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寝室
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「ええ! だってそうでしょう? お世継ぎを授かるために召喚されたなんて……まるで家畜扱いですもの」
オホホホ、とシャルロットはさも愉快そうに微笑んで口元を覆った。
カッと、耳まで熱くなる。
でも、何も言い返せない。気の利いた嫌味で撃退する芸当なんて、できない。シオンはただ悔しさに唇噛んだ。
「家畜だなんて……失礼だわ」
やっと絞り出すように息を吐いた。それだけの抵抗が精一杯だ。
シャルロットはシオンの反応を見て、一層満足そうに微笑を深めた。
が、それは長く続かない。
目の前に火花が散ったかと思うと、糸巻きが巡るように、ぼう、と青い炎がシャルロットの周囲を取り囲んだ。
「きゃっ」
「聞き捨てならんな、シャルロット。誰が家畜だと?」
音もなく扉が開いて、氷のように冷たい声が部屋に響く。
(ヴァイス!)
腕を前に伸ばし、炎を追うように飛び込んできたのは、寝ているはずのヴァイスだった。
「ヴァイス様……! 遠征に出ているはずでは」
シャルロットは目を見開いた。
炎から身を守るように身体を縮めて、ヴァイスを見上げる。
「俺が先に聞いている。人の留守に訪ねてきて、妻を罵倒するとはどういう了見だ。回答によっては、ただでは済まさない」
「あ……あの。これは、その……」
シャルロットは炎を気にしながら、ヴァイスの顔色を窺う。
背後にはサラが控えていた。
ヴァイスを呼んできてくれたのだろうか。不安そうな目でこちらを気遣ってくれる。
何よりヴァイスの登場で、シオンは戒められていた苦痛から解放された。
元々色白だが、まだ本来の血色には戻っていない顔貌を顰め、シャルロットを見下ろしている。
ほっとして、その場に頽れそうになった。
(やだ、安心したら涙出そう……)
目頭まで熱くなって、シオンは涙を散らすように瞬きを繰り返した。
「お戻りはまだ先と伺っておりましたので、私、先にご夫人とお近づきになりたくて……ご結婚のお祝いと、今度開催するサロンの招待状をお持ちしたんですの」
祝いの言葉をかけられた記憶は1ミリもない。
見事なまでの掌返しな態度にシオンは半眼になる。
「馬車に、置いてきてしまいましたの……ヴァイス様、お気を損ねたなら謝りますわ。どうか術を解いてくださいませ。熱い、です……」
「謝罪をするなら相手が違う。今までどんな教育を受けてきたんだ。恥を知れ。愛する妻を侮辱したまま、無傷で帰れると思うなよ」
「あ……」
シャルロットは後ずさって、ようやくシオンを見た。
しかし、四方を炎で囲まれては行き場がない。
「夫人、申し訳ありません。私……その……」
シャルロットはシオンに謝罪した。
「昔からヴァイス様をお慕いしておりましたの。それで、夫人が羨ましくて、ついとんでもないことを口走ってしまいました……」
その場にへたり込み、カールしたまつ毛の隙間からホロリと涙をこぼす。
これまた美麗な仕草に、手酷い仕打ちを受けたにも関わらず、つい目を惹かれる。
シオンが1人の時と態度が激変しているので、本心かどうか全く信用ならなかったが、炎に囲まれて涙しているのは自分より年若い少女だ。
ヴァイスのお陰で気持ちが落ち着いたのも手伝って、徐々に居心地の悪さが大きくなる。
非道い詰りようではあったが、嫉妬だというなら、ここは納得しよう。
「わかりました。今回のことはもうこれで、水に流しましょう」
別に謝られたいわけじゃない。
口先だけの謝罪を受けたって、余計に腹が立つだけだ。
オホホホ、とシャルロットはさも愉快そうに微笑んで口元を覆った。
カッと、耳まで熱くなる。
でも、何も言い返せない。気の利いた嫌味で撃退する芸当なんて、できない。シオンはただ悔しさに唇噛んだ。
「家畜だなんて……失礼だわ」
やっと絞り出すように息を吐いた。それだけの抵抗が精一杯だ。
シャルロットはシオンの反応を見て、一層満足そうに微笑を深めた。
が、それは長く続かない。
目の前に火花が散ったかと思うと、糸巻きが巡るように、ぼう、と青い炎がシャルロットの周囲を取り囲んだ。
「きゃっ」
「聞き捨てならんな、シャルロット。誰が家畜だと?」
音もなく扉が開いて、氷のように冷たい声が部屋に響く。
(ヴァイス!)
腕を前に伸ばし、炎を追うように飛び込んできたのは、寝ているはずのヴァイスだった。
「ヴァイス様……! 遠征に出ているはずでは」
シャルロットは目を見開いた。
炎から身を守るように身体を縮めて、ヴァイスを見上げる。
「俺が先に聞いている。人の留守に訪ねてきて、妻を罵倒するとはどういう了見だ。回答によっては、ただでは済まさない」
「あ……あの。これは、その……」
シャルロットは炎を気にしながら、ヴァイスの顔色を窺う。
背後にはサラが控えていた。
ヴァイスを呼んできてくれたのだろうか。不安そうな目でこちらを気遣ってくれる。
何よりヴァイスの登場で、シオンは戒められていた苦痛から解放された。
元々色白だが、まだ本来の血色には戻っていない顔貌を顰め、シャルロットを見下ろしている。
ほっとして、その場に頽れそうになった。
(やだ、安心したら涙出そう……)
目頭まで熱くなって、シオンは涙を散らすように瞬きを繰り返した。
「お戻りはまだ先と伺っておりましたので、私、先にご夫人とお近づきになりたくて……ご結婚のお祝いと、今度開催するサロンの招待状をお持ちしたんですの」
祝いの言葉をかけられた記憶は1ミリもない。
見事なまでの掌返しな態度にシオンは半眼になる。
「馬車に、置いてきてしまいましたの……ヴァイス様、お気を損ねたなら謝りますわ。どうか術を解いてくださいませ。熱い、です……」
「謝罪をするなら相手が違う。今までどんな教育を受けてきたんだ。恥を知れ。愛する妻を侮辱したまま、無傷で帰れると思うなよ」
「あ……」
シャルロットは後ずさって、ようやくシオンを見た。
しかし、四方を炎で囲まれては行き場がない。
「夫人、申し訳ありません。私……その……」
シャルロットはシオンに謝罪した。
「昔からヴァイス様をお慕いしておりましたの。それで、夫人が羨ましくて、ついとんでもないことを口走ってしまいました……」
その場にへたり込み、カールしたまつ毛の隙間からホロリと涙をこぼす。
これまた美麗な仕草に、手酷い仕打ちを受けたにも関わらず、つい目を惹かれる。
シオンが1人の時と態度が激変しているので、本心かどうか全く信用ならなかったが、炎に囲まれて涙しているのは自分より年若い少女だ。
ヴァイスのお陰で気持ちが落ち着いたのも手伝って、徐々に居心地の悪さが大きくなる。
非道い詰りようではあったが、嫉妬だというなら、ここは納得しよう。
「わかりました。今回のことはもうこれで、水に流しましょう」
別に謝られたいわけじゃない。
口先だけの謝罪を受けたって、余計に腹が立つだけだ。
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