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「もちろんでございますわ。王后陛下。とても美味しく頂いております。もう一つ、頂いてもよろしいでしょうか」

 挑むようだったソーニャの瞳に、戸惑いが混じり始める。

「どうぞ、存分に召し上がって……」

「ありがとうございます」

 エミリアは変わらず、にこにこと笑みを絶やさない。

「この、お野菜のケーキは、いつ頃から作られるようになったのですか?」

 ソーニャが躊躇っていると、エミリアのほうから問いを投げ掛けた。

「……そうね、新しいレシピですのよ」

(何を言い出す気だ)

 エドワードは更に身を乗り出す。エドワードの動揺を察して、ロザリーも緊張を露にした。

「なるほど、新しいレシピですか。流石は王后陛下。お菓子を食べて、お野菜と同じ栄養が取れるのですもの、今後、国中のサロンで話題になるのでは」

 エミリアは綺麗に微笑むと、また一口、ケーキを食した。

 ソーニャはその笑みから目が離せないようだ。

「もしよろしければ、私のサロンでもお出ししたいわ。後程レシピをお教え頂けないでしょうか」

 イヴリンは無邪気に話に乗る。

「もちろん、あとでレシピを差し上げましょう」

(――どういうつもりだ?)

 エドワードは頭を抱えた。イヴリンに話を振られたソーニャが、エミリアの次の発言を待つように、言葉を区切る。

「ああ、本当に美味しゅうございます。特にこのピーマンのケーキが。もう一つ頂きますね」

 ソーニャは確実に、唖然としていた。

 この、ピーマンで作られた菓子に、何か関係があるのだろうか?

 ソーニャは、明らかにエミリアの言動に戸惑っている。まるで己の企てが見透かされているような、そんな印象を受けているのだろう。

 しかし、だからといって、イヴリンやロザリーと共謀している感じではない。3人は、ごく普通に振舞っている。

「このケーキが……お好きなの? 痩せ我慢ではなくて」

 ソーニャも自身では気付いていないだろう。己の振る舞いが繕えていないことを。明らかに口調が上ずっている。

「ええ、とても。美味しすぎて、食べ過ぎてしまいそうです」

 エミリアは屈託なく微笑むと、もう一つケーキを摘んだ。

「私、ピーマンもオニオンも大好物ですの。ご馳走頂いて嬉しいですわ」

「……お好き、ですって……?」

 ソーニャは見るからに、がっくりと項垂れていた。

 とてつもなく妙だ。いったい何が起きているのか。

 母親を気遣う気持ちが持ち上がらないでもなかったが、エドワードは、ふと、思いたった。

「母上……もう、いいでしょう。充分ご馳走になりました」

 ソーニャが、はっとしてエドワードを見つめた。 

 目が、失意に揺れている。

 知らぬうちに、何事かの決着がついたかのようだ。
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