完璧な騎士の最期

keima

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完璧な騎士の最期

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じっとりと湿った空気とカビのにおいが充満した暗い牢獄。その空間に響き渡るのは男の怒号とどんどんと鳴らす靴音だ。

「ここから出せ~~!!外道どもに魂を売り渡したクズどもめ。このわたしを誰だと思っているんだ!!!!」

  ヘンドリクス・ワルター。 かつてブルーム王国でその人ありと呼ばれた完璧な騎士は今、牢獄の囚われ人になっていた。

 主君である国王を洗脳し傀儡とし、さらには隣接する2つの国の国王をも操り、大陸にすむ錬金術師たちの虐殺計画を企てていた首謀者として、国を乗っ取ろうとクーデターを企む国家反逆罪で囚われていた。

 「何故だ何故だ何故だ何でこの私が・・・が罪人として囚われなければならないんだ!!罪人は錬金術師たちアイツらだろう?アノ狂った外道どもが俺を嵌めたんだそうに違いない!!」

自分の罪の自覚のないワルターはなおも悪いのは錬金術師だと言い続けている。 

 彼は知らないのだ。自分が他者を魅了し、その者の運命や運勢を自分の盾として奪っていく「星喰い」の持ち主であることを。
彼に魅了された人々は彼のいう事を聞く操り人形となり、思考を次第に奪われ、生気も奪われすべてを吸い取られ死んでいく。それに気づいた1人の錬金術師の考案した電気療法によってワルターに操られていたブルーム国王を始めとする人々の洗脳は解けた

「ウィルムート・バートン・・・・あの男、どこまでも俺の邪魔をしおって・・・」

 彼が最も憎いとされる錬金術師の男は今までもワルターの計画の邪魔をしてきた。何より一番許せなかったのは・・・・

 「俺の大事な・・・エステルを相棒と呼ぶあの男だけは許さない・・・」

 エステル・フィル・・・ワルターが長年恋焦がれていた少女。

 ワルターが彼女と出会ったのは偶然だった。  
自分の実家が領主を勤める領地の一つで診療所を構える医師であり錬金術師のユーリウス・フィルを屋敷に招待しようと彼の診療所に馬車を止めた時、ユーリウスと楽しそうにしゃべっている自分よりも年下の金髪の少女がいた。 

 

 ーーー欲しい。

 

 その少女を一目見た時、ワルターはそう思った。密かに調べていく内に、あの少女がユーリウスの弟子であることを知り、何度も少女が欲しいと両親に訴えたし、師匠であるユーリウスにも伝えたが「あの子はモノではない」と突っぱねられた。

 

 ーーーあの子が欲しい。 自分のモノにしたい。ああっ、エステル。エステル・・・・

 

 狂気に似た思いを抱いたまま、成人し国を守る騎士となって数年後。外交で訪れた隣国デュナム王国にて、その国の宰相である女性とその娘を見てひどく驚いた。

 

 ーーーエステルに似ている・・・。

 

 宰相のパーディタ・H・アロウズ宮廷伯と娘のステラは容姿も何もかもエステルと似ていた。 ただし毛先が少しだけ赤かったエステルと比べてアロウズ母娘は完全な金髪だった。

 ステラ嬢に兄弟は要るかと聞いたところ「双子の姉が居たが、幼いころに亡くなった。」と聞いて確信した。 

 

 ーーエステルはあの母娘の双子の姉だ。幼いころに誘拐され、孤児だと思い込んだ錬金術師によって実験体として引き取られたに違いない。

 

 ーーーああっ、可哀想なエステル。師匠と慕うあの外道に騙されるなんて。大丈夫だよ俺の愛しの人。俺が君を助けてあげるから。外道たる錬金術師をこの世から消してあげる。心配しないで。

 

 「そのために今まで計画してきたのに・・・ちっくしょう!!」

 

手足を縛られ、目も覆い隠され身動きの取れない体にワルターのいら立ちは募るばかりだ。

 

「・・・・・ん・・・?」

 

カツーンカツーンと自分以外誰もいない牢獄に足音が聞こえた。

 

「・・・・・誰だ・・・・?」

 












「なあ聞いたか?ヘンドリクス・ワルター卿に洗脳されていたウチの国王と両隣の国の国王が退位されたってさ。」

仕事の関係で錬金術師ギルドを訪れたウィルムート・バートンはカウンターで昼間から飲んでいる男2人の話に耳を傾けた。
隣国の騎士に電気治療の治療方法レシピを渡してから5か月。ブルーム王国一と謳われたヘンドリクス・ワルターは「星喰い」の魅了の力を使って国王を操り、更にクーデターを企てた首謀者として逮捕された事件は国中に広まっている。

 「そりゃあそうだよな。一国の王様が星喰いに魅了されていたとはいえ騎士1人に操られるようじゃダメだろう。」
 
(うん。同感。)


 2人の話をこっそりと聞いていたウィルムートはウンウンと頷いた。

「しかも隣のデュナム国は女王だけではなく、王女やその側近候補たちも廃嫡されたそうだぜ。」
 
「えぇっ、王女と側近候補も!?」

デュナム王国はブルームの右隣に位置した国で錬金技術が発展しているのだが、19年前に起きた戦争で長年険悪な関係だったのだが、数年前から外交を再開していたのだが、ワルターの一件でその苦労が水泡に喫していた。

「何でも、デュナムの王女と側近候補の令嬢達がワルター卿の協力者だったみたいで、自分の国の情報とか色々ワルター卿に流していたみたいだぞ。」

「それで廃嫡ってわけか王女達も馬鹿だよなぁ~。」

(俺もそう思う。確かまとまりかけていた話があったのにアレのせいでおじゃんになったんだよなぁ・・本当にアレ、余計な事しかしないよなぁ~。)

「王女まで廃嫡されちゃって・・・あの国もおわりだな。」

「そうだな。7月の鮮血を引き起こした魔女も堕ちたもんだな。」

「7月の鮮血」それは19年前にデュナム王国とブルーム王国の間で起こった戦争の名である。当時、デュナム王国は一方的にブルームを攻撃し女王の異母姉で錬金術師グランディデイエライトの作り上げた兵器によってブルームは敗北した。この戦争は他国から「一方的な虐殺だ」と他国から非難され、ブルームではデュナム女王とグランディディエライトを「魔女」と呼んでいた。 

(アレ、散々俺達のことを外道だ何だの言ってきたけど、お前に協力していたデュナムの……特にグランディディエライト卿が一番の外道だぞ。何せコイツのせいで7月の鮮血あの虐殺が引き起こされたんだし、そのせいで多くのブルーム国民が……俺のおふくろが犠牲になった。)



 グランディディエライトは錬金術師として優れた技術をもっていた。先王の娘でありながらも王位に興味はなく早々に継承権を放棄し、錬金術の研究に打ちこんだ。
しかしあまりにも優秀過ぎた事と研究内容が受け入れられるものではなかった。それゆえ周囲の人々から距離を置かれていたが本人はあまり気にしていなかった。しかし彼女は最もしてはいけない大罪タブーを犯そうとしていた。
 
戦争兵器としての錬金術……グランディディエライトは錬金術を戦争の道具として利用しようと企んでいたのだ。 
ソレを知った他の錬金術師達から批判され、所属していた全大陸錬金術師連合協会フリーメイソンから追放されてしまった。 しかしソレを反省することなく彼女はとうとう戦争兵器を完成させた。そして彼女は新たな大罪 タブーをおかした。
新たな罪。それは禁断の技術である人間の細胞を基に造りあげた人間ゴーレムの製造だった。それも男女両方の性をもった完璧な人間を造りだそうとしていた。
両性具有のゴーレムを産むための母体を探しだすためにグランディディエライトは兵器を利用してブルームに戦争を仕掛け、その混乱に乗じてゴーレムを生むための母体となる女性道具を見つけだし、自国へと連れ去った。
女性の名はリーシャ・フェル。
ウィルムートの相棒エステルの母親だ。 
  
(両性具有の人間……それを生み出すのは難しい。けれど、グランディディエライト卿は造りだしてしまった。ヒトがヒトを造ってはいけないという禁忌を犯してまで両性をもった人間を造りだし、そのせいでリーシャさん……エステルのおふくろさんは無理矢理ゴーレムを産まされた。) 


  しかし、産まれたゴーレムのうち1人は「両性」ではなく「女」だった。 そのため、その子は「失敗作」として処分されそうになり、リーシャはその「失敗作」を連れて逃げ出し、祖国に住む双子の兄にその子供をーーエステルと名づけ、自分の娘として双子の兄ユーリウスに託した。

 (…………ワルターアレは知っていたのかな?エステルがゴーレムだってこと………知らないだろうなぁ、多分……)
 
錬金術師に強い偏見を持つワルターがもしエステルの出生の秘密を知ったら多分狂って大暴れする姿が目に浮かび大きく溜息を吐いた。

(知らないからこそ、あんなアホな事言ったんだろうなぁ……)

ーーー私はっ、エステル
を救うためだけ今までやってきたんだ!! 
外道どもの魔の手から君を助け出すためにやってきたのにどうして逮捕されるんだ!!

かつての仲間に連行され、引き摺られていく際ワルターはエステルに向けこう叫んだ。 

「………何がエステルのためだよ。馬鹿らしい。」

結局、ワルターは自分の偏った考えから錬金術のことを何も理解していなかった。 
エステルが何度訴えても、常識ある友人が何度説得してもワルターは聞き入れず、星喰い自らの魅了の力で自分のいうことを聞く者達の声しか耳を貸さなかった。 

(結局のところアレはエステルの事、なんにも理解しわかっていなかったんだよな。アイツの事を最悪だ。何だの言ってきたり、初対面で誘拐&監禁するわ。外道だ~!!とか言って錬金術師の書を破り捨てたり、してアレはエステルを束縛し、支配することでアイツを自分のいうことをきく玩具にんぎょうにしたかったのだ。)

「……ホント、面倒くさいヤツだったよなぁ……」

ハア~っと先ほどよりも深い溜息を吐くウィルムートだった。 



























その日の深夜。地下牢から獰猛な野獣に似た咆哮が響きわたった。 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁぁ~~!!!!!!」

ガンガンと牢獄の中でヘンドリクス・ワルターは両手足を鎖で縛られ、目も白い布で覆い隠した状態で、怒号し後ろの煉瓦の壁に勢いよく後頭部を打ち続けていた。
その常軌を逸っしたワルターの様子を心配する者はおらず、見捨てられた哀れな騎士は暗い牢獄の中で発狂し頭を壁に打ち続けた。
やがて叫び声が聞こえなくなり、壁を打ちつける鈍い音が止んだ。
かつて美貌の騎士と謳われた男は苦悶の表情を浮かべたまま、2度と起き上がることはなかった。
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