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【二課・伏見班】 小動物系男子・小橋光

♧3-2♧ 光ちゃん、勇気を出す!

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 さぁて、それからはもう大変だよ。
 せっかく他人の恋を高みの見物~、なんてのん気に考えてたのにさ。

 とは言っても、何か特別なことをするわけでもないんだ。
 僕みたいのがいまさらどうあがいたって大槻主任みたいなムキムキマッチョになれるわけでもないし、主任みたいにぽんぽんと契約が取れるわけでもない。僕は僕のままで勝負するしかないんだ。だってもし何らかの奇跡が起こって僕が大槻主任みたいになったり伏見主任みたいになったとして、だよ? それで上手くいったって、絶対続かないよ。僕は誰かになりたいわけじゃないし。

 だから、僕のままで勝負するんだ。



「小橋君、えっと、話って何?」

 時間は止まってくれない。
 大人になると時間が早く経つような気がするのは何でだろう。
 誰かが言ってたのは、『慣れ』じゃないかって。
 いや、本当のところはわからないけど、僕はその『慣れ』説をちょっと信じてるんだ。
 つまり、小さい子どもはまだ1分、1時間、1日、1週間っていう時間に慣れていない。経験が乏しいんだ、まだ。僕達だって何か新しいことを始めたら、それに慣れるまでに結構な時間を要する。そして、その作業自体もかなり時間がかかる。それと同じ。子ども達はまだ時間というものを上手く使えていないんだ。慣れていないから、時間がとても長く感じる。だけどもう僕らは、それなりに生きてきて時間の使い方をわかってるから、慣れ親しんでいるから、時間をあっという間に消費してしまうんだ、と。

 まぁ、そんなわけで、藍ちゃんは無事、告白を成功させた。
 悔しいのはさ、どんなシチュエーションでどんな告白をしたのかって聞いても絶対に教えてくれないって部分かな。ま、仕方ないよね。大人同士だし、もしかしたら大人のやり方で告白したのかもしれないじゃない。――え? 大人の告白? そんなの僕の口から言えるわけないじゃないか。

 さ、次は僕の番なんだ。
 手応え? そんなのあるわけないよ。ただひたすら話しかけたりご飯を誘ったりしただけ。
 でも、むしろ、ここから、と思ってる。
 たぶん、たぶんだけど、瀬川さんは僕のこと男なんて思ってないよ。後輩だとは思ってるけど。何かいつも話しかけて来る小動物みたいな仲の良い後輩君、それくらいなら御の字かな。あぁどうか、うざい、とかじゃありませんように。
 だけどさ、告白なんてしたら、さすがに僕が男なんだってわかってもらえるんじゃないかなって。

 今日もちょっとご飯食べに行きませんか、なんて誘ってさ。
 駅前に新しいパスタ屋さんオープンしたじゃないですか、なんて。
 そこ、シェアが前提のサイズになってて、Mサイズが既に2人前くらいあるらしいじゃないですか、って言ったらさ、 

「私も行ってみたかったんだ! でも一人では無理だし。友達に声かけようかなってちょうど思ってたんだよね」って。

 そんな嬉しそうな顔してくれるの。これは反則だよ。
 僕、体型の割には良く食べる方だと思うからさ、これは頑張るしかないよね。何としても瀬川さんにはデザートまで美味しく食べさせてあげないと。

 で、ちょっと驚いたのはさ、瀬川さんの食べっぷりだよね。
 えー、ちょっとキャラじゃないなぁ、なんて思ったり。
 だって主任との飲み会の時とかあんまり食べないじゃないですか! え? あれってもしかして主任の前だから遠慮してたとか? でも何でだろ、そういうところもすごく好き。きっと瀬川さんって可愛いだけの女の子じゃないんだ。そんなところを発見する度、僕の心はざわざわしちゃうんだよ。
 
 結局僕達はナスとトマトのミートソースときのこたっぷり和風カルボナーラのMサイズをシェアして食べ、デザートに丼サイズのティラミスを仲良くはんぶんこして食べた。サービスのコーヒーを飲んで一息ついたところで、僕は勇気を出したんだ。

「瀬川さん、大事なお話があるんです」って。

 時は2月。
 来週にバレンタインを、そして月末には慰安旅行を控えたこの時期に、僕は勇気を出したのだった。

 ――え? バレンタインの話も聞きたい? 
 いま僕それどころじゃないからね。ていうかさ、これが失敗したら、僕、正直バレンタインとか地獄じゃない? だから、まぁ、別の人がレポートしてくれるの期待しててよ。ね。


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