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新妻になりました

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「っ……じゃあ、着替えるからヴァイスは湯殿に行って! トラリオ、入浴をさせてあげて。トリンもありがとう。心配かけてごめんなさいね」

「かしこまりました、奥様。お召し替えにはサラを呼んで参ります。ですが奥様も身を清められたいのでは……」

「それは、そうだけど。でも、2人分も一度にお湯を用意するのは大変でしょう?」

 そうか、風呂に入りたかったのか。

 2人のやり取りを横目に、シオンの不機嫌の原因に思い至って、納得した。

「それなら、問題ない。湯の一つや二つ、簡単に張れる。シオンからもらった魔力はまだ、残っているから」

「もっ、言わないでって言ったのに」

 シオンは再び顔を真っ赤にして、威嚇するように床を踏み鳴らした。

 まるで怒った猫みたいだ。

 風呂に入れたら喜ぶと思って提案したのに、また怒るのは不思議でならない。

 だがその様は愛らしくもあり、思わず笑みを零してしまう。

「何、笑ってるのよ。揶揄ってるの?」

「揶揄ってなどいない。ただシオンが可愛いと」

「もう、そういうのやめてよ」

 可愛いと言ったのは揶揄いではないが、また怒らせてしまった。

「坊ちゃま、では早速、湯の用意をお願いします。奥様、支度が整いましたらご案内いたしますので、しばしお待ちを」

 トラリオは素早くヴァイスの背後に回り込むと、背に手を当て、退出を促した。

「あ、ごめんなさい。取り乱して……お願いします……」

 素直に従うと、後ろからシオンの謝辞が聞こえた。

「坊っちゃま、……お子まで授かったお二人には、無用の気遣いとも存じますが……」

 扉を閉めると、トラリオはおずおずと切り出した。

「まさか。トラリオには、シオンが不機嫌な理由がわかるのか」

 トラリオは見ていただけだ。直接言葉を交わしていたのはヴァイスだったのに、見ているだけで、シオンが何に憤っているのか、わかるのか。

 ヴァイスには不思議だった。

「わかるなら、聞かせてくれ。何故シオンは不機嫌になった」

「女性は、繊細です。坊っちゃまを受け入れる寛大さを持つシオン様は、大らかな気質と存じておりますが……余り配慮のないお言葉は慎まれるべきかと……」

 トラリオは、ヴァイスがシオンの顔色を変えた場面を見ていた。

「配慮のない言葉? 俺は何かまずい言葉を放ったか。わからない、どれが問題だった?」

「女性にとって夫とはいつでも、恋し恋される関係でありたいと願うもの。それを”体液”というのは。いささか無粋な表現かと」

「ああ」そういえば、と思い当たった。

 魔力の受け渡しに、体液を介した。

 問われたから答えたまでだが、それが無粋なのか。

 体液は恋を遠ざけるのか?

「そうなのか。なら、気をつけよう。俺もシオンに恋されたいからな」

「まあその言葉一つに限った話でもないでしょうが……。ともかく、そのお気持ちが大切です。私は嬉しゅうございます。坊っちゃまがお心を寄せる女性がこの世にいようとは……長生きはするものでございます」

 トラリオは大仰な素振りで目頭を押さえた。

 色々と不明な点は多いが、古くからの世話役に褒められて悪い気はしない。

 ヴァイスはやや得意になって、トラリオに告げた。

「俺は女性の感性に不慣れだ。気づくことがあったら、これからも気兼ねなく進言してくれ」
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