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第三幕【お嬢様、推しを見つけました】
3-5【バルダート家のお嬢様(1)】
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食堂の隣には、客人との談話の為に用意された応接室がある。
食堂に比べると狭い部屋だが、それでも一般的な家の一室に比べれば広い。
内装は食堂よりも豪華で、室内に置かれたあらゆるものが、高級品で揃えられている。
(どうしてこうなった……)
そんな落ち着かない部屋で、アデーレは自問していた。
部屋中央のテーブルには、既にティーセットや軽食で彩られたケーキスタンドが置かれている。
豪華なソファには、綺麗な姿勢で座るエスティラの姿が。
その隣には、黒のモーニングコートにアスコットタイという、誰が見ても執事と分かる壮年の男性が立っていた。
白髪交じりの黒髪に、しわが深く刻まれた穏やかさを感じる顔。
アデーレが彼と会うのは初めてだ。
そのためどうすればいいのか分からない彼女は、閉めた扉の前から動けずにいた。
「何突っ立ってるのよ。これ以上退屈させないで」
変わらず不機嫌そうなエスティラが、横目でアデーレを見る。
その間に割って入るように、執事が口を開く。
「お嬢様、彼女も初対面の者ばかりの場所で緊張しているのでしょう」
執事がアデーレの方に向き直り、会釈を行う。
「初めまして。私、ロベルト・リオーニと申します。以後お見知りおきを」
執事ロベルトの丁寧な様子に圧倒され、無言で会釈をするアデーレ。
そんな様子を、エスティラは相変わらず横目で睨んでいた。
これ以上待たせたら、何が起きるか分からないだろう。
結局アデーレはエスティラの圧に促されるように、テーブルの横に立つ。
「さて、それじゃああなたの腕を私が評価してあげるわ。やってみなさい」
「は、はい。それでは、失礼いたします」
テーブルに置かれたブリキ製の茶葉ケースを見つめる。
こちらの世界に転生してから、このようなものを扱った記憶がない。
だが、良太として生活していた頃は、よく祖父母の為にお茶を用意していた経験があった。
幸いなことに、彼らは日本茶だけでなく、紅茶やコーヒーもよく飲んでいた。
そんな記憶を必死にたぐり寄せ、何とか形になる紅茶の淹れ方を思い出す。
用意された茶葉やお湯を使い、白磁のポットに紅茶を作り、カップに注ぐ。
「ふぅん」
エスティラの前にカップを置き、会釈をするアデーレ。
注がれた紅茶は、どうにかそれらしい液体になってくれていた。
とはいえ、それは完全な素人の手によって淹れられたものだ。
しかしエスティラは、嫌がる素振りも見せずにカップを手に取り、口に運ぶ。
そして一口飲んだ後、再びカップをソーサーに戻した。
「……あなた」
変わらず不機嫌さを隠さないエスティラが、アデーレに向けられる。
幼少の頃には感じることのなかった威圧的な雰囲気に、アデーレはわずかに怖気づく。
そんなエスティラの表情が、ほんの少しだけ落ち着いたものになった気がした。
「まあ、できる方じゃないかしら」
「え、あ……ありがとうございます」
それは、予想外の反応だった。
出されたものをけなす訳でもなく、エスティラはそれなりの評価をアデーレの紅茶に下したのだ。
どんな厳しい反応が来るかと覚悟していたアデーレも、思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「ま、この程度で満足されても困るけど。今後も私が指導してあげるから、感謝なさい」
「はい……はい?」
「何間抜けな顔してるのよ。どうせ私の傍に付くなら、相応のメイドになるよう努力なさいな」
しばらく傍にいろという先の言葉を思い出し、アデーレはめまいを覚える。
使用人を始めて二日目。
屋敷の主であるお嬢様の傍で仕事をさせられるなど、誰が考えたか。
今はせめて、エスティラが過去の出来事を思い出さないことを祈るばかりだった。
食堂に比べると狭い部屋だが、それでも一般的な家の一室に比べれば広い。
内装は食堂よりも豪華で、室内に置かれたあらゆるものが、高級品で揃えられている。
(どうしてこうなった……)
そんな落ち着かない部屋で、アデーレは自問していた。
部屋中央のテーブルには、既にティーセットや軽食で彩られたケーキスタンドが置かれている。
豪華なソファには、綺麗な姿勢で座るエスティラの姿が。
その隣には、黒のモーニングコートにアスコットタイという、誰が見ても執事と分かる壮年の男性が立っていた。
白髪交じりの黒髪に、しわが深く刻まれた穏やかさを感じる顔。
アデーレが彼と会うのは初めてだ。
そのためどうすればいいのか分からない彼女は、閉めた扉の前から動けずにいた。
「何突っ立ってるのよ。これ以上退屈させないで」
変わらず不機嫌そうなエスティラが、横目でアデーレを見る。
その間に割って入るように、執事が口を開く。
「お嬢様、彼女も初対面の者ばかりの場所で緊張しているのでしょう」
執事がアデーレの方に向き直り、会釈を行う。
「初めまして。私、ロベルト・リオーニと申します。以後お見知りおきを」
執事ロベルトの丁寧な様子に圧倒され、無言で会釈をするアデーレ。
そんな様子を、エスティラは相変わらず横目で睨んでいた。
これ以上待たせたら、何が起きるか分からないだろう。
結局アデーレはエスティラの圧に促されるように、テーブルの横に立つ。
「さて、それじゃああなたの腕を私が評価してあげるわ。やってみなさい」
「は、はい。それでは、失礼いたします」
テーブルに置かれたブリキ製の茶葉ケースを見つめる。
こちらの世界に転生してから、このようなものを扱った記憶がない。
だが、良太として生活していた頃は、よく祖父母の為にお茶を用意していた経験があった。
幸いなことに、彼らは日本茶だけでなく、紅茶やコーヒーもよく飲んでいた。
そんな記憶を必死にたぐり寄せ、何とか形になる紅茶の淹れ方を思い出す。
用意された茶葉やお湯を使い、白磁のポットに紅茶を作り、カップに注ぐ。
「ふぅん」
エスティラの前にカップを置き、会釈をするアデーレ。
注がれた紅茶は、どうにかそれらしい液体になってくれていた。
とはいえ、それは完全な素人の手によって淹れられたものだ。
しかしエスティラは、嫌がる素振りも見せずにカップを手に取り、口に運ぶ。
そして一口飲んだ後、再びカップをソーサーに戻した。
「……あなた」
変わらず不機嫌さを隠さないエスティラが、アデーレに向けられる。
幼少の頃には感じることのなかった威圧的な雰囲気に、アデーレはわずかに怖気づく。
そんなエスティラの表情が、ほんの少しだけ落ち着いたものになった気がした。
「まあ、できる方じゃないかしら」
「え、あ……ありがとうございます」
それは、予想外の反応だった。
出されたものをけなす訳でもなく、エスティラはそれなりの評価をアデーレの紅茶に下したのだ。
どんな厳しい反応が来るかと覚悟していたアデーレも、思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「ま、この程度で満足されても困るけど。今後も私が指導してあげるから、感謝なさい」
「はい……はい?」
「何間抜けな顔してるのよ。どうせ私の傍に付くなら、相応のメイドになるよう努力なさいな」
しばらく傍にいろという先の言葉を思い出し、アデーレはめまいを覚える。
使用人を始めて二日目。
屋敷の主であるお嬢様の傍で仕事をさせられるなど、誰が考えたか。
今はせめて、エスティラが過去の出来事を思い出さないことを祈るばかりだった。
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