魔法なきこの世界で……。

怠惰な雪

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青年期

脱出

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　その夜、牢屋の中で目を覚ました。

　牢屋の中に入ってきたメアリーと名乗った女が近づいてくる。

「目が覚めましたか、クリスさん、早速ですが教えてくれませんか？貴方が作ったんでしょう？これ。」

　メアリーが懐から鉄の塊を取り出した。

「どうして、貴方がそれを！」

　私は声を張り上げる。

　それは前にルイスが作った銃だった。

「純潔民族の頭脳が集った特別剣兵隊技術班に解析を頼んだが返ってきたのは謝罪文でした。」

　メアリーは銃を私の目の前に突き出した。

「クリスさん、これの作り方を教えてください。」

「絶対に教えない、」

「じゃあ、無理に聞くまでです。」

　メアリーは手を私に伸ばした。

　私はグッと目を瞑った。

「待ってろよ、クリス。助けてやるからな」

　クリスが連れ去られた次の日の夜、俺はあの塀に囲まれた建物、監獄アルカトラズに潜入していた。

　潜入自体はすんなり成功した。まぁ、ただひたすらに壁をよじ登っただけだが……。

　そのおかげで俺の手指は真っ赤になってしまった。

　今は廊下をこっそりと歩きながら牢を一つ、一つ確認している。

　この監獄アルカトラズはそこまでまで大きな監獄ではない。

　二時間もあれば探せるだろう。

　そうしていると、廊下の奥の方から光るランタンが見えた。

　とっさに脇道にそれる。

　見ると、あのクリスを連れ去っていった連中だった。

「彼奴等は……。ていうことはクリスはこの先だな。」

　俺はその連中が通り過ぎるのを待ってから更に奥に進んだ。

　俺は更に奥に進みながら牢を確認していった。牢の鍵は外から閂をつけているだけだったので簡単に開けられた。

「ここは……。違うか……。」

　それにしても、クリスは一体なぜ、特別剣兵隊なんかに捕まったんだ？

　特別剣兵隊はこの世界での警察的存在だ。治安維持や犯罪の取り締まりなどをしている。

　ただ、前の世界の警察と根本的に違うのはその存在意義だ。

　この特別剣兵隊の存在意義は純血民族のためである。

　基本は純血民族の領域で活動を行っており、混血民族の領域では活動自体されているのかすら公表されていない。

　俺は父の本を読んでその存在を知っていたが、普通の市民は知り得ない。

　他に混血民族で知っているのは、それこそ剣兵隊に追われるような世界を股にかける大犯罪者ぐらいだと思うんだが……。

　また、牢屋を開ける。

　中には誰かが横たわっていた。

　明かりの蝋燭をつけて目を凝らす。

　そこにいたのは傷だらけになったクリスだった。

「クリス、大丈夫か？」

　冷たい地べたに横たわっていると、声が聞こえた。

　焦っているような、悲しんでいるような、でも優しそうな声だった。

「ルイス？」

　その時、薄っすらと、目を開ける。

　目の前にはルイスがいた。

「よかった、間に合った。」

　ルイスが安堵したような顔になった。

「さぁ、ここから脱出するよ」

　そう言って、ルイスは私に手を差し伸ばす。

　その手をつかんで立ち上がろうとしたが……。

「ルイス、立てない。」

　足にまるで力が入らない。自分の足を見ると、酷い傷で赤く染まっていた。

　ルイスはその足を見ると、私を持ち上げた。

「ル、ルイス。ありがとう。」

「よしっ、ここから脱出するぞ！」

　そう言って、またルイスに抱っこされて牢屋を出る。

「やぁ、どこに行くつもりだい？」

　声がした方を向くと、あのメアリーが立っていた。

「脱走者はこっちだ！急げ！」

「絶対に取り逃がすな！」

　ルイスは全速力で狭い通路を逃げる。その後をサーベルを構えた剣兵達が追いかけてきた。

　メアリーに声をかけられた後、ルイスは一目散に走り出した。その後をメアリー率いる剣兵隊が追いかけているのである。

「ルイス、ここからどうやって逃げるの？」

　クリスが聞いた。

「この後、上に上がって、その後屋根の上に出る。そっから塀を飛び越えて、逃げるぞ。」

　そして、すぐに横に曲がり、階段を駆け上る。

　階段の一番上まで上がると、かなり広いところに出た。

　どうやら、この建物の中で一番高いところらしい。

「こっちだ。」

　ルイスが息を切らしながら、私を抱っこしながら、窓に向かって走り出す。

　その時、剣兵が階段を登りきってきた。

　大量の剣兵がその場になだれ込む。

　その中にはあのメアリーもいた。

　そんなことには気にもとめずにルイスは窓に走る。

　あともう10メートル、7メートル、5メートル、3メートル。

　ルイスの指先が窓に触れた時、雷が落ちたような衝撃が体を駆け巡った。

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