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お茶会

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 誰もヴァイスと同じ目線で、魔術の深淵を捉える者はいなかった。

 シオンは使わされるべくしてヴァイスの元へ現れた女神なのでは、とさえ思う。

 人々はヴァイスを天才魔術師として崇めるが、彼女はそれ以上かもしれない。

「シオンに、拒絶された。だからサロンについていけない。何故怒っているのか、考えてもわからなかった。だから」

「なるほど、制約でサロンには同行できなかったのか。それで、ヴェーシュと同じく王城内にいる私に理由を聞きに来たと」

「そうだ」

 ネンゲルは執務椅子に腰掛けたまま顎に手を当てて、ふむ、と頷いた。

 兄とはいえ、私情で気軽に頼って良いものかは悩むところだった。

 ネンゲルは王太子で多忙な身の上だ。

 けれど他に相談できる人間が他にいない。

「正しい答えが提示できるかはわからないが、頼ってくれて嬉しいよ。相手を選ぶ相談内容だ」

 ヴァイスが申し訳なさそうに眉尻を下げると、ネンゲルが苦笑した。

「リラは元気か?」

「日増しに成長してる。シオンもとても可愛がってる……セシルに任せきりにせず、心を注いでくれている。心優しい子に育つだろう」

「それは良かった。苦労をかけて済まないな。それで、奥方が怒っている理由だっけ。経緯を報告してもらおうか」

 ネンゲルは穏やかに微笑むと促した。

 誰と追求はしていないが、リラはネンゲルと城勤めの侍女との間にできた子供だと聞いた。

 教皇の孫娘ヴェーシュと婚約が進んでいたため、秘密裏に出産させ、遠方で匿う予定だった。

 だが、魔力に当てられてこの世を去った。

 自分と、恋した女の子供だ。本当なら誰よりも近くで見守りたいだろう。

 リラを自分の子として育て欲しいと、依頼された時にはわからなかった感情も、今ならわかる。

「実は今朝、誘惑に負けてシオンに口付けした。酷く憤慨されたから、事後ながら許可をくれと頼んだ」

「へえ、やるな。ヴァイスでもそんな求愛行動に出るんだな。今まで女性に見向きもしなかったのに。それで?」

 ネンゲルの相槌は、やや面白がるようだった。

「嫌だと譲らないから、食い下がった。我慢できそうにないから、早急に許可を求めていると」

「ただ食い下がっただけか? そういう時はちゃんと根拠を示さなければダメだ」

「示した。シオンが傍にいると、衝動が抑えられない。それは俺にとって、自然に湧き起こる衝動だから受け入れて欲しいと。そうしたら急に怒り出して、浮気男の理屈だろうと詰った」

「それだ」

 ネンゲルがおもむろに人差し指を立てて、ズバリと指摘した。

 あまりにあっけなく判別するので、拍子抜けしたくらいだ。

 しかし、指摘されてもヴァイスにはさっぱりわからない。

「どれだ? そんなつもりはなくても、俺が浮気男だからなのか?」
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