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ふたりで未来へ 1

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◇◇◇


「陽斗君、後は僕がやってあげるから、君はもう座ってなさい。立ちっぱなしはつらいだろう」
 ダイニングから顔を出した高梨が、心配げな様子で話しかけてくる。
 夕食の用意をしていた陽斗は、土鍋の蓋を手にしながら首を振った。

「大丈夫だよ。もう仕あがったから。これをそっちに持っていったら終り」
「じゃあ僕が運ぼう」
 高梨がキッチンにやってきて、陽斗の横に立つ。
「すごく美味しそうだ」
 土鍋の中の鯛飯を見ながら微笑んだ。

「けど、急に人数が増えたし、急いでたから、ちょっと焦げたみたい。大丈夫かな」
 鍋から立ちのぼる湯気がこげ臭い。割と心配になるレベルだ。
「え? じゃあ、コレ、失敗作?」
 高梨が期待を含んだ顔になる。

「そうかもしんないけど、まだわかんないよ」
 せっかく一所懸命作ったのだ。陽斗としてはやはり美味しく食べてもらいたい。口を尖らせた陽斗を見て、高梨は「ごめん」と頬にチュッとキスをした。

 その甘い仕草に、胸がときめく。
 高梨は先ほど目覚めたときから、陽斗に対してデレデレになった。
 元々甘いところはあったのだが、さらに蜂蜜に砂糖をまぶしたようなスイーツの塊になってしまった。恰好いいレア・アルファなのに、目尻はさがりっぱなしで声まで蕩けている。

「あと少し蒸らしたらできあがりだから、そろそろふたりにもきてもらわないと」
「わかったよ」
 高梨が鍋を持ち、陽斗が茶碗を手にして、ダイニングのテーブルに移動する。小鉢を準備したり、箸を並べたりしていたら、光斗と津久井がやってきた。
 
「わー美味しそう」
 ふたりともシャワーを浴びたらしく、すっきりとした顔をしている。そして光斗からは何の匂いもしなくなっていた。

「光斗、噛んでもらった?」
「うん。陽斗もだね」
「ああ」
 ふたりで互いのうなじをたしかめあう。そこにははっきりと歯形がついていた。

「オレたちってやっぱ双子だよね。一緒に番を得ることができるなんてさ」
「そうだな」
 不思議な巡りあわせでこうなったことを、誰にともなく感謝したくなる。
「な、光斗」
「うん?」
 陽斗は弟にそっと耳打ちをした。

「津久井さん、怒ってなかった? 俺が、その、お前となりゆきだけど、しちゃったこと」
「ああ」
 光斗は陽斗の心配を知り、安心させるように微笑んだ。

「大丈夫。怒ってないよ。津久井さんには、以前から陽斗のことを頼りになる兄貴だって話してたし。あの人は医者だから、発情中のオメガがどれだけ大変になるのかもよく理解してるしね」
「……そか、ならよかったよ」
 ホッと息をつくと、光斗はちょっと悪戯いたずらっぽい目をする。

「でも少し妬いてたかな。仲がよすぎるって」
「えっ」
「けどそれは、高梨さんも同じだと思うよ? オレにライバル心むき出しにしてたじゃん」
「……」
                                                              
 楽しそうに笑う光斗に、陽斗は昨夜ふたりが自分を取りあうようなやり取りをしていたことを思い出して頬が赤くなった。 
                                         
「運命の番の絆も強いけど、オレたち兄弟愛だって負けないほどだよ。オレは一生、陽斗のことも好きだから」
「……うん。俺もだよ」

 ふたりで顔をよせあって微笑んでいると、そばから高梨に呼ばれる。
「さあ、可愛い番たち。食事にしよう。お腹がすいたよ」
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