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発情してはいけない 10*

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「高梨さん、俺を見て」
 両手を伸ばして、高梨の頬を掴む。
「光斗じゃなくて、俺のほうを見て」
 いつの間にか泣き声に変わっていた。
「あなたが好きなんだ」
 しかし屈強なレア・アルファは、陽斗などいないかのように進んでいく。

「あなたが好き。好きなんだよ」
 自分のほうを向かせたくて、必死に言いつのった。
「番になりたい。うなじを噛んで欲しい。他のオメガに取られたくないよ」
 それでも高梨の瞳はもう戻らない。

「陽斗……」
 気づけば、背中からも光斗に抱きつかれていた。
「欲し、欲しい……っ」
 ギュッと抱きしめて、腰を擦りつけてくる。熱を持った若茎は硬く勃ちあがっていた。

「ごめん……陽斗、オレのせいで……。オレだって、ホントはこんなことしたくない、のに……なのに」
「光斗」
「挿れて欲しい、奥の奥まで、突いて、突いて……欲し、ああダメだ、そんなことしたら……けど、我慢できない……ごめん、陽斗、ゴメン」

 陽斗は身をよじって後ろを向き、光斗と抱きあった。
「大丈夫だ、お前のせいじゃない。これは仕方ないことなんだから」
 幼いときから、発情で苦しむたびに言い聞かせてきた言葉を繰り返す。発情は決して、オメガ個人のせいではないのだ。何の因果か、自分たちに与えられた運命がこうだっただけで。

「陽斗、陽斗……」
 光斗が泣きながら腰を動かす。魂のつながった双子の弟のつらくてたまらないという仕草に、陽斗の胸も張り裂けそうになった。 

「お……オレのせいで、いつも、陽斗には迷惑かけてっ。陽斗は、オレの世話だけで、こんなに、つらい目にあって……オレ、オレなんか、いなくなれば、いいのにっ」
    
 顔を歪めて涙を流し、光斗は自分の首に手をかけて、細い首を絞め始めた。発情が苦しすぎてパニックを起こしかけているのだ。

「光斗」
「陽斗の、大事な人にも、迷惑かけたくない。オレなんて消えてなくなったほうがいいんだ……っ」
「ダメだ、やめろ」
 陽斗は必死に光斗の手を引き剥がした。

「ごめっ、ごめ、陽斗っ」
 光斗の両手首を掴んで、それ以上自分を傷つけさせないようにする。

 すると今度は、後ろから高梨に、光斗ごと抱きしめられた。

「君を裏切りたくない……」
 陽斗の肩を抱く手の甲からは、血が流れている。
「抱きたいのは君だけなのに」
 その言葉を聞いた途端、背筋に震えが走った。

「……俺も」
 高梨としたい。
 誰にも渡したくない。たとえ弟であっても。

 陽斗は渾身の力を振り絞って体勢を変え、背後の人と向き直った。
「高梨さん、俺を抱いてよ」
 高梨の首に手を回して、自分に引きよせる。

「俺も、あなたとしたい。他の誰ともして欲しくない」
「陽斗君」
「光斗のフェロモンで、俺を抱いて」
 高梨の瞳が、昂揚に翳っていく。
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