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17 女神の加護

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◇◇◇


 ぼんやりと目覚めたとき、周囲は明るい光に満ちていた。
 だから、ああ、ついに死んだのかな、と思った。
 けれど、その後に、急に全身に痛みがやってきた。そして下肢がひどくだるい。

「目覚められたか」
 枕元で誰かが声をかけてきて、ロンロは目だけ動かした。
「……あれ? 僕……?」

 生きてる?
「よく生きておられた。もう大丈夫じゃ」
 それは、あの老学師だった。

 ロンロが寝かされていたのは、王の寝室だった。そこに、老学師のほかに司教や家臣、ララレルがいる。王は離れた場所で、椅子に腰かけていた。

「陛下、ロンロ様がお目覚めです」
 声をかけられて、グラングがゆっくりと立ちあがる。その姿は、今にも倒れそうなくらい憔悴していた。

「僕、……死んでないのですか」
「ああ。よく持ちこたえられた」
 老学師が穏やかに微笑む。

「王は薬が切れるまで、十三日間、そなたと繋がったままでいた。その間、飲み食いも、眠りもせずに。十四日目にやっと王は身を離された。そなたは瀕死の状態で、それでも生きていた。その後十日間、昏睡状態で高熱にうなされ、毛もすべて抜け落ちてしまった。しかし、女神の加護で、救われた。これは奇跡だ」

 グラングがベッドまでやってくる。目は落ちくぼみ、無精ひげが生えていた。
「ロンロ」
 枕元に腰かけると、頭を撫でてくる。ほぼ禿げてしまった頭頂部には、フワフワの新たな毛が生えているようだった。

「助かって、よかった」
「グラング」
 そして、身をひねって後ろに立つ司教に向き直った。

「これで納得しただろう。ロンロは私の妃だ」
 司教は眉間に皺をよせ、こちらを見つめていた。
 肉太いあごをグッと引き、重々しく一言告げる。

「……もう一度、確かめさせて下さい」
 その言葉に、ギョッとなった。

「――え?」
 確かめるって、何を?
 もしかして、また十三日間まぐわえと?

「よかろう」
 グラングの答えに、蒼白になる。

「え。え? ……あの、もう一回だと、今度は、ホントに……死にますが」
「ロンロ、獣化できるか?」
「え?」
「そのほうがわかりやすい」

 言われて、訳もわからぬまま上体を起こす。きしむ身体をコロンと回転させて、犬へと変化した。
「腹を見せてみろ」
 グラングが命令する。ロンロは仰向けになって、両足を持ちあげた。

「なるほど、これですか」
 老学師、王、そして司教が、ロンロの股間を凝視する。ロンロは恥ずかしさに混乱した。

「い、いったい、これは……」
「確かに、小さいですが、これは明らかに……女神の証」
 え? 女神の証? 
「ぼ、僕のちんちんどうなっちゃったの」
 ロンロは慌てて自分の股間に目をやった。
「ちんちんではない。ほら、ここだ」
 老学師が腹を指さす。

「この、性器の横の一房の毛。これが虹色なのだ。これはまさしく、太古の虹色狼の血を継ぐ証。ロンロ殿、そなたは犬でありながら、祖先に虹色狼の血をわけてもらっていたのだ」

「え? え? ええ」
「こんな場所だったから今まで誰も気づかなかったのだろう。王しか知らぬ、いや、王でさえ気づけなかった」
「……」

 司教が苦虫をかみつぶしたような顔で、しかし厳かに言った。
「確かにこれは女神の証。教会に保管されている虹色狼の毛と同じだ。教会はロンロ様を女神の末裔と認めるしかない」
 それにロンロは目を瞠った。

「ロンロ」
 王が犬になったロンロの頭をさすりながらたずねてくる。
「お前と私を陥れようとした司教を、お前はどう罰したい?」
 その言葉に、司教が急に震えあがった。
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