SEVEN TRIGGER

匿名BB

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月下の鬼人(ワールドエネミー)下

at gunpoint (セブントリガー)16

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「流石は……隊長……だぜ……」

「アキラ!」

 決着に安堵し、糸の切れた人形のようにその場に膝を着いたアキラへと駆け寄る。
 あれだけの激戦を繰り広げていたにも関わらず、不思議と身体は軽かった。

「悪い……俺のドジでみんなに迷惑掛けちまって……」

「んなことはどうでもいい!怪我の具合は!?」

「怪我は別に大丈夫だ……」

「何言ってやがるッ……!?こんなに頭から血を流していて、あの野郎……随分とうちの隊員を可愛がってくれたらしいな……!」

 倒れたオオカミへと拳を鳴らしながら近づこうとする俺を、アキラは八咫烏の裾を掴んで引き留める。

「だから大丈夫だ!……この傷は……その、バイクでコケただけだ……」

「な、なんだって……?」

「だから……これはバイクでこかされてついた傷だから!」

 と、そこでようやく気付いた。
 見た目こそボロボロではあったが、所々治療が施され、思ったよりも悪い状態ではないということに。

「さっきふらついたのも、頭から血を流し過ぎただけだ。それに、ここに連れられるまで拘束こそされてはいたが、別段悪いように扱われたわけじゃねえ……」

「そうなのか……?本当に大丈夫なんだな?」

「しつけえよ!てめえの身体はてめえが一番分かってるから」

 つーかてめえは俺の彼女か?母親か?と愚痴をこぼしつつ、それでもふらふらと立ち上がって見せるアキラ。

「……何故……だ……」

 そのよろけた身体を再び支えたところで、少し離れた壁面の傍。

「何故……負けたのだ……」

 倒れていたオオカミが独り言のように呟いていた。
 うつ伏せになっているせいで直接表情は見えないが、声音から容易に想像ができるほど狼狽しきっていた。

「そんなもん簡単だ」

 体格も、状態も、相性も勝っていたオオカミ。
 誤った思想観念とはいえ、その信念に掛ける思いもまた俺と同格、いや、それ以上のものを持っていた。
 それでも俺に敗北した理由は……

「アンタは最後の最後まで、仲間を信じ切れなかったからだ……」

「何だと……この私が……仲間を?」

 その反応から察するに、想像していたものとはかけ離れた答えだったのだろう。
 事実オオカミは別に仲間のことを気にかけていなかったわけではない、寧ろその逆。

「アンタ以外の仲間を広い外へと陣取らせたのは、建物内の狭い空間では少数部隊しか組めず、数という絶対的優位性アドバンテージを生かせないから……そして、アンタ一人で俺達を打ち倒すつもりだったからだろ?」

 下手に援護させて危険が及ぶよりも集団で行動させた方が遥かに戦闘力は向上する。
 だが、それでも半年間散々手を焼かされ続けてきた俺達を、その程度で抑えられると思うコイツではない。
 だから仲間達にはとにかく防戦に徹させ、それでも撃ち漏らした敵はコイツが一人で全て請け負う。そういう算段だったのだろう。
 聞こえこそ良いかもしれないが、裏を返せばそれは……

「アンタは、仲間のことを護るばかりで信じることをしなかった……」

 数時間前の俺と同じように。
 東側にある高窓の向こう側で仄かな温かみを感じた。
 外で鳴り響いていた喧騒も、それに合わせて収まりつつある。

「結局……群狼ウルフパックを率いていたつもりが、私はずっと一匹狼ローンウルフだったということか……」

「そんなことはない」

 余程意外だったのだろう。
 屈みつつそう告げた俺の言葉に、オオカミが顔だけを上げた。

「この半年間、俺はアンタの部下に散々手こずらされてきた……いかなる地域であってもそれは変わること無く、部下達の団結力は侮れなかった。その最たるものである先の奇襲や、ここの防衛も見事なものだ。きっとそれも、アンタの人望が成せる業なんだろう……」

 無数の国で数えきれないほどの戦闘を行い、俺達は敗けこそしなかったが、快勝も無かった。
 もしかすると、これだけ幾度となく死地を超え、世界最強の部隊として成長できたのも、そのことがいいスパイス刺激になっていたのかもしれない。

「それよりも、何故アキラを殺さなかった?アンタにならいつでもれたはずだ」

 あれだけ犯罪者に嫌悪していたにも関わらず、アキラはバイクでコケた以外の傷は見当たらなかった。
 素朴な疑問にオオカミは再び顔を伏せた。

「殺す気は無かった」

 まるで、自分の言動やこれまでの態度を恥じるといったように。

「あの憎悪も全て偽りだ……あの方の命令とはいえ、部下を一人も殺さずにいてくれた君達を殺すなど、出来るはずがない……」

 電話やつい数分前とは全く違うどこか柔和な態度。
 思えば、半年前に初めて会った時はこんな感じだった気がする……
 なるほど、こっちが素か。

「そういう割には、随分派手な襲撃だったと記憶しているが?」

「当たり前だ、殺したくは無かったが殺す気で襲撃したからな……」

 おいおい……
 無茶苦茶な答えに思わず右眼を眇める。
 数年ぶりに開いた左眼は、触媒である月が堕ちたのと同時に閉じてある。

「全員とは言えないが、私達も薄々気づいていた。世界平和を実現させるためとはいえ、我々のやり方が間違っていることを。そして、同時にもう後戻りできないところまで来てしまっていたことも……それでも、今まで信じてくれていた部下を守るためには、たとえどんな卑劣な手を使ってでも、同士を手にかけようとも、与えられた任務を遂行する必要があった……」

 心中を吐露するようにして語るオオカミは、言葉の最後で背に装備していた刀を鞘から抜き、俺の前にコトッ……と置いた。

「今回の件、私が全責任を負う。だから部下にはこれ以上手を出さないで欲しい……そして、君達の力であの方を正して欲しい……フォルテ・S・エルフィー」

 おうおう?随分虫の良い話しじゃねーか?とヤンキー節を炸裂させようとしたアキラを片手で制しつつ、俺は刀を受け取る。
 道具は人の心を映すと言うが、成程……俺の小太刀に負けず劣らず手入れが行き届いている。
 落ちた髪の毛すら両断する程の刃並に、この男の本質を見た気がした俺は、躊躇なく刃を振り落とし……ゴチンッ……と小気味良い音を響かせた。

「……何故トドメを刺さない?ここまで醜態を晒した私に、貴様は生恥を晒せと言うのか?」

 峰打ちした箇所を抑えることなく、少しだけ憤慨するような様子見せてきたオオカミ。
 そのクソが付くほど生真面目な言い草を、俺は一笑に付して刃を捨てる。

「生憎、この石頭スキンヘッドを叩き割れるほどの腕を俺は持ち合わせていない。もう少し頭を柔らかく使えるようになってから出直してこい、若造」

 それだけ告げて背を向けると、とうとう敵わないなと、苦笑と溜息をオオカミは同時に漏らした。

「出会い方さえ違えば、我々は協力し合うことができたのかもしれないな……」

「……かもな」

 背中越しに投げかけられた哀愁へ相槌を打ちつつ、手錠を切り裂いた小太刀を拾う。
 人生なんて、何が起因して変わるか分からない。
 この小太刀一本にしてみたってそうだ。
 随分と長い付き合いだが、俺が村正コイツと出会わなければ、人生がどう変化していたかなんて分からないし、もしかしたら今と全く変わっていなかったかもしれない。
 タラレバを話したらキリがないが、もしここから生きて出られたらこいつらとも……
 そんな淡い考えを、外から差し込む薄明の斜光の中で巡らせた。
 その時だった。

「いたぞッ!!」

 会議室を蹴破り、軍用アサルトライフルを持ったFBI職員が入ってくる。
 人数こそ二人だが、俺達は遮蔽物の無い部屋の中央で銃火器を持っていないし、アキラに至ってはロクな武装もない。
 迎撃は不可。
 図らずも、身の危機に反応した身体が瞬時にとった行動が……
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