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寝室
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果たしてアジュール公爵令嬢とはどんな人だろう。
事情は知れないが、お祝いに来てくれたというのだから小難しい話にはならないはずだ。
「お待たせしてごめんなさい、アジュール公爵令嬢」
部屋に入れば、上品な意匠のワンピースに身を包んだ令嬢と目が合う。
背まである波打つ赤い髪が目を惹く美少女だ。
年頃はシオンより少し若いくらいだろうか。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアジュール公爵家のシャルロットと申します。本日は突然の訪問を快く受け入れてくださりありがとうございます」
シャルロット嬢は立ち上がると気品あるカーテシーでシオンを迎え、名乗った。
小柄ながら、隙のない流麗な仕草に、シオンは感心して、思わず「わお」と感嘆の声を漏らす。
シオンには縁遠い仕草だ。
付け焼き刃で真似する気にもならず、ぺこりと小さくお辞儀を返した。
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。はじめまして、シオン・シュニーです。本日はお祝いにわざわざお越しくださったとか。生憎、主人は留守なのですけど……」
「ヴァイス様がお忙しいのは存じておりますもの。お気になさらないで。私は夫人とご子息様にお会いしたいと、参りましたの」
「取り継いだ者からそう聞きました。リラ……、娘は今寝てるので別の部屋なんです。お茶、お取り替えしましょうか」
「え……? いいえ。お茶は結構ですわ。お気遣いだけで」
カップが空だったので提案したのに。
シャルロットは戸惑ったように、やんわりと辞退した。
でもこれから話をするのに、お客様のカップが空っぽなんて……。
「奥様、給仕は私たちの仕事です。奥様は私どもにお命じくだされば良いのですよ」
戸惑っていると、サラがそっと耳打ちしてくれる。
「あっ、そ……そうか。サラ、シャルロットさんにお茶を注いで差し上げて」
「かしこまりました。……奥様、シャルロット様にお座りいただくよう、お声をかけて差し上げてください」
「シャルロット様、どうぞおかけください」
サラは要所で小さく、シオンに取るべき女主人の振る舞いを促してくれる。
そう言えば、漫画で読んだ知識にはあった。
身分が下の人は目上の人に声もかけちゃいけない、なんてルールもあるくらいだ。
学校でも会社でも、ペーペーが染み付いているシオンにはなかなか難しい。
「ありがとうございます」とシャルロット嬢は微笑んで、ソファに腰を落とした。
テーブルに2客のカップが並べられ、サラは退室する。シオンもテーブルを挟んだ対面に腰をかけた。
「お恥ずかしい話ですが、私はこちらの国の風習に疎くって……無作法ばかりで、ごめんなさい」
「左様でございましたか。どうりでお見かけしないご容姿だと思いましたの。大公夫人は、どちらのご出身でいらっしゃいますの?」
(日本とか、言っちゃってよかったんだっけ?)
問われてシオンは”契約”の内容を思い出した。
ヴァイスがシオンの”嫌がること”をしない、ゆるゆるの契約だったが、真の夫婦として振る舞う約束になっている。
事情は知れないが、お祝いに来てくれたというのだから小難しい話にはならないはずだ。
「お待たせしてごめんなさい、アジュール公爵令嬢」
部屋に入れば、上品な意匠のワンピースに身を包んだ令嬢と目が合う。
背まである波打つ赤い髪が目を惹く美少女だ。
年頃はシオンより少し若いくらいだろうか。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアジュール公爵家のシャルロットと申します。本日は突然の訪問を快く受け入れてくださりありがとうございます」
シャルロット嬢は立ち上がると気品あるカーテシーでシオンを迎え、名乗った。
小柄ながら、隙のない流麗な仕草に、シオンは感心して、思わず「わお」と感嘆の声を漏らす。
シオンには縁遠い仕草だ。
付け焼き刃で真似する気にもならず、ぺこりと小さくお辞儀を返した。
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。はじめまして、シオン・シュニーです。本日はお祝いにわざわざお越しくださったとか。生憎、主人は留守なのですけど……」
「ヴァイス様がお忙しいのは存じておりますもの。お気になさらないで。私は夫人とご子息様にお会いしたいと、参りましたの」
「取り継いだ者からそう聞きました。リラ……、娘は今寝てるので別の部屋なんです。お茶、お取り替えしましょうか」
「え……? いいえ。お茶は結構ですわ。お気遣いだけで」
カップが空だったので提案したのに。
シャルロットは戸惑ったように、やんわりと辞退した。
でもこれから話をするのに、お客様のカップが空っぽなんて……。
「奥様、給仕は私たちの仕事です。奥様は私どもにお命じくだされば良いのですよ」
戸惑っていると、サラがそっと耳打ちしてくれる。
「あっ、そ……そうか。サラ、シャルロットさんにお茶を注いで差し上げて」
「かしこまりました。……奥様、シャルロット様にお座りいただくよう、お声をかけて差し上げてください」
「シャルロット様、どうぞおかけください」
サラは要所で小さく、シオンに取るべき女主人の振る舞いを促してくれる。
そう言えば、漫画で読んだ知識にはあった。
身分が下の人は目上の人に声もかけちゃいけない、なんてルールもあるくらいだ。
学校でも会社でも、ペーペーが染み付いているシオンにはなかなか難しい。
「ありがとうございます」とシャルロット嬢は微笑んで、ソファに腰を落とした。
テーブルに2客のカップが並べられ、サラは退室する。シオンもテーブルを挟んだ対面に腰をかけた。
「お恥ずかしい話ですが、私はこちらの国の風習に疎くって……無作法ばかりで、ごめんなさい」
「左様でございましたか。どうりでお見かけしないご容姿だと思いましたの。大公夫人は、どちらのご出身でいらっしゃいますの?」
(日本とか、言っちゃってよかったんだっけ?)
問われてシオンは”契約”の内容を思い出した。
ヴァイスがシオンの”嫌がること”をしない、ゆるゆるの契約だったが、真の夫婦として振る舞う約束になっている。
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