29 / 115
ヴァルデリア
11
しおりを挟む
「下の段にはパンケーキや蜂蜜とバター、それからジャムもあるよ」
「とても美味しそう。ピクニックにお連れ下さるつもりだったの?」
「宮殿の中じゃ、人目があって落ち着かないだろう? デザートにはもぎたての葡萄も用意してる」
「もぎたてって? じゃあ果樹園に向かっているのね」
あまりにも魅惑的な申し出に、エミリアは色めきだった。
ヴォルティアは山間部にあるため、農耕に適した土地が少ない。
そのため、果物や野菜の栽培は殆ど行われていない。
王宮には良質な素材が届けられ、食事に給されるが、もぎたてなんて、想像もつかない。
「ヴァルデリアは国土の半分以上が平原だからね。その分多くの種類の木が植えられてる。……興味があるようだから解説するよ」
エドワードは麗しい微笑みを浮かべながら、そっとバスケットの蓋を閉じた。
(なんだ、まだ食べないの……)
残念な思いでバスケットを見やってから、視線を戻す。
すると、待っていたのは実に嬉しそうなエドワードの笑い声だった。
「ふふっ、残念そうな顔をして! 可愛いなあ、もう」
「えっ? 揶揄ったのですか?」
「いやあ、すっごく食べたそうな顔をしているから、試しに隠してみたらどうなるかと……」
そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか?
「もう。どうして意地悪をなさるんですか」
恥ずかしさに頬が熱くなる。
「ごめんごめん。つい、悪戯心で。貴女の表情が変わるところを見たかったのさ」
「…………」
「ほら、そうやって黙りこむところも可愛くて」
「もう!」
どんな態度をとっても、面白がるに決まっている。
どうすれば良いか分からずに、エミリアはぷいっと横を向いた。
それでもエドワードはご満悦だ。
「誰が口下手で、影がある、ですって」
「それってもしかして、私の話?」
「そうよ。貴方は寡黙で影があるけどそこが良いって、メイドさんの間で噂されていたの。この様子を見る限り信じられないわ」
「誤解があるな。私は用があれば口を利く。なければ利かない。それだけだ」
「嘘、だってこんなに」
「これは……エミリアの関心を惹くためだから。でも、自分でも多少驚いている……」
「……っ!?」
ぽつり、とエドワードはとんでもない発言をする。
エミリアは言葉を失った。
噂の方が正しいなら、エドワードは相応の努力を払っていることになる。
……エミリアのために。
「ねえ、こっちを向いてくれないか? 気を取り直して、朝食にしよう」
「……エドワード様も誤解なさってるでしょう。私のこと、とんでもない食いしん坊だと」
どちらが正しいかは、火を見るよりも明らかだ。
社交が重要な世界で、寡黙さにメリットはない。
「誤解なの?」
きょとん、と真面目な顔で聞き返したエドワードに、何と返せばいいのか、口がわななく。
せっかくこちらから歩み寄ったのに。
「……うそうそ、ごめん。機嫌を直してくれて嬉しいよ」
「とても美味しそう。ピクニックにお連れ下さるつもりだったの?」
「宮殿の中じゃ、人目があって落ち着かないだろう? デザートにはもぎたての葡萄も用意してる」
「もぎたてって? じゃあ果樹園に向かっているのね」
あまりにも魅惑的な申し出に、エミリアは色めきだった。
ヴォルティアは山間部にあるため、農耕に適した土地が少ない。
そのため、果物や野菜の栽培は殆ど行われていない。
王宮には良質な素材が届けられ、食事に給されるが、もぎたてなんて、想像もつかない。
「ヴァルデリアは国土の半分以上が平原だからね。その分多くの種類の木が植えられてる。……興味があるようだから解説するよ」
エドワードは麗しい微笑みを浮かべながら、そっとバスケットの蓋を閉じた。
(なんだ、まだ食べないの……)
残念な思いでバスケットを見やってから、視線を戻す。
すると、待っていたのは実に嬉しそうなエドワードの笑い声だった。
「ふふっ、残念そうな顔をして! 可愛いなあ、もう」
「えっ? 揶揄ったのですか?」
「いやあ、すっごく食べたそうな顔をしているから、試しに隠してみたらどうなるかと……」
そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか?
「もう。どうして意地悪をなさるんですか」
恥ずかしさに頬が熱くなる。
「ごめんごめん。つい、悪戯心で。貴女の表情が変わるところを見たかったのさ」
「…………」
「ほら、そうやって黙りこむところも可愛くて」
「もう!」
どんな態度をとっても、面白がるに決まっている。
どうすれば良いか分からずに、エミリアはぷいっと横を向いた。
それでもエドワードはご満悦だ。
「誰が口下手で、影がある、ですって」
「それってもしかして、私の話?」
「そうよ。貴方は寡黙で影があるけどそこが良いって、メイドさんの間で噂されていたの。この様子を見る限り信じられないわ」
「誤解があるな。私は用があれば口を利く。なければ利かない。それだけだ」
「嘘、だってこんなに」
「これは……エミリアの関心を惹くためだから。でも、自分でも多少驚いている……」
「……っ!?」
ぽつり、とエドワードはとんでもない発言をする。
エミリアは言葉を失った。
噂の方が正しいなら、エドワードは相応の努力を払っていることになる。
……エミリアのために。
「ねえ、こっちを向いてくれないか? 気を取り直して、朝食にしよう」
「……エドワード様も誤解なさってるでしょう。私のこと、とんでもない食いしん坊だと」
どちらが正しいかは、火を見るよりも明らかだ。
社交が重要な世界で、寡黙さにメリットはない。
「誤解なの?」
きょとん、と真面目な顔で聞き返したエドワードに、何と返せばいいのか、口がわななく。
せっかくこちらから歩み寄ったのに。
「……うそうそ、ごめん。機嫌を直してくれて嬉しいよ」
11
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる