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1.婚約者とその幼馴染
しおりを挟む「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」
甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテの胸に飛び込むこの女性は、ダンテの幼馴染ホンットーニ伯爵令嬢アリエラ様。
「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」
ダンテは私の様子をチラチラと伺いながらアリエラ様を軽く手で制止する。
困ったような声を出しつつも、その表情は喜色を隠しきる事ができていない。
そんな茶番を見せられている私は、シャティア・ハードラー。
ハードラー子爵家の娘だ。
今は、貴族の令息令嬢が通う学園の中庭で婚約者のレヨング伯爵家の三男、ダンテ・レヨングと昼食を取っているところで、使用人が用意したベーコンレタスサンドを丁度手に取った瞬間だった。
「あ、シャティア様もいたんですね~。気付きませんでしたわ!そんな事よりもダンテッ…あのねぇ…」
むしろ貴女がやってきた方向からはダンテよりも私の方が先に目に入るはずだ。
この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。
ダンテも始めは私の事を気にしていたものの、次第に私の分からない話を始めて2人の世界に入っていく。
いつもこうなのだ。
いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。
「まぁ、ダンテ。口の隣にソースが付いているわ」
そう言ってアリエラ様がハンカチでダンテの口元についたソースを拭き取る。
周りから見れば仲の良い恋人にしか見えないだろう。
とりあえず、手に取ったサンドウィッチを1人で美味しく頂く。
うん、やはりうちの料理人のサンドウィッチは絶品だ。
美味しく頂いた後、テキパキと片付けをしてその場を離れようと立ち上がる。
「お昼も頂いたので、私は次の授業の準備へ参りますね。ダンテ様はごゆっくりして行ってください」
私が少し頭を下げると、私を思い出したのかダンテが少し焦る素振りを見せた。
「あっシャティア…」
そう言ってダンテが立ち上がろうとすると、アリエラ様がすかさずダンテの腕を掴み座らせる。
「分かりましたわ、シャティア様!ほら、ダンテ。シャティア様もこう言ってるから、ね?」
そう言って私を見る目は優越感に浸り、どこか見下したかのような目をしている。
ダンテも戸惑いつつも座り直す。
「あ、あぁ、シャティア、また後で」
私は返事をする代わりにわずかに微笑み頭を下げ、その場を後にした。
伯爵家の三男であるダンテとは学園に入る前に婚約を結んだ。
ダンテと婚約を結んでからというもの、アリエラ様からの敵対心はひしひしと感じていたが、3ヶ月程前にアリエラ様の婚約者であるコニール様がこの学園を卒業されてから更に強いものとなった。
アリエラ様にも婚約者がいるのに…。
幼馴染であるダンテに対しての独占欲だろうか。
(はぁ…何でも良いけれど変な噂が立つような事はやめて頂きたいわ…)
今日も静かにため息をつき、午後の授業の準備をするのだった。
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