SEVEN TRIGGER

匿名BB

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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

グッバイフォルテ《Dead is equal》13

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 何をしてもビクともしなかった扉が、まるでセイナの言葉に呼応するように開かれる。
 どんな構造をしているのか?つなぎ目も無く真っ二つに割れた石扉が両門のように開け放たれる。
 開けたことに一番驚いている本人が、ゆっくりと導かれるように中へと引き込まれていく。

「お、おい……待てよセイナ─────クソッ」

 あれほど慎重で用心深い相棒の信じられないほど軽率な行動。
 呆気に取られている内に止める間を逃した俺は、罠などの想定される懸念事項全てを舌打ちでかなぐり捨て、その後を追った。
 飛び込んだ先に待っていたのは深淵を思わせる闇の底。
 青白く光る両門の明かりで辛うじて自分達の足元だけ視えている状態だ。
 さっきまでの通路やモール街のような現代建造物とは一線を画す古びた石畳。
 人が生み出したものでありながら、永い間、人の干渉を受けていないらしく、漂う乾いた匂いや触れた感触が独特な印象を伝えてくる。
 確かに妙に引き込まれる……重力とは違う引力が働いているように、闇の方へ─────

 ギギギ─────ガタンッ!!

 開いていた石扉が誰の力も借りることなく独りでに閉まる。
 真っ暗な空間へと墜とされた俺達だったが、余分な明かりが無くなった分、夜目が利くようんなってきた。
 この闇がどこまで続いているかは知らないが、隣に立つセイナの姿はボンヤリと捉えている。

 スッ─────

 画家が筆を走らせるような滑らかな動作で、セイナの指先が正面を指す。
 するとそれを合図に、俺達から少し離れた両脇へ、さっきの石扉と同じ蒼白い光が灯っていく。
 無風の空間で揺らめく灯は、これまた古臭い銀の燭台に宿った蒼炎の明かり。
 人魂のようなそれが次々に灯っていき、次第に暗闇の中に埋もれていた露わになっていく。

「これは……神殿か?」

 夜空のような黒曜の壁の下、白く分厚い岩石を切り崩して作られた神殿だった。
 俺達はその真正面の位置、神殿へと続く石畳へと立っており、銀の燭台が真っ直ぐと道を示している。
 まるでこちらに『来い』とメッセージでも送る様に。

「フォルテ……アタシ怖い」

 ポツリと弱音を漏らすセイナ。
 それは知るはずもないこの部屋を意のままに操れてしまうことに対してではなく、指先が指し示した神殿の中枢、その先に待つ人物に対して向けられているようだった。

「大丈夫、俺が隣に付いている」

 震える方にそっと手を置き、周囲を警戒する。

「俺はもう絶対、お前の傍を離れたりしないからな」

 一回りも二回りも小さな身体にそう囁く。
 正直なところ、俺自身もそれで精一杯だった。
 ここが敵の本拠地であることは判る。
 理論とか理屈じゃない、そう言い知らしめる凄味が眼の前の壮観から伝わってくるからだ。
 そしておそらくこの建造物こそが、俺達が探していた戦艦の動力に影響する中枢部分なのだろう。
 想像の遥か上を行く異観を前にして、不安そうに向けられた彼女の上目遣い。
 しかし、今の俺にはそれに応えてあげるほどの余裕が残されていなかった。
 もしかするとセイナの肩に触れたことも、彼女を落ち着けるというより自分が落ち着くためかもしれないと内心弱気になるばかりだ。


「─────それは貴様の願望か?」


 俺とセイナが同時に身構える。
 厳かな響きを纏った男の問い掛けは数十メートル先の斜め上、石階段上部にあるとされる祭壇の方からだ。

「それとも─────使命か?」

 大社程の壮観を誇る神殿の端、下から見上げる俺達の死角から姿を現したのは、黒衣を身に纏った男性だった。
 顔を隠すように黒衣のフードを眼深く被っており、その下には場違いなダークグレースーツを皺ひとつ無くピシリと身に着けている。
 見方によっては何の変哲もない格好だが、それよりも眼を引いたのは両の手の指先。
 金に輝く指輪が八つ、両手の薬指を除いて全ての指先で輝いている。
 普段であれば富豪の見栄が表出したものといぶかるところだが、不思議とその指輪には嫌な感情は湧かなかった。
 寧ろそこに収まっていることが正しいと思えてしまうほどしっくりきている。

「お前が先導者コンダクターか?」

「……いかにも。フォルテ・S・エルフィー」

『ヨルムンガンド』の創始者にして長、そして……ありとあらゆる魔術を極めし者。
 どうやら言葉は通じるらしい。
 それに口調こそ厳格者のように固い響きを纏っているが、その声自体には若さすら感じる。
 おそらくはベアードより一周り下、レクスと同じくらいだろうか?

「俺のことを知っているのか?」

「当然だ。貴様達の動向はずっと前から見ていたからな」

 見ていただと?
 ししょうの見せた一瞬の殺気や、数キロ離れたレクスの狙撃でも見落とさなかった俺が、たった一度も悟られることなく観察されていたなんて……
 ハッタリと決めつけることは簡単だが、そうと思わせない凄味がこの男コンダクターにはあった。

「そんな熱狂的ファンが居るだなんて知りもしなかったよ。記念にサインでもすればいいか?で」

 カチリッと残された片腕で銃を構えると、先導者コンダクターは溜息を吐くように肩を竦めて見せる。

下品な口調だな……」

「相変わらず?」

 すると、どこからともなく現れた二羽のカラスがその双肩に止まる姿を見て、隣にいたセイナが何故かビクリッと身体を震わせた。
 まるで何かに気づいたように……

「あのカラスはそんな……どうしてここに……?」

 彼女はその蒼く透き通った瞳を見開き、眼の前で起きている事実と現実の乖離に酷く苦しんでいるようだった。

「……どうした、セイナ?」

 異変に気付いて小声で問いかけるが、セイナの反応は返ってこない。
 何をそんなに動揺しているんだ?

「『何があろうと狼狽えるな』お前にはそう教えてきたはずだぞ……セイナ」

 先導者コンダクターと呼ばれる男はおもむろにフードへと手を掛ける。
 ただそれだけの一挙動に、俺とセイナの鼓動が早鐘を連想させるほど伸縮を繰り返す。
 こいつの正体を知ってはならない。
 口では説明できない警鐘アラームが鳴り響いているにも関わらず、俺達はその黒衣の下が露わとなるまで眼を背けることが出来なかった。
 そして─────後悔した。
 この世には知らない方が良いこともあるということに。

「……そん……な……」

「うそ……だろ?だってアイツはお前の……!?」

 身体の力が抜けて膝から崩れ落ちたセイナ。
 俺自身も目の前の現実に受け止められず動揺を隠すことができない。
 黒衣の下に隠されていたのは、言動と同じ厳格な顔つきの男性。
 特徴的な黄金の短髪。
 そして、威厳に満ちた表情の中でも特に印象的な鋭い炯眼には、が輝いていた。

「久しぶりだなセイナ……あれから数か月振りか……」

 再会を噛み締めるような響きに、セイナは力の限りに小さなこぶしを握りしめ……

「オスカー、失踪したはずのイギリス現皇帝陛下であるアナタがどうして……」

 あらん限り食いしばった思いをぶつける様に叫んだ。

「どうしてお父様がそこにいるのよ……ッ!!」
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