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2.信じていたもの

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私はエリス。17歳。

5歳歳上の恋人(いや、もう元恋人?)のアルベルトとは半年前に出逢った。

私はその頃趣味でレースを作っていて、自作のレースのリボンなどを孤児院に寄付していた。

孤児院の女の子達がいつも喜んでくれていたから、張り切って作っていた。

あの日も、孤児院へ作品を持って行ったのだが、通り雨に遭い急いで近くの民家の屋根下で雨宿りをさせてもらった。
たまたまその家にアルベルトが住んでいたという訳だ。
それから仲良くなって付き合うまで、さほど時間はかからなかった。


中々運命的な出逢いだと思うのだけれど…。
とんだ勘違いだったようだ。今目の前にいる恋人だったモノはよく分からない事を言っている。


「…それで、フルールさんとアルベルトはいつからそんな仲になったの?」

「先日、エリスがとても美人と歩いている所を見かけたんだ。その彼女と目が合って誘われたから彼女の後をつけたんだ。そしたら彼女は超人気ブティックの経営者であるフルールさんだったという訳だ!」


……え…。後をつけるとか気持ち悪…。
目が合っただけで誘われたと思うなんて怖い…。
まさかのストーカー疑惑に背筋が冷たくなり鳥肌が立つ。


「それって絶対アルベルトの片思いじゃない!目が合っただけで誘われたって…どれだけ拗らせてるのよ。良い?フルールさんが貴方の事を好きになる訳無いわ!だってフルールさんは…」

「あーーーー!!はいはいはいはい!女の嫉妬は醜いぞ!!悪いけど、もう何を言われても僕の気持ちが君に向く事は無いから諦めてくれ!」

私がせめてもの優しさで忠告してあげようとしたのに、それを遮って明後日な方向の事を言い出す。
それに何だかアルベルトに私が捨てられたかのような言われ方。冗談じゃない。

「もう良いわ!貴方がそんな大馬鹿野郎だと思わなかった!勿論別れてあげるわ。でも、フルールさんには迷惑をかけては絶対にダメよ!」


「はは、君がフルールさんと僕の仲を引き離そうと必死なのは分かるけれど、何をしてももう君を愛する事は無いんだ。いつもレースなんて作って遊んで貧乏で、男にも捨てられて…君は本当に哀れな女だな」

「なっ…遊んでなんてっ…」

ムキになって言い返しそうになったが、自分を落ち着かせる。これがこの男の本性だったんだ。
気付かなかった自分が悪いんだ。

ふーっと大きく息を吐く。


「もう良いわ。分かった。もう何も言わない。さようなら」

もう関わるべきでは無い。そう判断して足速にアルベルトの脇をすり抜けようとすると、アルベルトはわざと足を引っ掛けてきた。
咄嗟に避けようとするが間に合わない。躓き転びそうになった所をアルベルトに支えられる。


何を考えているの…!?


アルベルトの顔をキッと睨みつけその場から足速に去ったのだった。










「はぁ…」

アルベルトの姿が見えなくなる所まで移動して思わずため息を吐く。

彼の本性が早く分かって良かった。
別れて良かったんだ。

分かってはいるけれど、確かに彼の事は好きだったし、愛されていると思っていた。
レース作りを応援してくれていると思っていた。

信じていたものがそうではなかった。
それだけで涙が流れてしまうのはきっと仕方ない事
なんだと自分に言い聞かして涙を流すのだった。







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