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ヴァルデリア

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「下の段にはパンケーキや蜂蜜とバター、それからジャムもあるよ」

「とても美味しそう。ピクニックにお連れ下さるつもりだったの?」

「宮殿の中じゃ、人目があって落ち着かないだろう? デザートにはもぎたての葡萄も用意してる」

「もぎたてって? じゃあ果樹園に向かっているのね」

 あまりにも魅惑的な申し出に、エミリアは色めきだった。

 ヴォルティアは山間部にあるため、農耕に適した土地が少ない。

 そのため、果物や野菜の栽培は殆ど行われていない。

 王宮には良質な素材が届けられ、食事に給されるが、もぎたてなんて、想像もつかない。

 「ヴァルデリアは国土の半分以上が平原だからね。その分多くの種類の木が植えられてる。……興味があるようだから解説するよ」

 エドワードは麗しい微笑みを浮かべながら、そっとバスケットの蓋を閉じた。

(なんだ、まだ食べないの……)

 残念な思いでバスケットを見やってから、視線を戻す。

 すると、待っていたのは実に嬉しそうなエドワードの笑い声だった。

「ふふっ、残念そうな顔をして! 可愛いなあ、もう」

「えっ? 揶揄ったのですか?」

「いやあ、すっごく食べたそうな顔をしているから、試しに隠してみたらどうなるかと……」

 そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか?

「もう。どうして意地悪をなさるんですか」

 恥ずかしさに頬が熱くなる。

「ごめんごめん。つい、悪戯心で。貴女の表情が変わるところを見たかったのさ」

「…………」

「ほら、そうやって黙りこむところも可愛くて」

「もう!」

 どんな態度をとっても、面白がるに決まっている。

 どうすれば良いか分からずに、エミリアはぷいっと横を向いた。

 それでもエドワードはご満悦だ。

「誰が口下手で、影がある、ですって」

「それってもしかして、私の話?」

「そうよ。貴方は寡黙で影があるけどそこが良いって、メイドさんの間で噂されていたの。この様子を見る限り信じられないわ」

「誤解があるな。私は用があれば口を利く。なければ利かない。それだけだ」

「嘘、だってこんなに」

「これは……エミリアの関心を惹くためだから。でも、自分でも多少驚いている……」

「……っ!?」

 ぽつり、とエドワードはとんでもない発言をする。

 エミリアは言葉を失った。

 噂の方が正しいなら、エドワードは相応の努力を払っていることになる。

 ……エミリアのために。

「ねえ、こっちを向いてくれないか? 気を取り直して、朝食にしよう」

「……エドワード様も誤解なさってるでしょう。私のこと、とんでもない食いしん坊だと」

 どちらが正しいかは、火を見るよりも明らかだ。

 社交が重要な世界で、寡黙さにメリットはない。

「誤解なの?」 

 きょとん、と真面目な顔で聞き返したエドワードに、何と返せばいいのか、口がわななく。

 せっかくこちらから歩み寄ったのに。

「……うそうそ、ごめん。機嫌を直してくれて嬉しいよ」

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