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月下の鬼人(ワールドエネミー)上
Disassembly《ブレット・トゥゲザァ》1
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カチカチカチカチ────
「あー……」
キーボードを叩く音を聞くたびに、魂が抜け出ていくような感覚に陥る。
これが日本社畜ってやつか……ここアメリカだけど。
薄暗がりの部屋で明滅するPC画面を眼で追っていると、外からgray cat birdのさえずりが聞こえてくる。
現実逃避するかのように、終わりの見えない書類達から目を逸らて窓の方を見ると、カーテンの隙間にはいつの間にか陽の光が差し込んでいた。
────もう朝か……
昨日の午後十時ごろから作業していたが、余程集中していたのか、はたまた疲れで気を失いかけていたのか、気づけば時刻は翌日の午前六時を回っていた。
「……一息付けるか」
今日の当番は俺じゃないから……急いで飯を作る必要も無いしな……
伸びと欠伸をしながら作業を中断した俺が自室から出ると────
シュンッ────!
正面から何かが飛んできた。
「ッ!?」
本能的に顔を右に反らすとザクッ────!自室の扉にそれは深々と突き刺さった。
眠気が吹き飛ぶほどの恐怖と、側頭部に走るひんやりした感触に震えながらそれを確認すると……そこには包丁が突き刺さっていた。
な、なんだこれは……!?
「だから間違えて使っちまっただけだってぇぇぇぇ!!」
包丁の飛んできた方向から、足を縺れさせながら誰かが走ってきた。
アキラだ。
黒髪の先から汗粒を垂らすほど緊迫した様子の彼は、普段の戦闘でも見せたこと無い俊敏な動きで廊下を駆け抜けていく。
その様子を眼で追っていくと背後からは────
「何が間違えてよッ!!人の歯ブラシを勝手に使うなんてしんっっじらないっ!!これだから男ってガサツで嫌いなのよッ!!殺す!!今ここで殺してやるぅぅぅぅっっ!!!!」
朝の清々しい陽気をぶち壊す、殺伐とした少女の金切り声。
ピンク髪を逆立て、両手にはナイフではなく調理用の包丁で武装したリズが、親の敵にでも対峙したかのような形相で後を追いかけていく。
ベアードに無理矢理結成させられた部隊に配属されてから早一か月。
ここはバージニア州、ノーフォーク海軍基地より少し離れた位置にある三階建ての一軒家。
なんでも大統領の別荘の一つらしく、広々とした10LDKに風呂とトイレが二つも付いた豪邸だ。
窓の外に広がる風景もテキサスの荒野のようなだだっ広いだけの殺風景とは違い、鳥のさえずり聞こえるひっそりとした森の中だ。
最初の任務、違法魔術工場の制圧後に大統領から言い渡された住処がここであり、あろうことか奴は「親睦と連携を深めるために五人で住むこと」と言ってきやがった。
俺、レクス、アキラ達男性陣や、サバサバしているベルは文句を言わなかったが、問題は男嫌いなリズ。掴みかかる勢いで暴れるリズをに四人がかりで抑え込み、数時間に及ぶ説得の後、不平不満を漏らしながらもなんとか説得できたところまでは良かったが────言わずもがな、見てのとおりの有り様だ。
人種、性別、育ってきた環境が違うとなれば、隊員同士の衝突は当たり前。
今日はあの二人か……
会話を聞いていた限り、大方リズの私物を間違えてアキラが使ってしまったのだろう……そんなことで……と思ってしまうかもしれないが、男嫌いのリズにとってはそんなことでは済まないのだ。
潔癖症のレクスは細かいし、アキラはルールをあまり守らないし、ベルも結構適当だし……合わせる気もないバラバラの五人での共同生活が、そう簡単に上手くいくわけがないのは火を見るよりも明らかだった。
「はぁ……」
清々しい朝をぶち壊す血なまぐさい闘争を見ても、ため息一つで済ませてしまう辺り、だいぶこの生活に馴染んできてしまっているな……
とりあえずコーヒーでも淹れるか……
俺の自室として設けられた二階の部屋から、一階にあるキッチンへと向かおうと階段に足を掛けたところで、アキラがUターンして戻ってきて────
「つーか昨日俺が間違えたのは!!フォルテがリズのやつを渡してきたんだぁ!!」
「フォルテェェェェ!!!!」
「なにぃぃぃぃッ!??」
突如として共犯扱いされた俺がアキラと共に家の中を駆けずり回る。
昨日歯を磨いてた俺がアキラに渡した歯ブラシ……あれがリズの物であったことを思い出したのは、寝ぼけた脳みそが殺意を向けられて覚醒しきった後だった。
俺達は毎日作戦をこなしているわけではない。
「聞こえるかベル……そっちの状況は?」
二階で多くの人質を取って立てこもった犯人達との距離を測りつつ、廃れたビルの三階を俺一人でクリアリングしながら、無線越しにそう告げた。
外を映し出す大きなフロートガラスは粉々に割れており、犯人達が炊いた煙が外から入り込んでいて視界が悪いが、今のところ人の気配は感じない。
『オッケーにゃ……』
彼女なりに集中しているのだろう……普段とは違う落ち着いたベルの声が返ってくる。
『こっちもいいわよ……』
『……フォルテ、トラップ解除に手こずっている……!あと三十秒待ってくれ……っ!』
リズ、アキラからそれぞれ通信が入る。
だが、二人の声音は対照的で、落ち着きと焦りの様子が伺えた。
『アキラ、三十秒じゃ間に合わない……!あと二十秒でどうにかしろ……!』
『分かってるよっ……!』
遠くからスナイパーライフルを構えつつ、常に時間を確認しているレクスから檄が飛ぶ。
アキラが解除しているトラップはかなり特殊で、無線越しからでも手こずっている表情が目に浮かぶ。
『これ以上は待てないわ!アタシがアキラの分をどうにかするっ!カウント3!』
「待てリズっ……!クソッ!」
焦りは人へと伝染する。
アキラが間に合わないと判断するや否や、弩にでも弾かれたようにリズがカウントを始めた。
「レクス、ベル、お前達は打ち合わせ通りに!アキラは後方からリズの支援へ!」
「「「了解……!」」」
こうなってしまっては仕方ない……それにリズの言う通り時間が無いのも確かなので、頭を切り替えつつ矢継ぎ早に隊員達に指示を出した俺は、フロートガラスの外に広がる虚空へと飛び降りた。
────ダダダダダッ!!
「ッ……!!」
正面から部屋に突入したリズが銃撃戦を始めたのと同時に、俺は身体に括り付けていたワイヤーを握りながら身体を180度反転────ビルの窓淵に張りつめたワイヤーから火花を散らしながら、ターザンの要領で二階のフロートガラスに両脚から突っ込んでいく!
「あー……」
キーボードを叩く音を聞くたびに、魂が抜け出ていくような感覚に陥る。
これが日本社畜ってやつか……ここアメリカだけど。
薄暗がりの部屋で明滅するPC画面を眼で追っていると、外からgray cat birdのさえずりが聞こえてくる。
現実逃避するかのように、終わりの見えない書類達から目を逸らて窓の方を見ると、カーテンの隙間にはいつの間にか陽の光が差し込んでいた。
────もう朝か……
昨日の午後十時ごろから作業していたが、余程集中していたのか、はたまた疲れで気を失いかけていたのか、気づけば時刻は翌日の午前六時を回っていた。
「……一息付けるか」
今日の当番は俺じゃないから……急いで飯を作る必要も無いしな……
伸びと欠伸をしながら作業を中断した俺が自室から出ると────
シュンッ────!
正面から何かが飛んできた。
「ッ!?」
本能的に顔を右に反らすとザクッ────!自室の扉にそれは深々と突き刺さった。
眠気が吹き飛ぶほどの恐怖と、側頭部に走るひんやりした感触に震えながらそれを確認すると……そこには包丁が突き刺さっていた。
な、なんだこれは……!?
「だから間違えて使っちまっただけだってぇぇぇぇ!!」
包丁の飛んできた方向から、足を縺れさせながら誰かが走ってきた。
アキラだ。
黒髪の先から汗粒を垂らすほど緊迫した様子の彼は、普段の戦闘でも見せたこと無い俊敏な動きで廊下を駆け抜けていく。
その様子を眼で追っていくと背後からは────
「何が間違えてよッ!!人の歯ブラシを勝手に使うなんてしんっっじらないっ!!これだから男ってガサツで嫌いなのよッ!!殺す!!今ここで殺してやるぅぅぅぅっっ!!!!」
朝の清々しい陽気をぶち壊す、殺伐とした少女の金切り声。
ピンク髪を逆立て、両手にはナイフではなく調理用の包丁で武装したリズが、親の敵にでも対峙したかのような形相で後を追いかけていく。
ベアードに無理矢理結成させられた部隊に配属されてから早一か月。
ここはバージニア州、ノーフォーク海軍基地より少し離れた位置にある三階建ての一軒家。
なんでも大統領の別荘の一つらしく、広々とした10LDKに風呂とトイレが二つも付いた豪邸だ。
窓の外に広がる風景もテキサスの荒野のようなだだっ広いだけの殺風景とは違い、鳥のさえずり聞こえるひっそりとした森の中だ。
最初の任務、違法魔術工場の制圧後に大統領から言い渡された住処がここであり、あろうことか奴は「親睦と連携を深めるために五人で住むこと」と言ってきやがった。
俺、レクス、アキラ達男性陣や、サバサバしているベルは文句を言わなかったが、問題は男嫌いなリズ。掴みかかる勢いで暴れるリズをに四人がかりで抑え込み、数時間に及ぶ説得の後、不平不満を漏らしながらもなんとか説得できたところまでは良かったが────言わずもがな、見てのとおりの有り様だ。
人種、性別、育ってきた環境が違うとなれば、隊員同士の衝突は当たり前。
今日はあの二人か……
会話を聞いていた限り、大方リズの私物を間違えてアキラが使ってしまったのだろう……そんなことで……と思ってしまうかもしれないが、男嫌いのリズにとってはそんなことでは済まないのだ。
潔癖症のレクスは細かいし、アキラはルールをあまり守らないし、ベルも結構適当だし……合わせる気もないバラバラの五人での共同生活が、そう簡単に上手くいくわけがないのは火を見るよりも明らかだった。
「はぁ……」
清々しい朝をぶち壊す血なまぐさい闘争を見ても、ため息一つで済ませてしまう辺り、だいぶこの生活に馴染んできてしまっているな……
とりあえずコーヒーでも淹れるか……
俺の自室として設けられた二階の部屋から、一階にあるキッチンへと向かおうと階段に足を掛けたところで、アキラがUターンして戻ってきて────
「つーか昨日俺が間違えたのは!!フォルテがリズのやつを渡してきたんだぁ!!」
「フォルテェェェェ!!!!」
「なにぃぃぃぃッ!??」
突如として共犯扱いされた俺がアキラと共に家の中を駆けずり回る。
昨日歯を磨いてた俺がアキラに渡した歯ブラシ……あれがリズの物であったことを思い出したのは、寝ぼけた脳みそが殺意を向けられて覚醒しきった後だった。
俺達は毎日作戦をこなしているわけではない。
「聞こえるかベル……そっちの状況は?」
二階で多くの人質を取って立てこもった犯人達との距離を測りつつ、廃れたビルの三階を俺一人でクリアリングしながら、無線越しにそう告げた。
外を映し出す大きなフロートガラスは粉々に割れており、犯人達が炊いた煙が外から入り込んでいて視界が悪いが、今のところ人の気配は感じない。
『オッケーにゃ……』
彼女なりに集中しているのだろう……普段とは違う落ち着いたベルの声が返ってくる。
『こっちもいいわよ……』
『……フォルテ、トラップ解除に手こずっている……!あと三十秒待ってくれ……っ!』
リズ、アキラからそれぞれ通信が入る。
だが、二人の声音は対照的で、落ち着きと焦りの様子が伺えた。
『アキラ、三十秒じゃ間に合わない……!あと二十秒でどうにかしろ……!』
『分かってるよっ……!』
遠くからスナイパーライフルを構えつつ、常に時間を確認しているレクスから檄が飛ぶ。
アキラが解除しているトラップはかなり特殊で、無線越しからでも手こずっている表情が目に浮かぶ。
『これ以上は待てないわ!アタシがアキラの分をどうにかするっ!カウント3!』
「待てリズっ……!クソッ!」
焦りは人へと伝染する。
アキラが間に合わないと判断するや否や、弩にでも弾かれたようにリズがカウントを始めた。
「レクス、ベル、お前達は打ち合わせ通りに!アキラは後方からリズの支援へ!」
「「「了解……!」」」
こうなってしまっては仕方ない……それにリズの言う通り時間が無いのも確かなので、頭を切り替えつつ矢継ぎ早に隊員達に指示を出した俺は、フロートガラスの外に広がる虚空へと飛び降りた。
────ダダダダダッ!!
「ッ……!!」
正面から部屋に突入したリズが銃撃戦を始めたのと同時に、俺は身体に括り付けていたワイヤーを握りながら身体を180度反転────ビルの窓淵に張りつめたワイヤーから火花を散らしながら、ターザンの要領で二階のフロートガラスに両脚から突っ込んでいく!
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