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【二課・中西班】 ゆるふわガーリー・瀬川優紀

◎2-1◎ ゆるふわ瀬川の恋バナ!

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「主任、オーケーです。会社の人は誰もいません!」

 偵察部隊(1人だけど)として先に露天風呂へと向かった私は、主任に向かって親指を立てた。それを見て、主任は何だか苦笑いをしながらやって来る。

「うぅ……外はやっぱり寒いぃ。早く早く」

 そんなことを言って、ゆっくりと爪先を湯に入れる。湯温はやはり少々熱めだがいまはむしろそれがありがたい。頬に触れる風は冷たく、心地良かった。

 ふふ、いままで主任の恋バナって『過去の恋愛(といってもただの駄目男エピソードだったけど)』ばかりだったから、進行中のお話聞いてみたかったんだぁ。

「で? 主任、片岡君のどこに惹かれたんですか?」

 社内の人間が誰もいないとはいえ、大声で話せるような内容でもない。いつもより低いトーンで問い掛ける。

「どこに、と聞かれるとなぁ……具体的な部分はちょっとわからないなぁ」

 おや、主任ってば首を傾げていらっしゃる。

「えっと……ちなみに告白は片岡君から、ということで良いんですよね?」
「それは……そうだね。うん、向こうから、だね」
「で、オーケーした、と」
「うん、まぁ……そう、だね」

 むむむ、何だか煮え切らない。もしかして主任、照れてます?! ちょっと可愛いんですけど!!

「主任は前から片岡君のこと気になってたんですか?」
「そりゃ一人前の営業マンになれるように――」
「いえ、そういう意味ではなく。ひとりの男性として、ですよ」
「うぇっ!? そう言われると……研修後から気になってたかな。ほら、片岡君、全然しゃべらなくなって」
「ありましたね、その節はウチのモニターで大変お世話になりました」
「いや、お役に立てて――ってそれは片岡君に言ってやって」

 はは、と主任が苦笑する。悔しいなぁ、こんな恰好良い人独り占め出来るなんて。片岡君、割とマジで恨むから。

「主任、その、片岡君って年下じゃないですか」
「そうだね」
「それに――こう言うのもアレですけど、役職もないじゃないですか」
「うん」
「気になりませんか? 主任は。片岡君も気にしてたりしませんか?」

 私ならどうだろう、って最近ちょっと考えてしまう。
 っていっても、別に私は何の役職もついてないんだけど。

 だって、冗談なのか何なのか、小橋君が言うから。

『僕、瀬川さんのことが好きです』

 なんて。
 いつもいつも「瀬川さん可愛い」とか言ってくれるけど、まさか本気だったなんてさぁ。思わず「ごめん、保留で!」って言っちゃったけど。
 
「うーん、自分は気にしないけど……。確かに片岡君はちょいちょい年齢を口にするかな」
「やっぱり」 
「でも、それはいまが若いから気になるんであって、70歳くらいになったらもうどうでも良いというか」
「主任、そこまで見据えてましたか」

 ていうかこれはもう結婚してますよね、さすがに!
 何なら孫までいるレベル!

「それにほら、女性の方が長生きだし、ちょうど良いんじゃない?」

 そんなことを真っ赤な顔でさらりと言って。ていうか主任ってめっちゃ長生きしそう。

 でも、やっぱりちょっとイメージが沸かないというか。だってあの片岡君だよ? 何かいつも自信なさげに背中を丸めてて、しゃんとしてればそれなりに恰好良く見えるのに、なーんかもったいない。そんな印象。元ヤンなのかなってくらいに目付き悪いしさ。違うらしいけど。むしろ中身はちょっと……いや、かなり草食? 話してみるとわかる。優しいんだけど、押しが弱いっていうか……ヘタレ? そんなんでこのスーパーハンサムな主任の恋人なんて務まるの? いや、こんなこと絶対主任には言えないけど。

「話とか合います? ジェネレーションギャップとかありませんか? 共通の趣味とかあるんですか?」

 3つ4つ離れると青春時代のブームだってやっぱり違う。ブームって結構移り変わりが激しいから。

「うーん、ジェネレーションギャップはいまのところはないよ。2人共たぶんそんなに流行りってものを追い掛けてなかったんだろうね。共通の趣味は……まぁ、あるにはあるかな。2人ともスポーツとか身体を動かすのが好きだね。ただ……」
「ただ?」

 そこまで言うと、主任はちょっと熱くなってきたのか、湯の中にある大きめの岩に腰掛けた。みぞおちから上が露出する。

 陸上の選手だった伏見主任はいまもジムに行ったりジョギングをしたりしているらしく、無駄なお肉が全然ない。それを女性らしくないと言う人もいる。だけど私はそのほどよく筋肉のついたその身体をとてもきれいだと思う。そりゃ胸は私の方があるけど、こんなの年取ったら垂れるだけなんだから。

 私に言わせればアレね、女らしくないなんて言ってるひとっていうのは、その無駄なお肉でしか主任に勝てないからここぞとばかりに言ってるだけだし、男にしたってそこくらいしか突くところがないからそう言ってるだけだ。要は、皆ひがんでるのよ。絶対そう。もしも神様が現れて、「いますぐそいつと入れ替えてやるけど、どうする?」って聞かれたら、「ぜひ!」って身を乗り出すんだ、ああいう手合いっていうのは。

「得意なのは違うんだ。片岡君は球技の方が好きだし、自分はむしろ球技以外が専門というか」
「それってやっぱり違うんですか?」
「いや、それでも見る分には問題ないんだけどね。サッカーや野球も見るし、ボクシングや駅伝も見る。でもほら、実際にやるとなると――あぁ!」
 
 主任は、ざば、と勢いよく立ち上がった。
 きれいにくびれた細いウエストにきゅっと引き締まったお尻。うん、やっぱり主任はきれいだ。

「どうしたんですか、主任!?」
「すっかり忘れてた! 片岡君と卓球で勝負する約束をしてたんだ!」
「卓球って……あのフロントの脇にあった……あれですか?」
「そうそう。まぁ勝負にならないかもしれないけど。でも、勝負というからには負けられない。というわけで、悪いんだけど、宴会の後でゆっくり話そう、瀬川君!」

 待ってろ、片岡君! と、勇ましく湯を掻き分けながら主任は行ってしまった。

 勝負にならないって……主任が負けるってこと?
 あぁでも確かに主任は球技以外が専門って言ってたっけ。まぁ運動が大の苦手な私からするとちょっと信じられない話ではある。だって足の速い子は、球技だって上手だった――と思う。少なくとも私よりは。

 でも、あの主任が負ける?
 顔良し性格良しスタイル良し。営業成績も良くて人望も厚い完璧超人(家事は除く)の主任が?

「これは……ファンとして見届ける義務があるわね」

 そうと決まればのんびり湯に浸かっている場合ではない。
 私もざばざばと湯を掻き分け、主任の後を追った。



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