57 / 131
お茶会
6
しおりを挟む
一方のシオンは、王城の離れにある庭園のサロンで手厚いもてなしを受けていた。
シュニー城の庭園も美しいが、ヴェーシュのこの庭園は目を見張るものがある。
国賓をもてなすために、代々の王妃が丹誠込めて作り上げた庭園は、異国のシオンから見ても見事だった。
色とりどりの花々が咲き誇り、季節の草花が織りなすグラデーションの絨毯は目が眩むほど美しい。
この一画でずっと過ごしていたいと思わせる魅力がある。
「さあ皆様、もうご存知だとは思いますけど、今日の主賓をご紹介しますわ。シュニー太公夫人のシオンよ、どうぞこちらへ」
繊細な茶菓子と8客ばかり揃った華やかなティーカップの並んだテーブルには、既に招待客が揃っていた。
それぞれの国の高位貴族の夫人や令嬢ばかりだと聞いている。
その中には先日一悶着あった、シャルロット・アジュール公爵令嬢の姿もあった。
「日頃、私たち既婚者とお若いご令嬢とは交流があまりないでしょう? 今日は気兼ねなく、ご婦人同士で楽しい時間を過ごしましょうね」
ヴェーシュはにこやかに微笑むと、シオンに椅子を勧めた。
「ありがとうございます。本日はお招きいただき光栄です」
シオンが挨拶をすると、席についていた夫人たちはパチパチと拍手で歓迎してくれた。
ヴェーシュは王太子妃と呼ぶに相応しく、天使のような外見の持ち主だった。
控えめに輝くブロンドは緩く波打っていて、瞳は深い海の色だ。
「シオン、よく来てくれたわ。さ、座ってちょうだい。今日はね、貴女のお話をたくさん聞かせて欲しいのよ」
ヴェーシュは嬉しそうに微笑むと、自分の隣の席に促した。
「私の?」
「ええ。だって、私はずっと貴女がどんな人なのか知りたかったんですもの。異国からいらしたのでしょう? 皆様もお聞きになりたいわよね?」
ずらりと並んだ爽やかな装いの淑女の皆様方が、一様に頷いた。
「あの、私の話なんて……皆様のように面白いお話など何も。今日は皆様の社交場を見学させて頂くつもりで参りましたので、会が始まりましたらどうぞご放念下さい……」
注目を浴び慣れないので、ゴニョゴニョと尻窄みになりながら視線を避けるように席についた。
(サラが言う通りだった。皆、すっごい気合入ってる)
サロンといってもお茶会でしょう? そこまで飾らなくても。と反論したシオンを、女中頭のサラがキッパリ嗜めてくれた。
「何を仰います。王太子妃のサロンには上位貴族ばかりが集います。そこへ来て奥様は初めてのお目見えなのですからデビュタントも同様。大公様のご威光を示すためにも、お召し物から装飾品に至るまで最高級でなくては。とはいえ申し訳ないことに3日ではこの程度しかご用意できず、申し訳ありません」
サラは謝りながらも、シオンを完璧な淑女に仕立ててくれた。
髪は既婚女性らしく丁寧に結い上げて、メイクは薄化粧で控えめに。
ドレスはサラの見立てで、白地に青紫の刺繍とビジューが散りばめられた上品かつ華やかな意匠だ。
今朝はヴァイスとの悶着もあり、なかなか浮いた気持ちになれなかったが、従っておいて良かった。
「謙遜する必要はないのに。では先ずは会を始めましょう」
ヴェーシュが合図をすると、控えていた女官たちがグラスを配って回った。
グラスの中身は琥珀色に輝いて、ふつふつと気泡が上がってきている。
「シオンのグラスはシャンパンではなく、炭酸の入ったジュースだから安心してね? リラへの授乳があるでしょう」
合間にこっそりとヴェーシュが耳打ちしてくれる。
王太子妃といえば身分は最上なのに、ホストの気遣いに痛み入る。
「リラはミルクで育ててるんです。私、その……出ない体質なので。でも、有り難く頂戴します。よく冷えて美味しそう」
「あら、そうだったの。では後でもう1杯持ってこさせるわ」
ちょっとだけ驚いたようにヴェーシュは目を瞠ったが、すぐに微笑で覆い隠した。
シュニー城の庭園も美しいが、ヴェーシュのこの庭園は目を見張るものがある。
国賓をもてなすために、代々の王妃が丹誠込めて作り上げた庭園は、異国のシオンから見ても見事だった。
色とりどりの花々が咲き誇り、季節の草花が織りなすグラデーションの絨毯は目が眩むほど美しい。
この一画でずっと過ごしていたいと思わせる魅力がある。
「さあ皆様、もうご存知だとは思いますけど、今日の主賓をご紹介しますわ。シュニー太公夫人のシオンよ、どうぞこちらへ」
繊細な茶菓子と8客ばかり揃った華やかなティーカップの並んだテーブルには、既に招待客が揃っていた。
それぞれの国の高位貴族の夫人や令嬢ばかりだと聞いている。
その中には先日一悶着あった、シャルロット・アジュール公爵令嬢の姿もあった。
「日頃、私たち既婚者とお若いご令嬢とは交流があまりないでしょう? 今日は気兼ねなく、ご婦人同士で楽しい時間を過ごしましょうね」
ヴェーシュはにこやかに微笑むと、シオンに椅子を勧めた。
「ありがとうございます。本日はお招きいただき光栄です」
シオンが挨拶をすると、席についていた夫人たちはパチパチと拍手で歓迎してくれた。
ヴェーシュは王太子妃と呼ぶに相応しく、天使のような外見の持ち主だった。
控えめに輝くブロンドは緩く波打っていて、瞳は深い海の色だ。
「シオン、よく来てくれたわ。さ、座ってちょうだい。今日はね、貴女のお話をたくさん聞かせて欲しいのよ」
ヴェーシュは嬉しそうに微笑むと、自分の隣の席に促した。
「私の?」
「ええ。だって、私はずっと貴女がどんな人なのか知りたかったんですもの。異国からいらしたのでしょう? 皆様もお聞きになりたいわよね?」
ずらりと並んだ爽やかな装いの淑女の皆様方が、一様に頷いた。
「あの、私の話なんて……皆様のように面白いお話など何も。今日は皆様の社交場を見学させて頂くつもりで参りましたので、会が始まりましたらどうぞご放念下さい……」
注目を浴び慣れないので、ゴニョゴニョと尻窄みになりながら視線を避けるように席についた。
(サラが言う通りだった。皆、すっごい気合入ってる)
サロンといってもお茶会でしょう? そこまで飾らなくても。と反論したシオンを、女中頭のサラがキッパリ嗜めてくれた。
「何を仰います。王太子妃のサロンには上位貴族ばかりが集います。そこへ来て奥様は初めてのお目見えなのですからデビュタントも同様。大公様のご威光を示すためにも、お召し物から装飾品に至るまで最高級でなくては。とはいえ申し訳ないことに3日ではこの程度しかご用意できず、申し訳ありません」
サラは謝りながらも、シオンを完璧な淑女に仕立ててくれた。
髪は既婚女性らしく丁寧に結い上げて、メイクは薄化粧で控えめに。
ドレスはサラの見立てで、白地に青紫の刺繍とビジューが散りばめられた上品かつ華やかな意匠だ。
今朝はヴァイスとの悶着もあり、なかなか浮いた気持ちになれなかったが、従っておいて良かった。
「謙遜する必要はないのに。では先ずは会を始めましょう」
ヴェーシュが合図をすると、控えていた女官たちがグラスを配って回った。
グラスの中身は琥珀色に輝いて、ふつふつと気泡が上がってきている。
「シオンのグラスはシャンパンではなく、炭酸の入ったジュースだから安心してね? リラへの授乳があるでしょう」
合間にこっそりとヴェーシュが耳打ちしてくれる。
王太子妃といえば身分は最上なのに、ホストの気遣いに痛み入る。
「リラはミルクで育ててるんです。私、その……出ない体質なので。でも、有り難く頂戴します。よく冷えて美味しそう」
「あら、そうだったの。では後でもう1杯持ってこさせるわ」
ちょっとだけ驚いたようにヴェーシュは目を瞠ったが、すぐに微笑で覆い隠した。
106
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。ある日先輩方と城下町でお酒を飲みべろんべろんになって帰ってきた次の日、ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる