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ヴァルデリア

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「何かございましたら、遠慮なくおっしゃって下さい」

「ありがとう」

 入浴の世話をしてくれるのは、エマと名乗った少女だった。

 彼女はてきぱきと服を脱ぐと、手早くエミリアの髪を解き、洗い始めた。

「痛くはございませんか?」

「ええ、気持ちいいわ」

「それはようございました」

「ねえ、エマはおいくつ?」

「16歳です。……失礼ですが、お嬢様は?」

 エマはエドワードと同様に、黒髪に黒い瞳を持っている。長い髪を編んで纏めていた。

 まだ若いのに、手際が良い。

「私は……21歳よ。お恥ずかしながらお嬢様と呼ばれる年齢ではないの。普通にエミリアと呼んで欲しいわ」

「わかりました、エミリア様」

「様もいらないのだけれど」

「そういうわけにはいきません。お客様を呼び捨てにするなどとんでもないことです。𠮟られてしまいます」

 呼び方を変えれば距離が縮まり、会話が弾むと考えていたが、エマが慌てふためいたので、エミリアは話題を変えた。

 食事の前に、出来る限り情報が欲しい。

「お城に努めてどれくらい経つの?」

「3年目になります」

「じゃあ、エドワード様とは以前から面識があるのね。普段はどんな方?」

「はい、王太子殿下はとてもお優しいですよ。寡黙なところもありますけど、思いやりのある方だと思います」

「寡黙ですって? あの方が?」

 エマの話を聞いて、エミリアは思わず聞き返した。

「はい。あまり口数は多くないですね。必要なことしか話されませんし、表情にも変化が乏しいので、何を考えているのか分かりにくいかもしれません」

(あれで表情の変化が乏しい? 私の印象と大分違うのね)

「どうかされましたか?」

「いえ、ちょっと私の中のイメージと違っていて驚いただけよ。もっと感情豊かな方だと思っていたから」

「そのことなんですが、エミリア様。私からもお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ。何かしら?」

 エミリアは何気なく同意したつもりだったが、エマの態度は一変した。

「殿下がエミリア様を婚約者から奪い取った、とは本当ですか??」

「へっ」

「エミリア様は伯爵家のご令嬢で、意に染まぬとはいえ、ご結婚も間近だった。しかし昨日出席された祝宴でエミリア様に一目ぼれした殿下と恋に落ち、はるばるヴォルティアより落ちのびたというのは、本当ですか!?」

 瞳を輝かせ、次々と質問を投げかけて来る。

 色々と聞き出したいのはこちらだったのに。

「殿下はあの通り素敵なご容姿ですが、寡黙で影があるところが、メイド内では萌えポイントでしたの。それが、情熱的に、略奪だなんて……!」

 エマは頬を真っ赤に染めて興奮していた。
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