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特別剣兵隊編

部下

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「悪魔を殺しても、昇進は無しかぁ、」

 私は特別剣兵隊の休憩室でうなだれていた。

 あの後、私は中隊長から大隊長に昇進したケレス大隊長に口頭で報告したが、返ってきたのは「御苦労」という言葉のみだった。その後、昇進の話をそこはかとなく打診したが、結果はそれ以上になることはなかった。

 まぁ、良い。今の班長という身分も結構良い方で、給料だって悪くない。やりがいもある。

 そう思い直したところに部下たちが休憩室に入ってきた。

「メアリー班長、今後の指針について教えていただけると……。」

 部屋に入ってくるなり、かなり小さい声でイオから話しかけてきた。彼女は今の私の部下の中では最古参でかれこれ8年は共に行動している。彼女自身は優秀だと思うのだが、内向的で、人見知り。その上、あがり症でもある彼女は知らない人と共に行動ができない。今は確か16歳になった頃だと思う。

 その後ろにいるのはエウロパだった。今では真面目に働くエウロパは昔、両親に道端に捨てられた後、聖神教の教会に引き取られたがそこを脱走。その後飢えに飢え、やってしまったパンの窃盗で捕まり、そのまま更生施設に送り込まれたという遍歴をもつ女の子だ。昔、教会を脱走した理由を聞いてみたことがあったが、その時、「教会に引き取られていた別の子からいじめを受けていた。」と答え、それに我慢ができなくなったと話してくれた。ちなみに私はその後、その件を個人的に調べ、虐めていた奴の特定し、その時もまた別の子を虐めていたため、きつく叱ったのは私だけの秘密である。そんな彼女はいまは14歳だからこの子もなんやかんや6年は共に行動していたのだな。その6年前に彼女が私の班に来た時、イオはすっかり緊張して、コミュニケーションが全く出来ていなかったな。

 すこし後からカリストが入ってきた。こいつは私の上司のケレス大隊長の娘でこの班に入ってから2年くらい経つ。最初から高い位にいるのは良くないとして、ケレス大隊長の独断で私の班に来た。イオはまだこの子と全然話すことが出来ていない。まだ難しいらしい。

 と、ここで、一つ疑問が生じるかもしれない。

 なぜこの班にはこんなクセの塊というべき人材しかいないのだと……。

 それは昨今の特別剣兵隊における情勢が関わっている。

 もともと、自分の命を危険に晒すようなこの仕事に自ら進んで就く者は珍しい。親も自分の子供をそんな職業に就かせたいなんて思わない。そして、最近、混血民族からの反発が大きくそのアオリを今食らっている状況で更になり手がいない。

 そんな調子なので、そもそも大部分の人材は純血の孤児院から希望を取り引き入れていた。実際、私とイオも孤児院出身である。それでも人手不足は解消しなかったため、そのため、再犯性の低いと判定された少年・少女犯罪者も引き入れるようになった。それでも焼け石に水のようなので、更に基準を落とすらしい。

 そして、そもそも人材不足で、ましてや10年前に部下を全員殺されたという不祥事がある私の下にはまともな人間が来ない。その為、部下ができず、希望条件を特別剣兵隊に所属している事というほぼ無条件にした結果、このようなあぶれ者が入ってきたのだ。

 それでだ、話を戻そう。

「あぁ、今後か、昇進は貰えなかったが、三週間の休暇を頂いた。この休暇明けに今後の任務について話そうと思う。それでいいか?」

 実際、私の休暇はこの悪魔の件の報告書の制作で消えるだろうが……。2日は休めるだろう。休めてほしい。

「分かりました。ではその通りに。」

 その後、エウロパとカリストは休憩室から出ていったが、イオは、「お手伝いすることはありませんか?」と聞いてきたので、早速報告書の制作を手伝ってもらうことにした。
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