霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太

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別れと新たな旅立ち

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出発の日が近づくにつれ、僕の心は複雑な感情で満ちていた。荷造りをしながら、これまでの生活を振り返る。部屋の隅々まで目を凝らすが、オリヴィアの姿は見えない。

「オリヴィア...どこにいるの?」

静寂だけが返ってくる。彼女の存在が消えてしまったのではないかという不安が、僕の心を蝕んでいく。

ノックの音がして、リリーが入ってきた。

「アリストン様、ヴェイルミストについての情報をお持ちしました」

「ありがとう、リリー」

リリーから受け取った書類に目を通す。ヴェイルミストは、想像以上に厳しい環境のようだ。霧に覆われた寒冷な土地。疫病や飢饉の記録。そして、住民たちの不信感...。

「こんな場所で、僕に何ができるんだろう...」

不安が胸に広がる。書類をさらに読み進めると、ヴェイルミストの詳細が明らかになっていく。

領地の大部分は深い森に覆われ、年中霧が立ち込めているという。その霧が原因で、日光が地表に届きにくく、作物の育成が難しいらしい。住民たちは主に森の恵みと羊の飼育で生計を立てているが、収穫は不安定で、飢饉が頻繁に起こるとのこと。

さらに、霧の中には奇妙な生き物が潜んでいるという噂もある。それらの正体は不明だが、時折村人が姿を消すことがあるらしい。これが疫病の噂の元になっているのかもしれない。

統治の面でも問題が山積みだ。前任の領主は数年前に失踪し、それ以来、ヴェイルミストは実質的に無統治状態が続いている。村々は独自の掟で運営され、中央からの命令はほとんど機能していないという。

そして、最も憂慮すべきは住民たちの態度だ。彼らは長年の苦難から、外部からやってくる者に対して強い不信感を抱いているらしい。新しい領主である僕を、彼らがすんなりと受け入れてくれるとは思えない。

「これは...予想以上に難しそうだ」

僕は深いため息をつく。しかし同時に、どこか心の奥底で小さな期待も芽生え始めていた。これまで誰も成し遂げられなかったことを、自分の力で実現できるかもしれない。それは、大きな挑戦であると同時に、自分の価値を証明する絶好の機会でもある。

「よし、やってみよう」

決意を固めつつも、不安は完全には消えない。これから始まる未知の生活に、期待と不安が入り混じる複雑な思いを抱きながら、僕は準備を続けた。

そのとき、ふと窓の外に目をやると、庭で剣の練習をするヴィクター兄さんの姿が見えた。彼の力強い動きを見ていると、自分の無力さを痛感せざるを得ない。

夜、眠れぬまま天井を見つめていると、かすかな気配を感じた。

「オリヴィア...?」

薄い霧のような姿が、部屋の隅に現れる。

「アリストン...」

オリヴィアの声は、いつもより遠く感じられた。

「どこに行っていたの?僕、ずっと...」

「ごめんなさい、アリストン。私...もう長くここにはいられないの」

その言葉に、僕は飛び起きた。

「どういうこと?オリヴィア、君がいなくなったら僕は...」

オリヴィアは悲しそうな表情を浮かべた。

「あなたが成長するために、私はもういない方がいいの。これからは、自分の力で道を切り開いていかなければ」

「でも、僕には君の力が必要だ!ヴェイルミストで一人でやっていけるわけない...」

オリヴィアは静かに首を振った。

「あなたには特別な才能がある。それを信じて。私がいなくても、きっと大丈夫」

涙が溢れてくる。オリヴィアの姿が少しずつ薄くなっていく。

「待って!オリヴィア!」

手を伸ばすが、彼女の姿は霧のように消えていった。

「さようなら、アリストン。あなたの幸せを祈っています...」

最後の言葉が、風のように部屋を通り抜けた。

僕は膝を抱えて座り込んだ。オリヴィアとの別れ。それは、これまでの生活との決別を意味していた。

朝日が差し込み、出発の時が近づいてきた。荷物を最終確認しながら、お祖母様からもらった魔法の本を手に取る。

「僕にしかできないこと...か」

オリヴィアの言葉を思い出す。彼女は僕を信じてくれていた。だから、僕も自分を信じなければ。

エドガー兄さんが部屋に入ってきた。

「準備はできたか?」

「はい、兄さん」

エドガー兄さんは少し言いにくそうに口を開いた。

「アリストン、ヴェイルミストは厳しい土地だ。でも、お前なりのやり方できっと...」

「ありがとう、兄さん。頑張ります」

エドガー兄さんは僕の肩を軽く叩いた。その仕草に、言葉にできない思いを感じた。

城の門前。家族全員が集まっている。父上の厳しい表情。ヴィクター兄さんの無関心な態度。そして、お祖母様の温かな眼差し。

「行ってきます」

馬車に乗り込む直前、最後にもう一度振り返った。窓際に、かすかにオリヴィアの姿が見えた気がした。

馬車が動き出す。僕の新しい人生の幕開けだ。不安と期待が入り混じる中、ヴェイルミストへの長い旅が始まった。

窓の外の景色を見つめながら、僕は静かに誓った。

「オリヴィア、お祖母様、見ていてください。僕は必ず...自分の道を見つけてみせます」

霧に包まれた未知の土地、ヴェイルミスト。そこで僕を待ち受けているものは何か。それはまだ分からない。でも、これが僕の物語の始まりなのだ。

馬車は城を遠ざかり、僕の新たな運命へと走り続けた。
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