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月下の鬼人(ワールドエネミー)上
maintenance(クロッシング・アンビション)4
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俺の指示に、降下するメンバーが両サイドのハッチに着く。
隊の雰囲気は正直あまり良くはない。
それでも、任務さえ始まってしまえば大丈夫だ。きっと。
この二週間、同じような心情の中、俺達は任務をこなしてきた。
そして、今日もそれは変わらない。
いつも通り仕事して、いつも通り任務を遂行するのみ。
それができなきゃ俺の命が無いからな、やるしかない。
なんて……この時はまだ、俺もそんな風に考えていた。
きっと、皆も同じことを考えていたのだろう。
輸送機のサイドハッチが開き、カラッと温かい外気と、夜の匂いが機内に入り込んでくる。
「目標地点到着!カウントスリー!ツー!ワン!降下開始!」
「ッ……!」
ロナのカウントダウンに合わせ、隊員達、各五名が一斉に降下する。
海外遠征、ロナの緊張声と同じで、誰も殺さないというバカげた方針に、文句を言う者は誰もいなかった。
アフリカの夜空。
目下に見えるのは白い真四角の工場。
屋上に人はいない。
あらかじめ、見張りの交代時間は確認済みだ。
着地────背に付けていた降下ワイヤーを外し、輸送機が高速で退避する中、作戦が始まる。
『これより、作戦を開始。今回は敵が多いです。こちらが合図をするまでは、前衛部隊はできる限り隠密で敵を無力化して下さい。中衛部隊はこれのサポート、及び、戦闘が積極化に切り替わった時のため、敵のデバイス、及び、兵器の破壊工作を、屋内の状況については後衛の私から、屋外についてはレクスから連絡を入れます。ご武運を……』
インカム越しにロナの的確な指示が飛び、慣れた動きで建物内に侵入していく俺達、それぞれが己が使命のため、通路の分岐ごとに分かれていく中、最後に見送ったアキラの背中だけ、僅かに煤けて見えた気がした。
いや────今は余計なことを考えてる暇ない。
頭を振り、気持ちを切り替え、サイレンサー付きの愛銃片手に進んでいくと、通路の角から男二人の声が聞こえてくる。
交代時間でやってきた新しい見張りだ。
俺は、息を殺して角で待ち伏せ────近づいてきた男の一人をコルトガバメントで撃つ。
命中。
強力な/45acp弾の制圧力に、男の一人は肩を抑えて倒れた。
そのままもう一人の仲間も、声を上げる前に右足のブラジリアンキックを叩きこむ。
「……ガッ……!?」
短い嗚咽と共に、二人一緒に深い眠りにつく。
これなら、明け方までは目を覚ますことはないだろう。
適当に見えない場所まで運び、周囲を警戒しながら前進する俺は、開けた場所に出た。
この四角い工場は内部が口の字型のようになっていて、中央が地上一階から四階までが貫通し縦穴構造のようになっている。
いま俺の立っている場所は、その窪みが覗き込める、四階の壁面だ。
とはいっても、その壁面にあるのはグレーチングの増設された足場と、落下防止柵が気持ち程度にある雑なものだ。
大きな四角い工場を、無理やり四階建てとして使っている印象だな。
そんな、口の字型に囲われた中央には、核弾頭を乗せる大陸弾道ミサイルが収まっており、その高さは地上三階まである。
人というやつは、時としてとんでもないものを作る……
日常では絶対にお目にかかることのできない、異様な光景に息を呑んでいると、弾道ミサイルの奥、反対側の壁面で戦闘する隊員の姿が目に映る。
夜中なのに昼間のように明るい照明に照らされているのは、ピンクの閃光。
相変わらず突進癖が抜けないリズが、敵に急接近してはバッタバッタと敵をなぎ倒していく……仕事が早いのは構わないが、もう少し片付けにも心掛けて欲しいな。
無論、止まることを知らない彼女にとって、無力化した敵を隠すなんて脳はない。
『あーあー!?ちょっと待ってリズ!!早い、早いって!!監視カメラを切り替えるのが間に合わないよぉ!?』
慌てふためくロナの無線が無情にも聞こえる。
リズの痕跡を少しでも遅らせるため、監視カメラの映像をジャックしているんだろうけど……あの速度じゃバレるのは時間の問題だな。
それでも、最近のリズは最初に比べてだいぶ進行速度が抑えられていた。
それがいつからかは分からないが、ロナが入ってきた辺りからだろうか……?
男に対しては強情ではあるが、同性同士だと多少は緩和されるのかもしれない。
その証拠にロナはああ言っているが、驚くことにリズはまだ、三階の制圧に入ったくらいだ。
前なら二階どころか一階に入るかもしれないくらいの速度だったのに……
もちろんそこまで進行速度が速いのは、彼女が完璧だからではなく、視界に入った敵以外は無視するからであり、その尻拭いはいつも別の隊員の仕事だ。
今回はアキラがその役を担っていた。
大剣片手に残党や非常警報装置を片付けていく手際の良さは、隊の中で群を抜いている。
どんなに不機嫌であっても、仕事はキッチリとこなす姿勢、気遣いができるところは、アイツの根が真面目である証拠だろう。
やはり、作戦に入ってしまえば問題は無かったな。
俺は内心でホッとしながら、気を緩めずにグレーチングの床をかけていく────
数分後、異変に気付いたテロリストにより、戦闘が隠密から積極化に切り替わる。
バレた原因は、屋上で待機していたベルが、たまたま帰ってきた増援をロケットランチャーで撃破したからだ。
今回は以前と違い、上空で監視していたレクスからベルに、ベルから俺へと情報が流れていたので、それ自体に特に問題はなかった。
爆発と同時、統率の取れていないテロリストを、潜伏していた俺達が飛び出してバッタバッタと倒していく……そう……そこまでは良かったのだが────
「なんだって!?レキの連中が全滅だと……!?」
インカム越しに入った情報に耳を疑う。
『うん……信じられないけど……全員負傷、作戦続行不可能で撤退するって連絡が────』
ダダダダダダダダダッ!!!!
銃弾の雨がロナの声を遮る。
一階まで下りた俺は敵の制圧射撃により、資材コンテナ群に釘付けにされている真っ最中だった。
「クソッ……!」
コンテナの中身だって分からないのに、バカスカ撃ちやがって……!
「一体誰にやられたんだッ!?それと地下鉄の状況はッ!?」
脳を揺らすような爆音の中、反撃の隙を伺いながら俺が叫ぶ。
『待って、今情報を……これは……!コードネーム「紫水晶の豹」!?奴がテロリストとレキを一掃したって……たった一人で!?』
天才である彼女にとってもあり得ない事態に、呆然とする声だけが銃声の中でもよく聞こえた。
「双方全滅ってことは、地下鉄は封鎖できてないのか……!」
なるほど……どおりで予定外の外部からの増援が多いわけだ。
連中は増援ではなく、恐らく紫水晶の豹にやられて逃げ帰ってきた連中だ。
今、屋上でベルが一人で対処してくれてはいるが、おかげでこっちが苦戦を強いられている。
全く、「紫水晶の豹」……!ほんっとう……!傍迷惑な奴だッ!!
歯ぎしりしつつ、コンテナから顔を覗かせると、銃を連射するテロリストの奥。
「……!」
複数人の男達が、台車に乗せた核弾頭を運ぶ姿が見えた。
「まずい!!連中、地下鉄を使って核弾頭を持ち出す気だッ!!グッ……!」
銃弾の雨が俺の方に集中し、再びコンテナの後ろに追い込まれる。
「他に動ける奴はいないのか!?」
姿の見えない他の隊員に向け、俺が呼びかけるも……
『無理よバカッ!!私とアキラだっていま釘付けにされてるのよッ!!行けるわけないでしょッ!!』
銃声と同じくらいの怒声が鼓膜に響く。
リズが足を止めるということは、相当な弾幕を張られているのだろう……
『フォルテ、こっちもダメにゃあ……ベルも外部の敵を攻撃するので精一杯、増援にはいけないにゃ』
屋上で固定砲台と化しているベルからも苦々しい声が漏れる。
あと残っているのはシャドーのみだが、監視室を制圧した後は何処で交戦しているか不明だった。
『わ、私が行きますッ!』
隊の雰囲気は正直あまり良くはない。
それでも、任務さえ始まってしまえば大丈夫だ。きっと。
この二週間、同じような心情の中、俺達は任務をこなしてきた。
そして、今日もそれは変わらない。
いつも通り仕事して、いつも通り任務を遂行するのみ。
それができなきゃ俺の命が無いからな、やるしかない。
なんて……この時はまだ、俺もそんな風に考えていた。
きっと、皆も同じことを考えていたのだろう。
輸送機のサイドハッチが開き、カラッと温かい外気と、夜の匂いが機内に入り込んでくる。
「目標地点到着!カウントスリー!ツー!ワン!降下開始!」
「ッ……!」
ロナのカウントダウンに合わせ、隊員達、各五名が一斉に降下する。
海外遠征、ロナの緊張声と同じで、誰も殺さないというバカげた方針に、文句を言う者は誰もいなかった。
アフリカの夜空。
目下に見えるのは白い真四角の工場。
屋上に人はいない。
あらかじめ、見張りの交代時間は確認済みだ。
着地────背に付けていた降下ワイヤーを外し、輸送機が高速で退避する中、作戦が始まる。
『これより、作戦を開始。今回は敵が多いです。こちらが合図をするまでは、前衛部隊はできる限り隠密で敵を無力化して下さい。中衛部隊はこれのサポート、及び、戦闘が積極化に切り替わった時のため、敵のデバイス、及び、兵器の破壊工作を、屋内の状況については後衛の私から、屋外についてはレクスから連絡を入れます。ご武運を……』
インカム越しにロナの的確な指示が飛び、慣れた動きで建物内に侵入していく俺達、それぞれが己が使命のため、通路の分岐ごとに分かれていく中、最後に見送ったアキラの背中だけ、僅かに煤けて見えた気がした。
いや────今は余計なことを考えてる暇ない。
頭を振り、気持ちを切り替え、サイレンサー付きの愛銃片手に進んでいくと、通路の角から男二人の声が聞こえてくる。
交代時間でやってきた新しい見張りだ。
俺は、息を殺して角で待ち伏せ────近づいてきた男の一人をコルトガバメントで撃つ。
命中。
強力な/45acp弾の制圧力に、男の一人は肩を抑えて倒れた。
そのままもう一人の仲間も、声を上げる前に右足のブラジリアンキックを叩きこむ。
「……ガッ……!?」
短い嗚咽と共に、二人一緒に深い眠りにつく。
これなら、明け方までは目を覚ますことはないだろう。
適当に見えない場所まで運び、周囲を警戒しながら前進する俺は、開けた場所に出た。
この四角い工場は内部が口の字型のようになっていて、中央が地上一階から四階までが貫通し縦穴構造のようになっている。
いま俺の立っている場所は、その窪みが覗き込める、四階の壁面だ。
とはいっても、その壁面にあるのはグレーチングの増設された足場と、落下防止柵が気持ち程度にある雑なものだ。
大きな四角い工場を、無理やり四階建てとして使っている印象だな。
そんな、口の字型に囲われた中央には、核弾頭を乗せる大陸弾道ミサイルが収まっており、その高さは地上三階まである。
人というやつは、時としてとんでもないものを作る……
日常では絶対にお目にかかることのできない、異様な光景に息を呑んでいると、弾道ミサイルの奥、反対側の壁面で戦闘する隊員の姿が目に映る。
夜中なのに昼間のように明るい照明に照らされているのは、ピンクの閃光。
相変わらず突進癖が抜けないリズが、敵に急接近してはバッタバッタと敵をなぎ倒していく……仕事が早いのは構わないが、もう少し片付けにも心掛けて欲しいな。
無論、止まることを知らない彼女にとって、無力化した敵を隠すなんて脳はない。
『あーあー!?ちょっと待ってリズ!!早い、早いって!!監視カメラを切り替えるのが間に合わないよぉ!?』
慌てふためくロナの無線が無情にも聞こえる。
リズの痕跡を少しでも遅らせるため、監視カメラの映像をジャックしているんだろうけど……あの速度じゃバレるのは時間の問題だな。
それでも、最近のリズは最初に比べてだいぶ進行速度が抑えられていた。
それがいつからかは分からないが、ロナが入ってきた辺りからだろうか……?
男に対しては強情ではあるが、同性同士だと多少は緩和されるのかもしれない。
その証拠にロナはああ言っているが、驚くことにリズはまだ、三階の制圧に入ったくらいだ。
前なら二階どころか一階に入るかもしれないくらいの速度だったのに……
もちろんそこまで進行速度が速いのは、彼女が完璧だからではなく、視界に入った敵以外は無視するからであり、その尻拭いはいつも別の隊員の仕事だ。
今回はアキラがその役を担っていた。
大剣片手に残党や非常警報装置を片付けていく手際の良さは、隊の中で群を抜いている。
どんなに不機嫌であっても、仕事はキッチリとこなす姿勢、気遣いができるところは、アイツの根が真面目である証拠だろう。
やはり、作戦に入ってしまえば問題は無かったな。
俺は内心でホッとしながら、気を緩めずにグレーチングの床をかけていく────
数分後、異変に気付いたテロリストにより、戦闘が隠密から積極化に切り替わる。
バレた原因は、屋上で待機していたベルが、たまたま帰ってきた増援をロケットランチャーで撃破したからだ。
今回は以前と違い、上空で監視していたレクスからベルに、ベルから俺へと情報が流れていたので、それ自体に特に問題はなかった。
爆発と同時、統率の取れていないテロリストを、潜伏していた俺達が飛び出してバッタバッタと倒していく……そう……そこまでは良かったのだが────
「なんだって!?レキの連中が全滅だと……!?」
インカム越しに入った情報に耳を疑う。
『うん……信じられないけど……全員負傷、作戦続行不可能で撤退するって連絡が────』
ダダダダダダダダダッ!!!!
銃弾の雨がロナの声を遮る。
一階まで下りた俺は敵の制圧射撃により、資材コンテナ群に釘付けにされている真っ最中だった。
「クソッ……!」
コンテナの中身だって分からないのに、バカスカ撃ちやがって……!
「一体誰にやられたんだッ!?それと地下鉄の状況はッ!?」
脳を揺らすような爆音の中、反撃の隙を伺いながら俺が叫ぶ。
『待って、今情報を……これは……!コードネーム「紫水晶の豹」!?奴がテロリストとレキを一掃したって……たった一人で!?』
天才である彼女にとってもあり得ない事態に、呆然とする声だけが銃声の中でもよく聞こえた。
「双方全滅ってことは、地下鉄は封鎖できてないのか……!」
なるほど……どおりで予定外の外部からの増援が多いわけだ。
連中は増援ではなく、恐らく紫水晶の豹にやられて逃げ帰ってきた連中だ。
今、屋上でベルが一人で対処してくれてはいるが、おかげでこっちが苦戦を強いられている。
全く、「紫水晶の豹」……!ほんっとう……!傍迷惑な奴だッ!!
歯ぎしりしつつ、コンテナから顔を覗かせると、銃を連射するテロリストの奥。
「……!」
複数人の男達が、台車に乗せた核弾頭を運ぶ姿が見えた。
「まずい!!連中、地下鉄を使って核弾頭を持ち出す気だッ!!グッ……!」
銃弾の雨が俺の方に集中し、再びコンテナの後ろに追い込まれる。
「他に動ける奴はいないのか!?」
姿の見えない他の隊員に向け、俺が呼びかけるも……
『無理よバカッ!!私とアキラだっていま釘付けにされてるのよッ!!行けるわけないでしょッ!!』
銃声と同じくらいの怒声が鼓膜に響く。
リズが足を止めるということは、相当な弾幕を張られているのだろう……
『フォルテ、こっちもダメにゃあ……ベルも外部の敵を攻撃するので精一杯、増援にはいけないにゃ』
屋上で固定砲台と化しているベルからも苦々しい声が漏れる。
あと残っているのはシャドーのみだが、監視室を制圧した後は何処で交戦しているか不明だった。
『わ、私が行きますッ!』
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