壁があるこの世界で……。

学園編

仕事 壱

　霧が出ている。

　僕は片手にコーヒーを持ち、アントーニオ新報を脇に挟みながらオウル・エルノシアの西区四番道路にある第二公園に辿り着いた。

　長い黒髪をたなびかせ、スカートを履いて……。





「やぁ、そこのお姉さん。朝早いね。」

　見ると、杖をつき、体全身をローブで包んだ男性の老人が立っていた。

「おはようございます。」

「なかなかに美味そうなものを飲んでいるじゃないか。何処の物かね。」

「東区のカフェで買ったものです。ラリーズって店です。」

　ラリーズは存在はするが、東区にはない。そもそも雑貨屋だ。

「お爺さん、ところで今日のニュースを見ました？」

「新聞は見たが特に興味深い記事は……。でも、黒仮面の盗賊の被害にあった店主のインタビューは面白かったな。」

　新聞を捲り見ると、そのニュースは三面の右上に載っていた。

　僕は新聞を閉じて、「おはよう、アムレット。」と言う。

　杖をついていた老人はスッと立ち上がったかのように身長が伸びていく。

　そして、僕と同じくらいの背丈になった。

「おはよう、ローゼン、時間通りだな。」

　ローブの中には老人に変装したアムレットがこちらを見ていた。

「準備は済んでいるか？」

「あぁ、勿論。」

　懐に手を伸ばし、二つの仕事道具に触れる。

「分かった。来い。」