魔法なきこの世界で……。

青年期

番外編４ エラ １

「それではルイスさん、コレを貴方に差し上げます。」

　そう言って、私の現主人は私を差し出し置いて行ってしまった。

　ルイスさんと呼ばれていた男の人が、ゆっくりと近づき、私の様子を窺った。

「とりあえず、家に帰ろ、ルイス。」

　その男の人の隣りにいた女の人が男の人の裾を引っ張って、そう言った。

「そうするか。」

　その男の人は私に手を差し伸べてくれた。が、私はその手を掴み損ねてしまい、前に倒れてしまう。

　床に手をついて起き上がろうとする。

　そして、前を見ると、また、あの男の人が手を差し伸べていた。

「大丈夫？怪我はない？」

　男の人が本当に心配そうに尋ねてきた。

　これが私、エラとルイスさんとの出会いだった。





　満足に歩くことができなかった私はルイスさんにおんぶされてルイスさんの家に行った。

　その時のことは今でもよく覚えている。

　汗でベタついていたけど、とにかく安心するような感覚だった。

　家につくと、すぐにルイスさんは風呂に向かった。

　どうやら、一刻でも早く体を洗いたいようだった。

　まぁ、そこで、ルイスさんは私の体を見て、気を失って体が洗えなかったのだが……。





　その後、あの隣りにいた女の人、クリスさんにルイスさんの介抱を頼んだ後、自分で体を洗い風呂から上がった。

　そして、そのまま、ルイスさんがいる部屋に向かった。

　部屋に入ると、ベッドで寝ているルイスさんが視界に入った。

　悪夢でも見ているのかかなり苦しそうな顔をしている。

　私はそんなルイスさんを慰めるように頭を撫で、すぐそばで寝転がった。

　その時、ルイスさんが起きた。とっさに恥ずかしくなって寝たふりをする。

　ルイスさんは優しそうな顔でこちらを見つめていた。

　そうしているうちにクリスさんが部屋に入ってきた。

　ルイスさんに風呂に入るよう勧めている。

　ルイスさんが部屋から出ると、クリスさんは急いで、棚の中を漁った。そして、No.5と書いてある小さな小瓶を取り、数滴体につけた。

「これで、後は……。パジャマはこのままで、えーっと……。髪も乾かして……。」　

　そんな感じで慌ただしく何かを準備をしていた。ちり紙をベッドの近くに用意したり、ゴミ箱も移動させている。

　そのうちに足音が聞こえてきた。ルイスさんが戻ってきたらしい。

　クリスさんは急いで、ベッドにのった。

　ルイスさんが部屋に入ってきた。どことなく疲れた顔をしている。

　そんな疲れた顔をしていたルイスさんだったがクリスさんを見ると少し微笑んでいるような、とても優しそうな顔になった。

　そして、よほど疲れていたのであろう、緊張がほぐれたようで、ぷつりと糸が切れたかのようにその場で眠り込んでしまった。

「なんだ、寝ちゃったか。」クリスが仕方なさそうに呟く。

　クリスさんがとても残念そうな顔をして、毛布を持った。

「まったく、寝間着の女子を見ても、何も言わずそのまま寝るなんて……。まぁ、でもこの人は昔からこんな感じの人だったのかもね。」

　そして、その毛布をルイスさんにかけると、その直ぐ側に横になった。そして、背中からルイスさんに抱きつく。

　今すぐ、ここから抜け出したい気分だった。

　しばらくすると、クリスさんは更に密着する。何やらボソボソ呟いているがよく聞こえない。

　そして、クリスは顔を上げて、ルイスさんの顔をじっと見た。

　とても安心しきった顔でぐっすり寝ている。

「ねぇ、ルイス、あなたを絶対に守ってあげる。」

　そう言ってクリスさんはルイスさんにそっとキスをした。

　私はもう、涙をずっと流していた。