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捨てられ王妃

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「涙さえ、星屑のような煌めきだ。……エミリア妃。包み隠さず申し上げる。私は神々しい貴女のお姿に心を奪われた。貴女を想って、炎に焦がれる虫のように、ここまで吸い寄せられてしまいました。それが今、再びお会いして、戸惑いが確信に変わった」

 エドワードの美辞麗句に、ようやくエミリアは彼の行動の辻褄を見出していた。

 エドワードは、恋情を告白している。

 本来ならばさぞ心地が良かっただろう。

 エミリアが未婚の令嬢、だったならば。

 舞踏会の夜、令嬢の元へ忍ぶ王子……。

 まるで物語の主人公にでもなったような、ロマンティックな気持ちを味わえただろう。

 しかしエミリアは自分の立場を良く知っている。

 この、ヴォルティア国の正妃だ。

(…………、今は、まだ、ね)

 胸中で自嘲気味に呟いた。

 複雑で、緩慢とした感情が胸中を渦巻く。

「貴女は私の運命だ。どうか私の妻になってくださいませんか?」

 エドワードの瞳は真摯だった。

 そのまま視線を合わせるように、僅かに屈まれた。

 漆黒の双眼がエミリアを映す。星空を閉じ込めたような、美しい輝きだった。

「私が貴女を守ります。貴女の瞳を曇らせるものは私が取り除きましょう」

 真っ直ぐに見つめられると、逸らすことも叶わない。

 息もかかる程の距離なのに、不思議と不快感はなかった。

 隣国の高貴なる人物は、その年齢と容姿に見合った情熱を持っている。

 それとも―― 一時の戯れか。

 エミリアはもう言葉をすべて正面から捉えられるほど、純粋な女ではなくなってしまった。

「私は、もう結婚しております。ご存じでしょう」

「存じております。ですが、貴方は泣いていた」

「それは……」

 エミリアは唇を噛んだ。

 先程の悲劇と自分の姿を思い出したからだ。

 エミリアは既に充分情けない姿を、エドワードに見られていた。

 今更強がりもないか。

「――はい、確かに私は泣いておりました」

「エミリア様……」

「でも、もう大丈夫です。これ以上、ここにいてはいけません。今宵のことは私一人の胸に留め、口外いたしませんから」

 エミリアは無理矢理笑みを浮かべると、一歩後退りした。

 エドワードが眉根を寄せて、切なげな表情を見せる。

「エミリア様……私は本気です。本気で貴女を妻に迎えたいと思っている」

「貴方の優しさには感謝しております。でも、今宵はお引き取りください。きっと程なくして本当の運命のお相手に巡り合えますわ」

「そんなことはない! 何故信じてもらえないのですか」

「……っあ」

 エドワードの手がエミリアの腕を掴んだ。

 エミリアの身体が大きく震えた。

 振り払おうとしても、力が強くびくともしない。

「お離しください……!」
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