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応援
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【9/24 PM8:46】
「マジかよ……!」
総司はとあるビルの屋上にいた。バイトを上手く抜け出し、服も私服姿だ。
頭上には巨大な球状の結界。その中で魔物と魔法少女達が戦っている。
実はこの結界は目眩ましでもある。限られた人にだけ見ることができるが、その他の人々にはただ平穏な夜空が拡がっているようにしか見えない。
魔界から侵略者が週に一度現れる事や、魔法少女がそれに立ち向かっている事は人間界では秘密なのである。
そして今、その魔法少女は魔物のブレスや爪の攻撃に翻弄されながら戦っている。
ティアラがパンチやキック技、カチューシャが弓矢で応戦しているが殆どダメージを与えられていないようだ。
シュシュは先ほど炎を浴びて倒れ、ティアラとカチューシャに救出されて少し離れた場所に横たえられていた。
今は少し回復したのか、起き上がり片膝をつく。しかし立ち上がろうとした瞬間、ぶるぶると震え、体勢を維持できずくずおれた。
(あぁっ! ボロボロじゃないか……!)
総司は周りを見回した。もう何度も確認しているから、おそらく人目はない。それでも誰かに見られればおしまいなのだから慎重にならざるを得ない。
漸く大丈夫だと確信してから彼は契約相手を呼び出した。
「いるんだろ! 出てこいよ!」
何もないはずの空間。そこに宙返りをしながら「きゅるりん☆」と音を立てて魔法生物が現れた。見た目はシトロンやポムとそっくりだが色は周りに溶けてしまいそうな闇色だ。
「総司、どうしたんだヨ?」
「それはこっちの台詞だ! どうなってるんだよ。あの子、傷だらけで死にそうになってるじゃないか!」
「何言ってるんだヨ? 今回の魔物はとっても強いって知ってるヨね?」
魔法生物の言葉に総司は青ざめた。
「……いや、そういう“台本”なんだろ? 俺みたいに!」
「何を勘違いしているかわからないヨ。この『魔法少女☆THE・リアル』に台本があるだなんてボク、言ってないヨ?」
「だって、リアリティーショーなんだろ! リアリティーショーには台本がつきものじゃないか!」
「それは総司の偏見だヨ」
闇色の魔法生物はバッサリと切り捨てた。総司は完全に自分の考えが誤っていたとわかり、唇を噛んで上の様子を見た。まだシュシュの火傷は完治しておらず痛々しい。
(くそっ……まさかガチの戦いだったなんて)
総司は魔法少女の存在を知っているが、彼女らの詳細までは教えられていない。
先ほどの纏からのDMを見て、魔物が予め来ると知っているなら、魔物と魔法少女の戦いは台本に則って動いているヤラセだと思ったのだ。
だから魔物の攻撃を受けても見せかけだけで、本当に痛い思いをする訳じゃないだろう……と高をくくっていた。
だが今のシュシュの……纏の表情は、苦痛に歪み、それでも戦いに戻るため、震えながら必死に立ち上がろうとしている。これが演技ならアカデミー賞並みの名女優だ。
「応援してあげなヨ」
魔法生物が耳元で囁き、総司はびくりとする。
バイト中に応援などできるのかは最初から懸念していたことだ。家族のためにもこの割りのいいバイトをクビにはなりたくない。
「しても……いいのか。契約違反じゃないよな?」
「モチロン! 約束するヨ」
「わかった」
総司はすう、と息を吸う。頭の中に一所懸命に説明する纏の顔が甦る。
“『シュシュ、がんばれ!』って言うだけで大丈夫です!”
「シュシュ、がんばれ!」
総司が口にすると、シュシュの身体がほんのりと光るのが見えた。
「シュシュ、がんばれ!」
「『好きだ』とか『愛してる』って言ったらもっと効果があるかもヨ?」
真横で茶化す魔法生物にムカつき、殴ろうと腕を振る。が、それはひょいと総司の拳を避け、ケタケタと笑いながら「きゅるりん☆」と宙に消えた。
その態度に総司はますます腹を立て、精一杯空気を肺に送る。
「シュシュ……布尾 纏! がんばれっ!! こんな奴らに負けるなー!!」
総司は絶叫に近い声で頭上にエールを送った。
◇◆◇
【9/24 PM8:47】
「シュシュ、がんばれ!」
(秋里先輩……?)
その途端、シュシュの身体が軽くなった。自身を見るとほのかな光に包まれている。ひんやりとして気持ちよく、火傷が急速に癒えていくのがわかる。
「シュシュ、がんばれ!」
(先輩が、どこかで応援してくれてる! 先輩を……皆を、この街を守らなきゃ!)
二回目の応援で身体に力がみなぎった。先ほどまでは片膝をつくのが精一杯だったのに、サッと立ち上がれるし呼吸も正常だ。自身を取り巻く光もさらに強くなる。
「シュシュ……布尾 纏! がんばれっ!! こんな奴らに負けるなー!!」
「えっ!?」
魔法の力で遠くからの応援の声が聞こえているとばかり思っていたシュシュは、足元から大声がした事に驚き、下を見て更に驚いた。
そこにあったのは片想いの相手がこちらを見上げる姿。
「秋里先輩!? なんでここに……!?」
「彼の気持ちが伝わったモン! 応援パワー満タンだモン!!」
戸惑うシュシュをよそに、シトロンがニコニコして彼女の周りを飛び回る。シトロンもシュシュも眩いくらいひかり輝いている。
「スターライト☆チェンジ!」
シトロンの胸の星マークから無数の星と共に虹色の光の帯が飛び出し、シュシュを取り巻く。
♪シャラララ……キラキラキラ……♪
彼女の焼け焦げたツインテールの髪は何もなかったかのように復活する。それだけではない。更に長くぐいっと伸びて、パチンと反動で戻る際、ドリルのような縦ロールになった。
汚れ、ほつれていた衣装もデザインを一新し、より豪華で美しくなる。
パワーアップした『魔法少女☆スターライトシュシュ』の誕生だ。
彼女は再度足下を見た。もう総司の姿はビルの屋上に無い。避難してくれたのだろうとシュシュは思った。これで遠慮なく新しい必殺技を放つことができる。
彼女は再びツインテールの根元に左右の手をかざす。両手に光の輪が現れた。もう呪文は何を唱えれば良いのかわかっている。
「星々の物語たちよ。悪しき者へ自らを省みる裁きの言葉を与えたまえ。『星座の戒め』!」
シュシュはふたつのリングをケルベロスに向かって放つ。見た目は同じでも先ほどの『星屑の輪』とはその力は違うものだ。
ケルベロスはそれに気づいたのか素早く移動し避けようとする。……が、地獄の番犬の鼻先でふたつのリングははじけた。
「ギャンッ!?」
目の前で小さな爆発が起こった事で、音と光に驚いたケルベロスの足が止まった。
固まってリングの形を成していた小さな星たちははじけ飛んでバラバラに散らばり、しかし道を作るように金の細い糸で繋がれる。あっという間に幾つもの星座のかたちを作り、魔物の周りを包み込む。
シュシュがその掌をぐっと握りこぶしに変えた瞬間、星座の網はぎゅっと圧縮してケルベロスを捕えた。
「ギャオオオオオオオン!!」
耳をつんざくような咆哮をあげた地獄の番犬。しかしそんな抵抗は無駄だとばかりに星座の網はカッと強い光を放ち、一気に魔物の力を浄化した。
……後に残ったのはかわいらしい黒い仔犬。
「キャインッ」
仔犬は怯え、自分が出てきた丸い扉へ逃げ込み魔界へ帰って行った。その近くに再度怪人アークが現れる。
「クソッ!! シュシュまでがパワーアップしたか。しかし次はこうはいかぬ。覚えておけ!」
アークは捨て台詞を残してまた消える。と、同時に彼が作った丸い扉や結界も一度に消えた。
「はぁ、はぁっ……勝て……た……?」
シュシュは、今自らの身に起きたことが現実なのか曖昧なまま、ふらふらと身体の芯を失う。
ティアラとカチューシャがあわてて彼女を抱き止めた。
「シュシュ! やったねっ!」
「凄いわ! 貴女もパワーアップしたのね!」
「ええ……ふたりとも、今まで迷惑かけてごめんね……」
「そんなことないよっ!!」
「仲間でしょ、水くさいわよ!」
三人は手を取り合い、涙ぐみながらも笑顔で健闘を称え合った。
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