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奥様は・・・な魔術師

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 翌日も、朝から大忙しだった。

 けれどあの後、リラが夜中に目覚めたのは1度だけで、授乳とオムツ替えを済ませたらすんなりと寝てくれた。

 次にぐずったのはもう夜が明けた後だったので、長い時間眠れるようになる、成長の兆しかもしれない。

 幸いヴァイスは目覚めることなく休めたようだった。

 リラが目覚めてからは、ヴァイスをできる限り寝かせてあげたくて、リラを連れて中庭を散歩した。

 敷地内には庭園もあるのだが、そちらは広大で、行き着くまでも距離があるため、未だ足を踏み入れていない。

 朝露に濡れた花々は美しく、小鳥の囀りを聞いていると心が安らいだ。

 特に気候の安定しているこの時期は赤、黄、白、紫など色とりどりに咲き誇っていた。

 花の名前なんてシオンにはわからなかったが、リラを抱きながら庭園を散策するのは楽しかった。

 主塔に戻る頃には家人たちも目覚め、庭師のトリンと入違いになると、にこやかに挨拶を交わす。

「おはようございます、奥様。お目覚めはいかがですか」

「綺麗なお花たちのお陰で、とっても良い気分よ。いつもありがとう」

 今シオンが身に纏っているのは寝衣と言って差し支えないくらいに薄手のワンピースと、レース編みのストールだった。

 本来なら大公の妻が髪も結わずに、こんな格好を家人に晒すのは、はしたない行いらしい。

 一度だけセシルに咎められたが、何度か繰り返すと諦められた。

 他の使用人たちも、「ヴァイスの連れてきた妻だしね」と妙な理由で納得してくれている。

 シオンとしては日本で暮らしている間、パジャマでゴミ捨てに出る朝もザラだった。

 こんなに立派なワンピースを着ているのだから、全く問題ないと今でも思っている。

 これで奇人扱いは、実は不本意でもあった。

「奥様、おはようございます。今日もお健やかそうで何よりです」

「おはよう。朝の庭園って、どうしてあんなに清々しいのかしらね。リラも珍しく起きてるのよ」

「お嬢様も、おはようございます。おや、心なしか以前よりふっくらされましたね」

 代わる代わる声をかけてくれて、ここの使用人たちは皆、気さくで親切だ。

 自室に戻るとヴァイスも既に目覚めており、初めて一緒に朝食を摂った。

「俺はこれから、離脱した戦線の事後確認と報告に出掛ける。書庫の案内はトラリオにさせよう。教師については手配するまで待っていてくれ」

「もう出掛けるの? 書庫や教師の件はいつでも良いけど、身体はもう大丈夫なの?」

「問題ない。一晩休んだから充分回復した」

 ヴァイスは口元をナプキンで拭うが、その下の皿にはまだ、料理が半分以上も残っている。

「食欲がないんでしょう。全然回復してないわね」

 ヴァイスが普段どれくらいの量を食べるのか、ちゃんと把握はしてない。

 けれど、19歳の健康的な男子なら、もう少し食べるのではないか。
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