魔法なきこの世界で……。

青年期

強盗

　エラが俺を呼びに来たのは朝の支度をしている時だった。

　いつもの通り、朝食を作っていると、エラが慌てた様子で食堂に入ってきた。舌がもつれながらもなんとか言葉にしようとする。

「ルイスさん、ち、ち、地下室が……。」

　エラに連れられていくと、地下室の入り口にかけてあった鍵が壊されていた。

「中には、確か……。」

　エラの顔がどんどん青ざめていく。

　俺は地下室の中に入った。階段を急いで降りる。

　部屋の中はそれほど荒らされていないが奥にある金庫の鍵が壊されている。

　急いで金庫の中身を確認する。

　中にあったはずのあれがない。

　ついてきたエラが後ろから覗き込む。

　僕は後ろのエラを見てこう言った。

「銃が……。俺の作った銃が……。盗まれた……。」





　クリスが紅茶を出してくれた。

　俺は椅子に座りながらうつむいている。

「銃は分解されてあるのなら使えないんじゃない？」

　クリスが訊いて来る。確かに地下にしまうときに分解してしまった。

　でも、もし復元されたら？

　もしそれが人の命を奪ったら？

　考えたくなかった。そんな事……。





「なぁ、買ってくれよ……。これはとても凄いものなんだから……。」

　買い取りの商人に対して、しつこく何かを売りつける男がいる。

「これは、かの悪徳領主モロンを殺した摩訶不思議な筒なんだよ。」

　その言葉を聞いた時、後ろで行商人に話を聞いていた女がその男の方を向いた。

「その領主を殺した奴ってミラデナス書店のルイスだろ。知ってる。でもあの筒は売らないって言ってたじゃないか。」

　商人が怪しんで話を聞く。

「でも、そこが俺の力量よ。なんとか話をつけて譲ってもらったのさ。」

　男は自信満々に商人に対して言うが、当の商人は更に怪しむ。

「まさか、盗んで……。」

「ちょっといいかしら。」

　突然話しかけられ、商人も男もそちらを見る。

　見ると、女が立っていた。

　そして、その胸には剣をかたどられたピンが光っている。

　そのピンを見た男は……。

「とっ、とっ、特別剣兵隊」

　そう言って、腰を抜かしてしまった。

「ねぇ、お兄さん、お話があるんだけど、ちょっと来てもらえるかしら？なぁに、素直に話してくれたら首はそのままにしてあげる。」