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2.我慢我慢
しおりを挟むパタンと扉が閉まる。
と同時に私の笑顔は消え去った。
嵐が去った…。
この店『ブティックフリージア』は、祖母が開業し私が20歳になった2年前に引き継いだ。
両親は今時には珍しく、様々な土地を旅している。
珍しい素材や、貴重な糸や布を自ら見つける為だ。王家御用達という事で特別に領地間を自由に移動する許可を得ている。
私はどちらかと言うと、デザインや経営に興味があった為、祖母の跡を継ぐことにした。
その為、この店の経営権は私にある。
しつこいようだが、この店は私の店だ。
配達などの仕事を頼む事があっても、
夫カルロの店ではない。
その配達ですら間違うことが多かったので別の店員に頼む事が増えていた。
カルロとは3年前、店に出入りしている業者に頼みこまれて見合いをして出会った。
カルロの猛アタックに根負けした形で結婚したのだが…。
自分の夫が不倫していたと言われてこれ程冷静でいる自分に驚く。
幸か不幸か、悲しみもさほど感じない。
それよりも、怒りの方がこみ上げてくる。
きっと驚かない理由は、想定内の事だったからだろう。
カルロが不倫している事はほぼ確定だ。
近頃の夫は日中どこへ行っているか分からなくなる事が多々あったし、石鹸の良い香りをさせながら帰宅した事も何度かあった。勿論朝帰りも。
そして、私にはメリッサさんが嘘をついているようには見えない。
何より、メリッサさんが着ていた服はブティックフリージアの服だった。庶民には手の届く物では無く、カルロが渡したとしか考えられない。
しかもその服は商品ではなく、試作品で店舗には並んでいないもの。
自宅に置いておいたものなので、カルロが持ち出した事はほぼ間違い無いだろう。
私は不倫よりも、未発表の作品を持ち出された事が1番許せない。
一枚の服を作るためにどれだけの時間と労力が費やされるかカルロは知らないのだろう。
発表前に人の手に渡ってしまった作品はもう商品にはできない。
これだけでは不貞の証拠としては甘いが、
あの様子だと、後日メリッサさんがたっぷり証拠を持ってきてくれる事だろう。
確かにこの2年間は特に忙しく、夫に構っている時間は少なくなってしまったが、邪険にした事は今まで一度も無い。
さぁ、仕事もろくにせず、妻の店を自分の店だと見栄を張り他所で不貞を働き、試作品まで盗む夫をどうしてやろうか…。
メリッサが持ってくるであろう証拠でカルロをどう料理してしまおうか考えていると、店の裏口の扉が開いた。
「ふぅ、疲れた~。フルール、ただいま~」
噂のカルロが帰ってきた。
仕事をしていないのに何を疲れるのだろうか。
思わず顔の筋肉が引きつりそうになるが、ここは我慢だ。
「おかえりなさい、カルロ。あら?何か首元に赤い…」
平然を装い、カマをかける。
「えっえっえっ!?」
そう言ってあたふた首元を抑えるカルロ。
もう、自白しているようなものだ。
「あら、赤いゴミだったわ」
そう言うとカルロはホッとした顔をした。
その顔を見てまた怒りがこみ上げて来たが、必死に抑える。
証拠を集めるまでの辛抱だ。
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