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16.素敵な出会いが…

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黙り込みただただ涙を流すダンテを放置し、お父様が言う。

「レヨング伯爵。我がハードラー子爵家から多額の援助をさせて貰っているが、もしすぐに婚約解消に同意して貰えないのならば今まで援助した金額全てすぐに返してもらいましょう」

お父様が伯爵に選択を迫ると、伯爵は苦しそうな表情をする。

2年前にレヨング伯爵領で川の氾濫から広範囲に渡り水害が起こり、その復興の為にハードラー子爵家から多額の援助をした。私もその復興に携わらせて貰った。
こちらとしても、領民を苦しめたい訳ではないので、返してもらおうとは思っていなかった。

「…申し訳ない。援助金は全て復興に当ててしまって返す事はできない。婚約は解消しましょう。今まで色々と助けて貰ったのに、恩を仇で返すような結果になって申し訳なかった」

伯爵は立ち上がり、頭を下げる。
伯爵が領民に無理を強いて金を巻き上げるような人ではなくて良かった…。

そうして、婚約解消の書類にサインを貰った。
生気を失ったダンテを引きずるように、伯爵は帰って行った。






「お父様、色々とありがとうございました。お手数おかけしました」

この3日ほどで事実確認や証言集め、婚約解消の準備…。お父様がいなければこんなにもスムーズに婚約解消できなかっただろう。


「良いんだ、良いんだシャティア。辛い思いをさせたな。どうだ、学園も少しの間休学して隣国に私と一緒に行かないか?」


確かに、今学園に行けば好奇の目に晒される事は間違いないだろう。
それに、あまり行く機会が無い隣国。お父様の仕事にも興味があるし、行かない理由が見つからない。


「良いのですか?ぜひ、行きたいです」

「勿論だ!そしてまたシャティアの婚約相手を探さねばならないな。ずっと結婚せず父の腕の中にいてくれたら1番嬉しいが、そういう訳には行かないからな」


娘の溺愛が過ぎる…。
貴族令嬢として、婚約相手がいないと後ろ指を指されるものだ。

「贅沢ですが、お父様とお母様のようにお互い思い合って過ごせるような…そんな相手の方と結婚できれば幸せだなと思います」


お父様とお母様は、貴族では珍しく恋愛結婚だ。
なんでも、舞踏会でヒールが折れてしまいしゃがみ込んでいたお母様にお父様が助けようと声を掛けた所、顔を上げたお母様に一目惚れをしたお父様がそのままお母様を抱きかかえてバルコニーへ出て、跪きすぐに告白したらしい。
それが12歳の頃。

お母様も、ヒールが折れてしまいどうすれば良いか分からなかった所、優しく声を掛けその場から連れ出してくれた力強いお父様に惚れてしまったらしい。


こんなにも素敵な出会いができれば、これ以上の幸せは無いだろう。


「シャティアにもそんな出会いが近い内にあるかもしれないぞ。さぁ、明日から隣国へ向かうから今日は早く休みなさい」


「ふふ、そうだと良いですね。はい、失礼しますお父様」



数分前に婚約解消したというのにお父様と穏やかに笑い合い、明日からの隣国への視察に期待に胸を膨らませる私は、自分で思っていたより逞しい人間のようだ。











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