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寝室

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 シオンの部屋とヴァイスの部屋は、夫婦の寝室を挟んで内扉で繋がっている。

 ヴァイスは結婚後、ほぼ家にいなかったのでシオンは自分の寝室をリラと共に使わせてもらっていた。

 用途が寝室だけなのに3部屋、それぞれに浴室が付いている。

 実に勿体無い間取りだ。

 ヴァイスは右腕に枕を携えていた。

 入浴を終えたばかりで生乾きの髪が、しっとりと艶めいている。

 うっかり見惚れそうになるが……。

 なんだかとっても、嫌な予感もする。

「ヴァイス……?」

「大公様。これは、失礼致しました。奥様、リラ様をお預かりします」

 早合点したセシルがリラを引き取ろうと手を伸ばす。

 シオンはリラを抱いたまま、さりげなく後退って拒絶の意思を示す。

「ヴァイス、どうしたの? 何か用?」

 枕を持参しているにもかかわらず、シオンは敢えて尋ねた。

「一緒に寝よう」

 何の躊躇いもなくヴァイスは即答する。

「ああ~、そう、ね。でもね私、リラと一緒じゃないと……」

「何を仰いますか、奥様。大公様がお見えになったのですから、リラ様は私が」

(ですよね。そう言うと思ったぁ、もう!)

 とぼけた声で窮地を切り抜けようとしたけれど、すかさず咎められる。

 セシルが部屋に残っていたのは不味いタイミングだった。

 この邸の主はヴァイスだ。

 当然ながら、使用人たちの順位づけもヴァイス 大なり シオンの認識になっている。

 久しぶりに帰宅したヴァイスがシオンと共寝を申し出るのは自然だし、ヴァイスを慕っている使用人たちは推奨するだろう。

「リラと一緒がいいなら、3人で寝よう」

「え、3人で?」

 それならいいか、と一瞬思ったけれど、シオンははっと気づく。

 ヴァイスは普通の思考回路じゃない。

 リラがいれば「何もしない」とは限らない。

「しかし、リラ様はまだ、夜中に何度か目覚められます。大公様の安眠を妨げるのでは……」

 セシルの指摘にシオンも頷く。

 特に深い眠りに入っている時、そこから強制的に引き摺り出されるのは、辛いものだ。

 それが何度も続くと、確実に精神を蝕まれる。

 シオンはまだ昼の間、リラを見ていてもらえる存在がいるから乗り切れるが……

 そう考えると、核家族化が進んだ日本における母親は、なんと過酷な環境で子育てを頑張っているのだろう。

「俺はあまり家にいないから、一緒にいたい。眠れなくてもいい」

「大公様がそこまでなさらなくとも……」

 貴族は子育ての大半を家人に任せる。

 当主自らが夜を徹する子守りに参加するなどとは、前代未聞なのだろう。

 まして、セシルは王室が選任した乳母だ。

 しかし、逆にシオンは、ヴァイスのその申し出に胸を熱くした。

 ついでにヴァイスの下心を疑った自分を恥じる。
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