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1章
白詰草①
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こんな状況の中でおかしな話だけれど、私は一瞬彼女に見惚れた。今まで見たことがないような整い方だったのだ。なめらかな陶器のような肌に、クリームを泡立てた角のような鼻、子どものように澄んだ大きな瞳、花弁のような淡いピンクの唇。
人形のような彼女は口を開いた。
「ぼんやりしていても誰かが殺してくれるのに自殺しようとするなんて、貴女もしかして変な人なの?」
折れそうに細い首筋が、傾けられた。
しかし言葉は辛辣である。
「・・・・・・別に死のうとした訳じゃないわ。あなたは割と失礼な人ね?」
私がむっとして言い返すと、
「それはそうかもしれない」
そう言って彼女は笑った。
屈託のない笑顔を見せられてしまうと、どうにも毒気が抜かれてしまう。
「ねぇ、殺して欲しかったら私が殺してあげるよ。ちゃんと苦しくないようにしてあげる。でも今じゃなくても良くない?」
「・・・・・・貴女、本当に変な人ね」
「貴女じゃなくて、ちなつって呼んで。掛川ちなつ。あなたは?」
「・・・・・・西野紡」
「紡ちゃん。可愛い名前だね、よろしく!」
それは無神経なほどの明るさだった。
「・・・・・・よろしく。それで? 何が目的なの?」
「ん?」
尋ねるとちなつは明るい瞳のまま首を傾げた。
「こんな学校に放り込まれて、私たち、殺し合えって言われてるんだけど? 何がしたくてそんな風に笑いながら話しかけてくるのか、正直なところ、理解に苦しむわ」
「でも、死ぬときは死ぬし、全員を殺さないといけない訳じゃないんだから、とりあえず仲間を作っておいた方が得じゃない? それに、あからさまにギラギラ殺意を滾らせている人とか、逆に心折れて今にも死にそうな人とかだったら仲間にしてもリスクの方が大きそうだけど、多分貴女、どっちでもないでしょ? そういうフラットな人が目の前にいたら、仲良くしておくほうがいいのかな~、なんて思って」
なるほど、一応の説得力はある。
「・・・・・・それにしたところで、その緊張感のなさはちょっと異常だと思うけど」
「そっか、それはそうかもね!」
これまた嬉しそうにちなつは頷いた。
本当に、いきなり変な人に出会ったものだ。
心底呆れるとともに、張り詰めていた心が知らずに少し緩んでいたことに気がついて、もしかしたらこれがちなつの目的なのかもしれないと、気持ちを引き締める。
リスクが増えないうちに、会話を終わらせよう。
「とりあえず明日も早いし、おやすみなさい」
「あ、待って」
慌ててちなつが呼び止めた。一番大事な目的を忘れてたというように、大きな声で。
「何か?」
「髪の毛、ちゃんと束ねた方が良いよ。元々ロングヘアなら、シニョン用のネットも支給されてるでしょ? 後ろだけガタガタになってる」
「あっ・・・・・・」
「淑女たる者、教師の前では品行方正であれ」
おやすみなさい、という小さな呟きの後には、きっちりと閉じられたライムグリーンのカーテンだけが揺れもせずにそこにあった。
風に靡いた洗いざらしの髪が首筋に刺さり、私は、ぞっとする思いでその微かな痛みを押さえつけた。
浅い眠りの遠くに、悲痛な叫びが聞こえた気がした。
人形のような彼女は口を開いた。
「ぼんやりしていても誰かが殺してくれるのに自殺しようとするなんて、貴女もしかして変な人なの?」
折れそうに細い首筋が、傾けられた。
しかし言葉は辛辣である。
「・・・・・・別に死のうとした訳じゃないわ。あなたは割と失礼な人ね?」
私がむっとして言い返すと、
「それはそうかもしれない」
そう言って彼女は笑った。
屈託のない笑顔を見せられてしまうと、どうにも毒気が抜かれてしまう。
「ねぇ、殺して欲しかったら私が殺してあげるよ。ちゃんと苦しくないようにしてあげる。でも今じゃなくても良くない?」
「・・・・・・貴女、本当に変な人ね」
「貴女じゃなくて、ちなつって呼んで。掛川ちなつ。あなたは?」
「・・・・・・西野紡」
「紡ちゃん。可愛い名前だね、よろしく!」
それは無神経なほどの明るさだった。
「・・・・・・よろしく。それで? 何が目的なの?」
「ん?」
尋ねるとちなつは明るい瞳のまま首を傾げた。
「こんな学校に放り込まれて、私たち、殺し合えって言われてるんだけど? 何がしたくてそんな風に笑いながら話しかけてくるのか、正直なところ、理解に苦しむわ」
「でも、死ぬときは死ぬし、全員を殺さないといけない訳じゃないんだから、とりあえず仲間を作っておいた方が得じゃない? それに、あからさまにギラギラ殺意を滾らせている人とか、逆に心折れて今にも死にそうな人とかだったら仲間にしてもリスクの方が大きそうだけど、多分貴女、どっちでもないでしょ? そういうフラットな人が目の前にいたら、仲良くしておくほうがいいのかな~、なんて思って」
なるほど、一応の説得力はある。
「・・・・・・それにしたところで、その緊張感のなさはちょっと異常だと思うけど」
「そっか、それはそうかもね!」
これまた嬉しそうにちなつは頷いた。
本当に、いきなり変な人に出会ったものだ。
心底呆れるとともに、張り詰めていた心が知らずに少し緩んでいたことに気がついて、もしかしたらこれがちなつの目的なのかもしれないと、気持ちを引き締める。
リスクが増えないうちに、会話を終わらせよう。
「とりあえず明日も早いし、おやすみなさい」
「あ、待って」
慌ててちなつが呼び止めた。一番大事な目的を忘れてたというように、大きな声で。
「何か?」
「髪の毛、ちゃんと束ねた方が良いよ。元々ロングヘアなら、シニョン用のネットも支給されてるでしょ? 後ろだけガタガタになってる」
「あっ・・・・・・」
「淑女たる者、教師の前では品行方正であれ」
おやすみなさい、という小さな呟きの後には、きっちりと閉じられたライムグリーンのカーテンだけが揺れもせずにそこにあった。
風に靡いた洗いざらしの髪が首筋に刺さり、私は、ぞっとする思いでその微かな痛みを押さえつけた。
浅い眠りの遠くに、悲痛な叫びが聞こえた気がした。
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