆い隠した。
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