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 がっかりと項垂れたソーニャの顔を、思い出してエミリアは失笑した。

「うふふっ、ごめんなさい、私こそ子供だわ」

「いや、自業自得だし……。それに悪戯好きのエミリアも嫌いじゃない。ただ……何というか、女性は怖いね。あんなに穏やかな物腰で、喧嘩をしていたの」

 エドワードは、心底、感心したように呟く。

「喧嘩ではございません。単なる牽制ですよ」

 エミリアは、今度は詫びを口にしない。口元に指先を当て、ふふと微笑んだ。

 ただ黙って言うなりになれば、軽んじられる。それはエミリアが重ねた経験で嫌というほど思い知っている。

「……私は、怖いですか?」

 エミリアはふと、気にかかるところがあって、訪ねた。

「そんな女は可愛くないと、エドワード様も思われますか?」

「えっ? エミリアは可愛いさ。どうして? 女性が怖いと言ったからかい?」

 エドワードは、思いもよらぬ問いに面食らったという顔だ。エミリアの真意を測りかねている。

「確かに……どうして嫌いなものを聞かれて噓をついたのかは分からなかったけど、それで可愛くないとはならないよ。きっと理由があったんだろう?」

 自分から白状しておいて、いざ問われると怖くなった。

 エミリアは、政の中心にいた。

 権力の中枢に加わるまでも、嫁ぎ、加わってからも、国政の周辺には様々な争いが絶えなかった。

 エミリアを阻害しようと企む者、利用しようと接近する者。

 隙を見せれば付け込もうとする奸物は大勢いた。

 安寧などない。ただ、フィリップと、義両親から預かった国の未来のために必死で戦った。

(それで……とうとう、今回は、引きずり降ろされてしまったのだけど)

 エミリアはフィリップに投げつけられた言葉を忘れられなかった。





『だから、君は可愛くない』





「私はいつでも、本当の気持ちは口にしません。弱点を見せれば、付け込まれるからです。慣れすぎたのかもしれません……」

 エミリアは俯いた。

 咎められると思ったからだ。

 嘘は、良くない。

 それどころか、嘘を日常としているエミリアを知って、エドワードは軽蔑するのではないか。

 そう、危惧した。

「そうだな、慣れというのは怖いものだ。私も人のことは言えないけど」

 エドワードは苦笑した。

「でも貴女のそれは、きっと我慢の連続だったんだろうね……」

 エミリアは何も言えなかった。沈黙が流れる。

(ああ……)

 エドワードは、エミリアの沈黙の意味を察した。

「ありがとう、今日は私のために我慢してくれたんだね」

(――!)

 その一言で、報われた気がした。今まで培った全てのものが報われたような気さえした。

 なぜだろう? かつての自分はどんな相手とも対峙して、平然とするのが普通だった。

 対価など求めなかった。

 今も、エドワードに対してもそうだった。

 なのに、なぜ今、こんなにも――ほっとしている?
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