63 / 115
演技
9
しおりを挟む
「もちろんでございますわ。王后陛下。とても美味しく頂いております。もう一つ、頂いてもよろしいでしょうか」
挑むようだったソーニャの瞳に、戸惑いが混じり始める。
「どうぞ、存分に召し上がって……」
「ありがとうございます」
エミリアは変わらず、にこにこと笑みを絶やさない。
「この、お野菜のケーキは、いつ頃から作られるようになったのですか?」
ソーニャが躊躇っていると、エミリアのほうから問いを投げ掛けた。
「……そうね、新しいレシピですのよ」
(何を言い出す気だ)
エドワードは更に身を乗り出す。エドワードの動揺を察して、ロザリーも緊張を露にした。
「なるほど、新しいレシピですか。流石は王后陛下。お菓子を食べて、お野菜と同じ栄養が取れるのですもの、今後、国中のサロンで話題になるのでは」
エミリアは綺麗に微笑むと、また一口、ケーキを食した。
ソーニャはその笑みから目が離せないようだ。
「もしよろしければ、私のサロンでもお出ししたいわ。後程レシピをお教え頂けないでしょうか」
イヴリンは無邪気に話に乗る。
「もちろん、あとでレシピを差し上げましょう」
(――どういうつもりだ?)
エドワードは頭を抱えた。イヴリンに話を振られたソーニャが、エミリアの次の発言を待つように、言葉を区切る。
「ああ、本当に美味しゅうございます。特にこのピーマンのケーキが。もう一つ頂きますね」
ソーニャは確実に、唖然としていた。
この、ピーマンで作られた菓子に、何か関係があるのだろうか?
ソーニャは、明らかにエミリアの言動に戸惑っている。まるで己の企てが見透かされているような、そんな印象を受けているのだろう。
しかし、だからといって、イヴリンやロザリーと共謀している感じではない。3人は、ごく普通に振舞っている。
「このケーキが……お好きなの? 痩せ我慢ではなくて」
ソーニャも自身では気付いていないだろう。己の振る舞いが繕えていないことを。明らかに口調が上ずっている。
「ええ、とても。美味しすぎて、食べ過ぎてしまいそうです」
エミリアは屈託なく微笑むと、もう一つケーキを摘んだ。
「私、ピーマンもオニオンも大好物ですの。ご馳走頂いて嬉しいですわ」
「……お好き、ですって……?」
ソーニャは見るからに、がっくりと項垂れていた。
とてつもなく妙だ。いったい何が起きているのか。
母親を気遣う気持ちが持ち上がらないでもなかったが、エドワードは、ふと、思いたった。
「母上……もう、いいでしょう。充分ご馳走になりました」
ソーニャが、はっとしてエドワードを見つめた。
目が、失意に揺れている。
知らぬうちに、何事かの決着がついたかのようだ。
挑むようだったソーニャの瞳に、戸惑いが混じり始める。
「どうぞ、存分に召し上がって……」
「ありがとうございます」
エミリアは変わらず、にこにこと笑みを絶やさない。
「この、お野菜のケーキは、いつ頃から作られるようになったのですか?」
ソーニャが躊躇っていると、エミリアのほうから問いを投げ掛けた。
「……そうね、新しいレシピですのよ」
(何を言い出す気だ)
エドワードは更に身を乗り出す。エドワードの動揺を察して、ロザリーも緊張を露にした。
「なるほど、新しいレシピですか。流石は王后陛下。お菓子を食べて、お野菜と同じ栄養が取れるのですもの、今後、国中のサロンで話題になるのでは」
エミリアは綺麗に微笑むと、また一口、ケーキを食した。
ソーニャはその笑みから目が離せないようだ。
「もしよろしければ、私のサロンでもお出ししたいわ。後程レシピをお教え頂けないでしょうか」
イヴリンは無邪気に話に乗る。
「もちろん、あとでレシピを差し上げましょう」
(――どういうつもりだ?)
エドワードは頭を抱えた。イヴリンに話を振られたソーニャが、エミリアの次の発言を待つように、言葉を区切る。
「ああ、本当に美味しゅうございます。特にこのピーマンのケーキが。もう一つ頂きますね」
ソーニャは確実に、唖然としていた。
この、ピーマンで作られた菓子に、何か関係があるのだろうか?
ソーニャは、明らかにエミリアの言動に戸惑っている。まるで己の企てが見透かされているような、そんな印象を受けているのだろう。
しかし、だからといって、イヴリンやロザリーと共謀している感じではない。3人は、ごく普通に振舞っている。
「このケーキが……お好きなの? 痩せ我慢ではなくて」
ソーニャも自身では気付いていないだろう。己の振る舞いが繕えていないことを。明らかに口調が上ずっている。
「ええ、とても。美味しすぎて、食べ過ぎてしまいそうです」
エミリアは屈託なく微笑むと、もう一つケーキを摘んだ。
「私、ピーマンもオニオンも大好物ですの。ご馳走頂いて嬉しいですわ」
「……お好き、ですって……?」
ソーニャは見るからに、がっくりと項垂れていた。
とてつもなく妙だ。いったい何が起きているのか。
母親を気遣う気持ちが持ち上がらないでもなかったが、エドワードは、ふと、思いたった。
「母上……もう、いいでしょう。充分ご馳走になりました」
ソーニャが、はっとしてエドワードを見つめた。
目が、失意に揺れている。
知らぬうちに、何事かの決着がついたかのようだ。
10
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【第一部完結】忘れられた王妃様は真実の愛?いいえ幸せを探すのです
Hinaki
ファンタジー
敗戦国の王女エヴァは僅か8歳にして14歳年上のルガート王の許へと国を輿入れする。
だがそれはぶっちゃけ人質同然。
住まいも城内ではあるものの少し離れた寂れた離宮。
おまけに侍女 一人のみ。
離宮の入口には常に彼女達を監視する為衛兵が交代で見張っている。
おまけに夫となったルガート王には来国した際の一度切しか顔を合わせてはいない。
それから約十年……誰もが彼女達の存在を忘れていた?
王宮の情報通である侍女達の噂にも上らないくらいに……。
しかし彼女達は離宮で実にひっそりと、然も逞しく生きてきた。
何と王女は侍女と交代しながら生きぬく為に城下で昼間は働き、仕事のない時は主婦として離宮内を切り盛りしていたのである。
全ては彼女達が誰にも知られず無事この国から脱出し、第二の人生を謳歌する為。
だが王妃は知らない。
忘れられた様に思い込まされている隠された真実を……。
陰謀と執着に苛まれる王女の心と命を 護る為に仕組まれた『白い結婚』。
そしてまだ王女自身知らない隠された秘密が幾度も彼女を襲う。
果たして波乱万丈な王妃様は無事生き抜き真実の愛を見つけられるでしょうか。
因みに王妃様はかなり天然な性格です。
そしてお付きの侍女はかなりの脳筋です。
また主役はあくまで王妃様ですが、同時に腹心の侍女であるアナベルの幸せも極めていく予定……あくまで予定です。
脱線覚悟で進めていくラブファンタジーならぬラブコメ?脳筋万歳なお話になりそうです。
偶にシリアスやドロドロ、胸糞警報もありです。
初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
誰もが魔力を備えるこの世界で魔力のないオネルヴァは、キシュアス王国の王女でありながらも幽閉生活を送っていた。
そんな生活に終止符を打ったのは、オネルヴァの従兄弟であるアルヴィドが、ゼセール王国の手を借りながらキシュアス王の首を討ったからだ。
オネルヴァは人質としてゼセール王国の北の将軍と呼ばれるイグナーツへ嫁ぐこととなる。そんな彼には六歳の娘、エルシーがいた。
「妻はいらない。必要なのはエルシーの母親だ」とイグナーツに言われたオネルヴァであるが、それがここに存在する理由だと思い、その言葉を真摯に受け止める。
娘を溺愛しているイグナーツではあるが、エルシーの母親として健気に接するオネルヴァからも目が離せなくなる。
やがて、彼が恐れていた通り、次第に彼女に心を奪われ始めるのだが――。
※朝チュンですのでR15です。
※年の差19歳の設定です……。
※10/4から不定期に再開。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる