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オサム

可哀想なのは誰なのか(8)

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【再度注意!Rシーンに拘束、アナル、腐女子を連想させる描写があります。苦手な方は飛ばして読むことをおすすめします。】



「ナミちゃ、や、やめーー」

「ふふっ、オサムくん怯えてるの?怖い?震えてる。可愛い」

 完全に腰が引けている僕を宥めるように、ナミちゃんは僕の頬を優しく包み、ちゅっとキスをした。

「オサムくんが頑なに拒否らなかったら、ここまでしなくても良かったんだけど」

 そう言ってナミちゃんは僕の太ももに巻かれたバンドを、するっと撫でた。そのバンドは僕の手首にも巻かれている。
 右手と右太腿、左手と左太腿がぴたりとくっついて離れない。どうにか外そうと足掻いてみるもマジックテープの接着が強力でびくともしない。裸に剥かれ、逃げようにも隠そうにも身体を動かすことができず、気付けば全身がカタカタと小刻みに震えていた。そんな僕を見て、ナミちゃんが哀れみをこめて眉を顰める。うっそりと頬を染め、瞳に隠し切れない情欲を宿しながら。

「怖がらないで、オサムくん。大丈夫、痛いことはしないから。気持ちよくなるだけだよ。いつも以上に、いっぱいね」

「……な、ナミちゃん。これ……外して」

 家に帰ってきてすぐ、僕はナミちゃんのされるがままに服を脱がされ、そしてバッグから徐ろに取り出されたこのバンドで両手足を固定された。
 何の変哲もないただの黒いマジックテープ。それがまさかこんな用途に使うためのものだなんて。一体誰が予想できたというのか。
 後悔したくても抵抗したくても、もう遅い。完全に手足の自由を奪われ、体勢を変えることすら難しい状況では、まともに動かせるのは頭と口だけだ。自分で外すことができないのなら誰かに外してもらうしか方法はないのだが、唯一それが可能だと思われるナミちゃんの顔を見る限り、万一にもその気はなさそうだ。つまり詰んでいる。

 今までの経験上、ナミちゃんが僕の意に反することは絶対にしないという確信があった。あったのだけど、本当に大丈夫なのだろうか。目を爛々と輝かせ舐めまわす様に僕を見つめるナミちゃんに若干の、いやかなりの不安を覚える。むしろ不安しかない。

「それは駄目。だって外したら逃げるでしょ?オサムくんがどんなに優しくて細っちいモヤシ男だとしても、力じゃ絶対敵わないもん」

「も、モヤシ?」

「あ、ごめん。つい本音が、てへっ。でも悪口じゃないよ?むしろそんなとこが大好きだから。っていうかオサムくんの全部が大好きだから」

 僕を見つめるナミちゃんの目は、僕を見ているようで僕を見ていない。飲んでもないのに酒に酔っているかのようだ。箍が外れている、というか目が完全に飛んじゃってる。そして、とても生き生きとしている。

「一つ一つ言ってあげようか?まずオサムくんの、この小学生からずっと同じですって言わんばかりの髪型でしょ?お洒落の欠片もないくそダサい黒縁眼鏡に、綺麗すぎる一重、それに見本のような三白眼。特徴の全くない鼻と口に、細すぎる身体。そして私よりも白い肌。この骨ばった指も、控えめに生えてる体毛も……全部全部!……ああ、最高っ!どこまでも私の理想にぴったりで、初めて見た時は幻かと思って、二度見どころか二十度見したよ!」

 感嘆のため息を漏らしながら、ナミちゃんが僕の身体を順番に撫でさする。そして鼻息荒く耳の後ろを、くんかくんかと思いきり嗅がれ、思わず全身に鳥肌が立った。

「あとね、ここ」

 ナミちゃんの手がそろっと降り、僕の半身に伸びた。

「可愛い。ビクッて跳ねた。やだやだ言いながら、もうちゃんとおっきくなってるよ。ふふ、もしかして興奮してるの?はあ、綺麗」

 そんなことない!と否定したくてもできなかった。僕自身いつの間にかギンギンに勃起していることに気付いていたから。
 これから何をされるのか、ものすごく怖い。でも、反対にゾクゾクしている自分もいた。恐怖ではなく、未知なる快感への期待によって。
 ナミちゃんの手によって僕の心と身体は、すっかり躾られていたようだ。掌の上で良いようにコロコロと転がされている。その事実に気付き、反発心を抱くどころかホッと安堵している僕は完全に手遅れだ。
 いつもと違う、ナミちゃんの獲物を狙う捕食者のような瞳が、僕の股間を焼けるほど熱くした。

「あっ、ナミちゃん!は……あ」

「ふあ、おいひ……んく」

 慣らすことなくいきなりパクリと口に含まれ、本当に咀嚼するかのように深く咥えられた。ナミちゃんの小さな口に無理やり詰め込まれ、ペニスの先端が喉の奥を突き上げるのがたまらない。
 ずちゅずちゅと、ナミちゃんの動きに合わせて卑猥な音が鳴り響き、部屋にこだましている。ナミちゃんの奏でる卑猥な音によって、脳みそまで愛撫されているようだ。少し気を弛めたら今すぐにでも暴発するだろう。そんな暴力的な気持ち良さに襲われる。ぎりっと歯を食いしばって、僕は必死にそれに耐えた。

「……ぷは。ほら、オサムくんも見て。こんなに真っぐで滑らかで、一見美術品みたいに綺麗なのに、その上にある赤黒い亀頭が卑猥さをぐっと引き立ててるでしょ。それでいて、根元にはグロテスクとも生々しいともいえる睾丸。ふふ、パンパンに膨れて早く出してくれって懇願してるみたい。計算しつくされたような完璧なフォルム、バランス、それに色。あと、匂い。はあ、こんなおちんちんが現実にあるなんて」

 今にも頬ずりをしそうなくらい、ナミちゃんがうっとりと僕のペニスを見つめている。ちょっと、いやかなり、今のナミちゃんはやばい。完全に常識の域を逸脱している。
 僕のペニスが……なんだって?

 これが本来のナミちゃんなのか、今だけなのかはわからないけど。
 彼女の言動にドン引きしてもおかしくないのに、本当に愛おしそうに、物欲しそうに僕のペニスを愛でられ、それを純粋に嬉しいと感じている僕もいて。そして、そんなナミちゃんを可愛いと、愛しいと感じ始めている僕も、多分同じくらいやばい。

「ふふふ、ねえ。触っても舐めてもないのに我慢汁が溢れてきてるよ。何で?見てるだけで興奮するの?それとも縛られてるから?ねえ、この汁がベッドに零れるまで、ずっとこうやって見てたいな」

「なっ!酷いよ」

「オサムくんのおちんちんが泣いてるみたい。とっても綺麗、ずっと見てたい。あ、そーだ!写真撮っていい?」

 何気ない口ぶりから本気度が伺えて、ハッと我に返った。
 そんな、食べに行ったご飯をSNSに載せていい?と同じようなノリで、僕の勃起したペニスを撮られたらたまらない。というか撮られたら最後、本当にSNSにアップされそうだ。今のナミちゃんなら、やりかねない。ふわふわと酔っぱらったような頭が一気に醒め、僕は全力でそれを否定した。

「ダメだよ!いい訳ないでしょ!ねえ、ナミちゃんお願い。もうこれ解いて。絶対逃げたりしないから。もちろんナミちゃんに痛いこともしない。……もう、ナミちゃんの中に入りたくて、限界なんだ」

「ふふ、可愛い。可愛すぎるよオサムくん!もっともっとおねだりされたいな。……入れたいの?」

 誘う様な挑発的な視線に、ゴクリと生唾を飲む。ナミちゃんからほとばしる匂い立つような色気にあてられ、またしても頭が麻痺してくる。
 何かを考える前に、「入れたい」と口走っていた。

「私と別れないなら入れさせてあげる」

「……そ、れは。でも、ナミちゃんが……」

「まだグズグズ言ってるー。はい、ダメー。このままお預け」

 クスクスと笑いながらナミちゃんが身体を起こし、「どうしてそんなに嫌がるかなあ」と可愛く首をひねる。そして憂い気な瞳で斜め上の天井を見つめ、独り言のようにぶつぶつと呟いた。

「どうしても私と別れたいっていうなら、やっぱり私から離れられない身体にしないと駄目かな。うん、仕方ないよね。本当はやりたくないんだけど、オサムくんが頑ななのがいけないよね?しぶしぶだよ?不本意だよ?全然乗り気じゃないんだからね?」

 しばらく一人でうんうんと頷いたかと思うと、納得のいく答えが導かれたのだろう。ナミちゃんは天井からすっと僕に視線を向け、その瞬間、僕の背筋が一気に凍り付いた。
 情欲に濡れたものとも、鋭く射抜く猛禽類のようなものとも違う。
 泣いている、諦めている、憐れんでいる。それでいて、どうしようもなく喜んでいる。
 そんな視線だった。

 悪い予感しかしない。聞きたくない聞いてはいけないと思いつつ、「……何、を?」と心の中で思った疑問がすでに口からでていた。ナミちゃんがにいっと目を細め、カバンからまた何かを取り出し、じゃーん!とばかりに僕に見せた。

「これ、分かる?」

 歯磨き粉よりも大きな、髭剃りジェルくらいのチューブ。状況から言って、思いつくのなんて一つしかない。「……ローション?」と恐る恐る口にすると、ナミちゃんが無邪気に笑った。

「ぴんぽんぴんぽん大正解!じゃあ使い方は?」

「……」

「知らないの?じゃあ教えてあげる!これをね、お互いの身体に塗り合ったり、おちんちん擦ったり、そのまま中にはめたりすると、とっても気持ちいいんだって!使ったこと……って、あるわけないか。でもね、今日は違う所に使いまーす。ねえねえ、どこか分かる?」

 隠し切れないウキウキワクワクドキドキが、ナミちゃんの全身から迸っている。嘘だろ、と半信半疑に思う気持ちと、嘘であってくれと懇願する気持ちが、僕の心の中で暴れている。ナミちゃんは僕をじっと見つめたまま一旦口を閉じ、今度はにこっと可愛く笑った。

「オサムくんのーーここ」

 ナミちゃんの小さくて可愛い手が、ギンギンに勃ち上がった僕のペニスを通り過ぎ、パンパンに膨らんだ睾丸も通り過ぎ、そしてーー

「……や、やめ」

「止めてほしいの?」

 コクコクと何回も首を縦に振る。本能的な恐怖で、言葉が出ない。

「私と別れない?」

 ブンブンブンブン、さらに振る。拘束され身動きのできない身体はカタカタと震え、まともに思考も働かない。ナミちゃんの声がワントーン低くなったことも、いつのまにか憎いとばかりに僕を睨みつけていることも、全く気がつかなかった。

「私とずっと一緒にいる?他の女としゃべったり触ったり、キスしたりフェラしたりセックスしたりしない?」

「しないっ!しないよ!ナミちゃんだけだよ!ずっと、ずっと別れないから、だから!」

「……嬉しい。でも駄目」

 ナミちゃんは僕の言葉にほんのりと頬を染め、そしてぴしゃりと言い放った。目の前が、絶望に染まる。

「私のこと好きじゃなくても、なんてさっきは言ったけど、やっぱり私のこと好きになって欲しいし、神成さんに告白したとか聞いてムカついた。神成さんのこと思いながら私を抱くとかふざけんなバーカってずっと思ってた。私の小さいおっぱい揉みながら、ああ神成さんのバカでかいおっぱい揉みたいなーとか妄想してんのかと思ったら泣きたくなった。ありのままのオサムくんをまるっと包み込んじゃうくらいオサムくんのことを大好きすぎる私だって、ちょっとは傷付くんだよ?わかってる?」

 ナミちゃんが可愛い笑顔を張り付けながら、泣いている。そして、怒っている。

「でもね、そんな葛藤しながらも快楽に抗えなくて私の身体に溺れるオサムくんも大好きなの。NTRシチュみたいだなって、私もその状況に酔いしれてた部分もあるから、一概にオサムくんを責められないんだけどね。しかもさ、オサムくんは絶対に受けなのに、私とのセックスは攻めな訳でしょ?リバとか無理って思ってたんだけど、だんだんイケるかもって思えてきて。むしろ、バリネコなくせに好きな子のために頑張る、みたいな構図が出来上がって、一人でめっちゃ萌えてた」

 かと思ったら、うっとりと夢見がちな少女の目をし、何かに浸りはじめた。
 NTR?リバ??
 ナミちゃんの発する単語が全く分からず、でもそれを質問することもできなかった。聞いてはいけない、パンドラの箱的なオーラがぷんぷんする。

「……とりあえず、これ外して」

「だから、駄目だって。そんな口約束だけじゃ信じられない傷ついた私の気持ち、わかるでしょ?だからね、やっぱり身体に教え込んで私以外の女とはセックスできない様にしないといけないと思うの。私以外には勃たないように、私以外ではイケないように」

 ぐいっとナミちゃんが顔を寄せて、僕のペニスを優しく包んだ。

「そんなに脅えないで。大丈夫、うんと気持ちよくさせるから。やり方は主に、漫画とか小説とか漫画とか漫画とかで学んだだけだけど、大丈夫。初めてでも皆ちんちん突っ込まれてヒーヒー善がってたし、私の指なんて楽勝だよ。ほら、身体の力抜いて。リラックスリラックス」

 話しかける相手が違う。
 そして、いい子いい子と撫でる場所もそこではない。分身ではなく本体を見てほしい。
 そうツッコみたいが、とてもそんな余裕はない。
 絶体絶命。どうにかナミちゃんを説得して全力回避したいのだが、はあはあと鼻息荒く一心にそこを見つめるナミちゃんに、果たして僕の言葉は届くのだろうか。僕のペニスと意思疎通を図る彼女に、人の言葉が理解できるとは到底思えない。

 と、現実逃避をしていたのがいけなかった。
 隙ありとばかりにナミちゃんの指が降り、そしてーーー

「ナミちゃん、や、やっ。……う……くっ、んんん!!…………………………ぁ」



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