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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》37
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「……ッ!」
そんなことなどつゆ知らず、150キロ以上で走るセダンの窓ガラスを開けたアタシは、金髪のポニーテールを後方に激しく揺らしながら、車から半身を乗り出す。
押し付ける突風に眼を細め、風圧で息が止まりそうになるのを左手で調節しながら銃を右手1本で構えた。
タイヤは防弾……となれば、狙うは運転席のあの黒髪女だ……!
狙いを絞り、風圧、片手、態勢、動く標的という最悪の条件の中、数十m先を走るオープンカーにアタシは数発の.45ACP弾を放った。
「クッ……!」
銃弾の軌道自体は悪くなかった。
だが────こちらを向いていたアルシェの杖の先端が青白く光り、運転席と助手席を守るようにしてオープンカーの後端に出現した氷の壁が銃弾を弾く。
「なんだあのスポーツカーの羽根みたいな奴は!?魔術の類か?」
突如現れたそれを見たロアがハニーイエローの猫目を丸くしていた。
「えぇ!隣に乗ってる薄い水色の女の魔術よ!名前はアルシェ・マーリン!魔術師マーリンから予言する神の加護を授かっているって言ってたから気を付けて!!」
助手席の窓の淵にお尻を乗せ、身体を半分以上乗り出していたアタシが風圧に負けない大声でそう答えた。
「予言だと!?そんなバカげた力あるわけないだろ!?」
身を乗り出したままのアタシに聞こえるよう、同じように大声でロアがそう返してくる。
「でもアイツ!!アタシ達がアメリカに来るのもあらかじめ予測してたみたいだし!!それにさっきアタシがあの場所に来ることも知っていた感じだった!!油断はできないわよ!!」
「へッ!!お前は騙されてるんだよセイナ!!」
アタシが片手で銃を撃ちながら弱点を探していると、ロアは大げさな仕草で鼻を鳴らした。
「なんですって!?」
アタシは自分の銃声と押し付ける風圧で上手く聞き取れなかった……
「だーかーら!お前はまんまと騙されてるんだよ!そのなんとかって魔術師に!!」
「何をよッ!!」
タイヤ、車体、氷の障壁を撃つがビクともしないアタシが少し苛立ち気味に運転席を一瞥する。
「そんなインチキな力あったらもう少しまともな作戦組んでくるだろうしよ!なにより今逃げているのがその証拠だ!予言できる力が本当にあるなら絶対に連中が私たちに負けることは無いだろ!!それなの逃げているということは未来を予測できてない証拠だ!もしくはまともにやり合えば私たちに負ける未来が見えているってことだ!そんな戯言気にすんな!!」
鼓舞しているつもりなのかよく分からないが、前のオープンカーが曲がった道に合わせてハンドルを切りながらロアがそう叫んだ。
ワシントンのビル街を走っていたオープンカーとセダンが視界の開けた道に飛び出る。
左側には大きな川、これは確か昨日フォルテと車で渡ったポトマック川だ。
川沿いのフリーウェイをたった二台のアメ車がV8エンジン響かせて繰り広げるカーチェイスは────まるで走り屋同士の対決のようだった。
「それによく見ろ!!連中、あの氷の壁を張ったせいで攻撃が全くできてないだろ!?私たちにビビって防戦一方に……んっ?」
言っている最中に銃弾で幾らか傷ついた氷の壁から、何やらツララのような円錐状の物が突き出してきたのに気づいたロアが話の途中で言葉を切る。
「あれは……てっ!?おわ!?」
「ッ!?」
氷の障壁から無数の氷のツララが飛来してきたのを、ロアが荒々しくハンドルを切りながらそれを躱そうとしたため、窓から身体を出していたアタシは外に投げ出されそうになった。
「ちょっとッ!もっとまともな運転できないの!?」
自慢のアタシのポニーテールが上下に揺れてタイヤに巻き込まれそうなる。
必死にセダンの窓の淵にアタシはしがみ付いて、なんとか振り落とされないようにしながらロアに向かってがなり立てた。
「うるせぇ!文句があるならてめーが運転しろ!!」
ロアは余裕がない様子でハンドル操作をしていた。
それでも躱しきれなかった氷のツララがセダンのボンネットやフロントガラスに深々と突き刺さり、防弾性のガラスの細かい破片が車内に撒き散る。円錐状の形状のおかげでフロントガラスを貫通まではしていなかったので、車内のアタシ達に突き刺さることは無かった。
────さっき地面に突き刺さった時といい、防弾ガラスを軽々と貫くといい、氷の見た目に反してかなり威力があるわね……!
おそらく氷を円錐状にすることで重量を重くし、さらに先端の強度を高めることで威力を上げているんだわ。
「つーか文句を言う前に、お前こそ向こうに全然ダメージ与えてねーじゃねーかよ!」
「う、うるさいッ!!アンタが運転で躱せない分をアタシがカバーするので手一杯なのよ!」
今度はロアがアタシに文句を言ってきたので、イラっとして食い気味に反論した。
氷のツララを受けた車体は、色は違うがニンジン畑のような有様になっていた。
これ以上攻撃を食らうのはマズイ────と思っていたアタシはオープンカーへの攻撃を止め、氷のツララを撃ち落とすのに専念していた。
相手のことを防戦一方と言ったその矢先、気づいたらこっちが防戦一方になっていた。
しかもアタシ達のコンビは人格が入れ替わってもどうやら相性最悪らしい。
────こんな時、フォルテがいてくれたら……
と一瞬考えたアタシは自分自身に少しだけ驚いた。
今まで困難にあった時、アタシは一度でも誰かのことを頼ることがあったかしら……?
「あぶねえッ!!」
再びハンドルを急操作させながらロアが車体を蛇行させたところで、アタシの思考はそこで途切れてしまった。
ツララの後に飛んできたのは、昨日投げたボウリングの玉ほどのサイズの氷塊だった。
形状が違うこともあり、ツララと違う直線的ではなく放物線、野球で言うところの直飛弾ではなく飛球のように軌道でアタシ達に襲い掛かった。
「クソッ!!私が躱している間に早く何とかしろ!」
「躱してって……きゃッ!?思いっきり当たってるじゃない!それにアタシの銃だけだと火力が足りないわ!」
飛来してきた氷塊は空中で軌道を操作できるのか、不規則な動きをしながら落下し、車体上部に円形の凹みを作る。氷塊に向けて銃を連射し、軌道を逸らしながら車への着弾を防ぐ。
「たく、しょーがねーな……ちょっとハンドル持っとけ」
「えっ?……えっ!?嘘でしょ!?ちょっ!?」
聞き間違いかと思ったアタシの目の前で、ロアがアクセルを踏んだままいきなりハンドルから手を離し、後ろをごそごそと漁りだした。
アタシはその仰天行動に心臓と眼玉が飛び出そうになるほど驚きながらハンドルに飛びつき、助手席から操作した。
「もうちょっと慎重に離しなさいよ!?」
突如始まった運転二人羽織にアタシが切れるのを他所に、ロアはそんなことお構いなしになにかを探していた。
「お、あったあった」
「ア、アンタそれ!?」
取り出したものを横目で見たアタシは驚愕した。
ロアが後部座席から取り出したのは1m足らずの緑の筒だった。
M72LAW 全長880㎜口径66㎜の単発使い捨て、アメリカ軍旧式のロケットランチャーだ。
「へっ!まさかコイツをアメリカの市街地でぶっ放せる時がくるとはな!」
前を走るオープンカーが、川沿いを走る道と川を横断する分かれ道に差し掛かろうとしていたところへ向けてロアがM72LAWを担いで窓から身を乗り出した。
「貴重な情報源だから間違えて殺さないでよ!」
「善処はするぜ!!」
ボンォォォォ!!
風圧に揺れる銀髪のツインテールと不敵に笑った少女の前に、砲声とともに一筋の赤い閃光が高速で射出される。
川を横断する左側の橋の方に向かおうとしていたオープンカーの進路を妨げるようにして、軽装甲車両を一撃で屠れる成形炸薬弾が襲いかかる。
オープンカーの上で杖を持ってこちらに対峙していたアルシェが、その薄い水色の瞳を見開いていたのがハッキリと見えた。
咄嗟にアルシェが何か叫びながら杖を振りかざした瞬間、オープンカーを守るようにして氷の障壁が車体の左側、成形炸薬弾が飛来した側を守るようにして展開した。
ダァァァァァァン!!
成形炸薬弾がオープンカーのすぐ左側の地面に着弾した。
地面のアスファルトは砕け、飛び散り、アルシェが咄嗟に張った氷の障壁を吹き飛ばした。
氷のツララや氷塊とは比べ物にならない激しい衝撃を受けたオープンカーは、アルシェの張った障壁のおかげで走れないほどの大きな損傷は免れていたが、車体を大きく斜めに傾き、右側の二輪のみ片輪走行になった。進路も向かおうとしていた左から右側に逸れ、アルシェは振り落とされないように座席に必死にしがみついているが、それよりも先に車体がひっくり返りそうになっていた。
だが────それをあの黒髪女が見事なハンドル操作でスピードを殺さないまま横転するのを防いでいた!
オープンカーが片輪走行している隙に、態勢を立て直したアルシェが杖を使い、今度は氷の障壁を右側に張り始めた。そして────障壁を地面に当てることで車体をガタンッ!!と元の四輪走行に戻してしまう。
「ちょっと!?何外してんのよ!?……こ、こら!ロケットランチャーを道に捨てないの!」
ハンドル操作しながら、進路方向を変えた以外ほとんど無傷のオープンカーを見たアタシがそう叫ぶと、ロアはふてくされた態度でM72LAWを外に放り出し、苛立ちを露わに銀髪の後ろで手を組んてから座席に倒れた。
────撃ち終わったんならハンドル握んなさいよ!
「あーくそっ!お前が殺すなとか言うからだ!」
「アンタの技量の問題よ!この大雑把女!」
「うるせえ!じゃあお前が当てれば良かっただろ!?」
「良いわよ!やってやるわよ!当てればいいんでしょ!?とっとともう一発貸しなさいよ!」
「ねーよんなもん!あったらとっくに私が今ここで撃ってるわ!」
「はぁ!?貴重な一発を外したの!?」
「そーだよ!悪かったな!」
とアタシ達は車内で頭をぶつけながらぐぬぬッ……と互いに罵り合っている最中、オープンカーから攻撃が来ることは無かった。
よく見ると、向こうのオープンカーでも私たちと同じように黒髪女とアルシェが何か言い争いをしていた。
こっちもこっちだが、向こうも向こうでどうやら相性が悪いらしい。
「そんなことよりも、連中、どうしてあの橋を渡ってバージニア州の方に向かおうとしていたんだ?」
開き直りから、そんなことで話題を片付けられてしまったことにアタシが口を挟もうとしたが、アタシは大人……ここはぐっと言いたいことの百や二百を堪えてから返答した。
「さぁ……そっちに待機している仲間でもいるんじゃないの?」
左の大きな川、ポトマック川を渡るとワシントンからバージニア州に行けることは昨日知ったが、それ以外の地形や施設を知らないアタシは、怒りを抑えていたこともあって素っ気なくそう答えた。
「だが、この橋を渡った先にあるのは国防総省だぞ、アメリカ軍がゴロゴロようなところにわざわざ向かうか?」
「それは確かにおかしいわね……」
大雑把女ことロアは冷静にそう分析し、アタシもそれには同調した。
「それに、さっきから連中……私たちから逃げているというよりも、どこかに目的地でもあるかのように運転をしていた。一体どこに向かって────」
と、そこまでロアがしゃべったところで激しい風圧がその声を遮った。
だがその風圧は車から出ているものではない、左の川の向こうから聞こえてきた。
「何の音?」
だんだんその風圧……いや、風切り音を大きくさせながら、高速で近づく何かを確認するためにアタシが川の方面を見たその先────黒い飛行体が水面すれすれでこちらに近づいてくるのが見えた。
真っ黒い塗装が施され、二問のミサイル発射ポッドにM230機関砲、そして戦車すら屠るAGM-114Aまで装備した武装攻撃ヘリだ!
「おぉ!あれはアメリカ軍のAHー64Dじゃねーか!ジェイクの奴がこっちに応援でも回してくれたのか?はは!まあ何にしろ、これで連中もお終いだぜ!」
と、ロアが勝利を確信してガッツポーズを取った瞬間────AHー64Dに搭載されていたミサイル、さっきロアの放ったM72LAWよりもずっと威力の高いAGM-114Aの一発が放たれ……
「きゃっ!?」
「はぁ!?」
アタシ達のすぐ後方、セダンの真後ろに着弾した。
そんなことなどつゆ知らず、150キロ以上で走るセダンの窓ガラスを開けたアタシは、金髪のポニーテールを後方に激しく揺らしながら、車から半身を乗り出す。
押し付ける突風に眼を細め、風圧で息が止まりそうになるのを左手で調節しながら銃を右手1本で構えた。
タイヤは防弾……となれば、狙うは運転席のあの黒髪女だ……!
狙いを絞り、風圧、片手、態勢、動く標的という最悪の条件の中、数十m先を走るオープンカーにアタシは数発の.45ACP弾を放った。
「クッ……!」
銃弾の軌道自体は悪くなかった。
だが────こちらを向いていたアルシェの杖の先端が青白く光り、運転席と助手席を守るようにしてオープンカーの後端に出現した氷の壁が銃弾を弾く。
「なんだあのスポーツカーの羽根みたいな奴は!?魔術の類か?」
突如現れたそれを見たロアがハニーイエローの猫目を丸くしていた。
「えぇ!隣に乗ってる薄い水色の女の魔術よ!名前はアルシェ・マーリン!魔術師マーリンから予言する神の加護を授かっているって言ってたから気を付けて!!」
助手席の窓の淵にお尻を乗せ、身体を半分以上乗り出していたアタシが風圧に負けない大声でそう答えた。
「予言だと!?そんなバカげた力あるわけないだろ!?」
身を乗り出したままのアタシに聞こえるよう、同じように大声でロアがそう返してくる。
「でもアイツ!!アタシ達がアメリカに来るのもあらかじめ予測してたみたいだし!!それにさっきアタシがあの場所に来ることも知っていた感じだった!!油断はできないわよ!!」
「へッ!!お前は騙されてるんだよセイナ!!」
アタシが片手で銃を撃ちながら弱点を探していると、ロアは大げさな仕草で鼻を鳴らした。
「なんですって!?」
アタシは自分の銃声と押し付ける風圧で上手く聞き取れなかった……
「だーかーら!お前はまんまと騙されてるんだよ!そのなんとかって魔術師に!!」
「何をよッ!!」
タイヤ、車体、氷の障壁を撃つがビクともしないアタシが少し苛立ち気味に運転席を一瞥する。
「そんなインチキな力あったらもう少しまともな作戦組んでくるだろうしよ!なにより今逃げているのがその証拠だ!予言できる力が本当にあるなら絶対に連中が私たちに負けることは無いだろ!!それなの逃げているということは未来を予測できてない証拠だ!もしくはまともにやり合えば私たちに負ける未来が見えているってことだ!そんな戯言気にすんな!!」
鼓舞しているつもりなのかよく分からないが、前のオープンカーが曲がった道に合わせてハンドルを切りながらロアがそう叫んだ。
ワシントンのビル街を走っていたオープンカーとセダンが視界の開けた道に飛び出る。
左側には大きな川、これは確か昨日フォルテと車で渡ったポトマック川だ。
川沿いのフリーウェイをたった二台のアメ車がV8エンジン響かせて繰り広げるカーチェイスは────まるで走り屋同士の対決のようだった。
「それによく見ろ!!連中、あの氷の壁を張ったせいで攻撃が全くできてないだろ!?私たちにビビって防戦一方に……んっ?」
言っている最中に銃弾で幾らか傷ついた氷の壁から、何やらツララのような円錐状の物が突き出してきたのに気づいたロアが話の途中で言葉を切る。
「あれは……てっ!?おわ!?」
「ッ!?」
氷の障壁から無数の氷のツララが飛来してきたのを、ロアが荒々しくハンドルを切りながらそれを躱そうとしたため、窓から身体を出していたアタシは外に投げ出されそうになった。
「ちょっとッ!もっとまともな運転できないの!?」
自慢のアタシのポニーテールが上下に揺れてタイヤに巻き込まれそうなる。
必死にセダンの窓の淵にアタシはしがみ付いて、なんとか振り落とされないようにしながらロアに向かってがなり立てた。
「うるせぇ!文句があるならてめーが運転しろ!!」
ロアは余裕がない様子でハンドル操作をしていた。
それでも躱しきれなかった氷のツララがセダンのボンネットやフロントガラスに深々と突き刺さり、防弾性のガラスの細かい破片が車内に撒き散る。円錐状の形状のおかげでフロントガラスを貫通まではしていなかったので、車内のアタシ達に突き刺さることは無かった。
────さっき地面に突き刺さった時といい、防弾ガラスを軽々と貫くといい、氷の見た目に反してかなり威力があるわね……!
おそらく氷を円錐状にすることで重量を重くし、さらに先端の強度を高めることで威力を上げているんだわ。
「つーか文句を言う前に、お前こそ向こうに全然ダメージ与えてねーじゃねーかよ!」
「う、うるさいッ!!アンタが運転で躱せない分をアタシがカバーするので手一杯なのよ!」
今度はロアがアタシに文句を言ってきたので、イラっとして食い気味に反論した。
氷のツララを受けた車体は、色は違うがニンジン畑のような有様になっていた。
これ以上攻撃を食らうのはマズイ────と思っていたアタシはオープンカーへの攻撃を止め、氷のツララを撃ち落とすのに専念していた。
相手のことを防戦一方と言ったその矢先、気づいたらこっちが防戦一方になっていた。
しかもアタシ達のコンビは人格が入れ替わってもどうやら相性最悪らしい。
────こんな時、フォルテがいてくれたら……
と一瞬考えたアタシは自分自身に少しだけ驚いた。
今まで困難にあった時、アタシは一度でも誰かのことを頼ることがあったかしら……?
「あぶねえッ!!」
再びハンドルを急操作させながらロアが車体を蛇行させたところで、アタシの思考はそこで途切れてしまった。
ツララの後に飛んできたのは、昨日投げたボウリングの玉ほどのサイズの氷塊だった。
形状が違うこともあり、ツララと違う直線的ではなく放物線、野球で言うところの直飛弾ではなく飛球のように軌道でアタシ達に襲い掛かった。
「クソッ!!私が躱している間に早く何とかしろ!」
「躱してって……きゃッ!?思いっきり当たってるじゃない!それにアタシの銃だけだと火力が足りないわ!」
飛来してきた氷塊は空中で軌道を操作できるのか、不規則な動きをしながら落下し、車体上部に円形の凹みを作る。氷塊に向けて銃を連射し、軌道を逸らしながら車への着弾を防ぐ。
「たく、しょーがねーな……ちょっとハンドル持っとけ」
「えっ?……えっ!?嘘でしょ!?ちょっ!?」
聞き間違いかと思ったアタシの目の前で、ロアがアクセルを踏んだままいきなりハンドルから手を離し、後ろをごそごそと漁りだした。
アタシはその仰天行動に心臓と眼玉が飛び出そうになるほど驚きながらハンドルに飛びつき、助手席から操作した。
「もうちょっと慎重に離しなさいよ!?」
突如始まった運転二人羽織にアタシが切れるのを他所に、ロアはそんなことお構いなしになにかを探していた。
「お、あったあった」
「ア、アンタそれ!?」
取り出したものを横目で見たアタシは驚愕した。
ロアが後部座席から取り出したのは1m足らずの緑の筒だった。
M72LAW 全長880㎜口径66㎜の単発使い捨て、アメリカ軍旧式のロケットランチャーだ。
「へっ!まさかコイツをアメリカの市街地でぶっ放せる時がくるとはな!」
前を走るオープンカーが、川沿いを走る道と川を横断する分かれ道に差し掛かろうとしていたところへ向けてロアがM72LAWを担いで窓から身を乗り出した。
「貴重な情報源だから間違えて殺さないでよ!」
「善処はするぜ!!」
ボンォォォォ!!
風圧に揺れる銀髪のツインテールと不敵に笑った少女の前に、砲声とともに一筋の赤い閃光が高速で射出される。
川を横断する左側の橋の方に向かおうとしていたオープンカーの進路を妨げるようにして、軽装甲車両を一撃で屠れる成形炸薬弾が襲いかかる。
オープンカーの上で杖を持ってこちらに対峙していたアルシェが、その薄い水色の瞳を見開いていたのがハッキリと見えた。
咄嗟にアルシェが何か叫びながら杖を振りかざした瞬間、オープンカーを守るようにして氷の障壁が車体の左側、成形炸薬弾が飛来した側を守るようにして展開した。
ダァァァァァァン!!
成形炸薬弾がオープンカーのすぐ左側の地面に着弾した。
地面のアスファルトは砕け、飛び散り、アルシェが咄嗟に張った氷の障壁を吹き飛ばした。
氷のツララや氷塊とは比べ物にならない激しい衝撃を受けたオープンカーは、アルシェの張った障壁のおかげで走れないほどの大きな損傷は免れていたが、車体を大きく斜めに傾き、右側の二輪のみ片輪走行になった。進路も向かおうとしていた左から右側に逸れ、アルシェは振り落とされないように座席に必死にしがみついているが、それよりも先に車体がひっくり返りそうになっていた。
だが────それをあの黒髪女が見事なハンドル操作でスピードを殺さないまま横転するのを防いでいた!
オープンカーが片輪走行している隙に、態勢を立て直したアルシェが杖を使い、今度は氷の障壁を右側に張り始めた。そして────障壁を地面に当てることで車体をガタンッ!!と元の四輪走行に戻してしまう。
「ちょっと!?何外してんのよ!?……こ、こら!ロケットランチャーを道に捨てないの!」
ハンドル操作しながら、進路方向を変えた以外ほとんど無傷のオープンカーを見たアタシがそう叫ぶと、ロアはふてくされた態度でM72LAWを外に放り出し、苛立ちを露わに銀髪の後ろで手を組んてから座席に倒れた。
────撃ち終わったんならハンドル握んなさいよ!
「あーくそっ!お前が殺すなとか言うからだ!」
「アンタの技量の問題よ!この大雑把女!」
「うるせえ!じゃあお前が当てれば良かっただろ!?」
「良いわよ!やってやるわよ!当てればいいんでしょ!?とっとともう一発貸しなさいよ!」
「ねーよんなもん!あったらとっくに私が今ここで撃ってるわ!」
「はぁ!?貴重な一発を外したの!?」
「そーだよ!悪かったな!」
とアタシ達は車内で頭をぶつけながらぐぬぬッ……と互いに罵り合っている最中、オープンカーから攻撃が来ることは無かった。
よく見ると、向こうのオープンカーでも私たちと同じように黒髪女とアルシェが何か言い争いをしていた。
こっちもこっちだが、向こうも向こうでどうやら相性が悪いらしい。
「そんなことよりも、連中、どうしてあの橋を渡ってバージニア州の方に向かおうとしていたんだ?」
開き直りから、そんなことで話題を片付けられてしまったことにアタシが口を挟もうとしたが、アタシは大人……ここはぐっと言いたいことの百や二百を堪えてから返答した。
「さぁ……そっちに待機している仲間でもいるんじゃないの?」
左の大きな川、ポトマック川を渡るとワシントンからバージニア州に行けることは昨日知ったが、それ以外の地形や施設を知らないアタシは、怒りを抑えていたこともあって素っ気なくそう答えた。
「だが、この橋を渡った先にあるのは国防総省だぞ、アメリカ軍がゴロゴロようなところにわざわざ向かうか?」
「それは確かにおかしいわね……」
大雑把女ことロアは冷静にそう分析し、アタシもそれには同調した。
「それに、さっきから連中……私たちから逃げているというよりも、どこかに目的地でもあるかのように運転をしていた。一体どこに向かって────」
と、そこまでロアがしゃべったところで激しい風圧がその声を遮った。
だがその風圧は車から出ているものではない、左の川の向こうから聞こえてきた。
「何の音?」
だんだんその風圧……いや、風切り音を大きくさせながら、高速で近づく何かを確認するためにアタシが川の方面を見たその先────黒い飛行体が水面すれすれでこちらに近づいてくるのが見えた。
真っ黒い塗装が施され、二問のミサイル発射ポッドにM230機関砲、そして戦車すら屠るAGM-114Aまで装備した武装攻撃ヘリだ!
「おぉ!あれはアメリカ軍のAHー64Dじゃねーか!ジェイクの奴がこっちに応援でも回してくれたのか?はは!まあ何にしろ、これで連中もお終いだぜ!」
と、ロアが勝利を確信してガッツポーズを取った瞬間────AHー64Dに搭載されていたミサイル、さっきロアの放ったM72LAWよりもずっと威力の高いAGM-114Aの一発が放たれ……
「きゃっ!?」
「はぁ!?」
アタシ達のすぐ後方、セダンの真後ろに着弾した。
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