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第6章:魔法学園 授業革命編

第199話 『その日、デートを楽しんだ』

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 皆で楽しく調合をしながらお喋りをし、夜も更けてきたところで順番にお風呂に入る。まだソフィーは恥ずかしいのか一緒に入ってはくれないけど、ある意味お風呂に入った途端目を閉じるアリシアも似たようなものよね。
 だからママを含めた、ちびっ子組が私と一緒にテント内のお風呂に入り、アリシアとソフィーは部屋のお風呂に入ってもらった。

 その後はパジャマパーティーと洒落込んで、誰かがカワイらしい欠伸をしたところで川の字になって一緒に就寝した。

 そして次の日、お休みの日ではあるけれど予定があるためテキパキと動く。皆で朝食を頂き、元気一杯になったところで準備を始める。
 準備というのは、私とソフィーだ。半日ほどだとしてもデートをする以上は、服装からビシッと決める必要がある。
 女の子たちはソフィーの部屋に。アリシアとママが私担当だ。

「それでお嬢様、何を着て行かれるのですか? 白の乙女ですか??」
「期待しているところ悪いけど、あれを使うと仰々しくなるでしょ。却下よ」
「残念です……。冗談はさておき、お嬢様はもう何を着ていくのかは決めていらっしゃるのですよね。そう顔に書いてありますから」
「うん。まあサプライズも含めて用意は全然してないんだけどね。今から作るわ」
「今から……ふふっ。普通なら間に合わないんだけど、シラユキちゃんならそれが可能なのよね。久しぶりにシラユキちゃんの裁縫捌きが見れるなんて楽しみだわ」
「えへー」

 褒めてくれるママに甘えたくなる衝動に駆られるが、我慢する。今日はソフィーとのデートだもの。終わるまでは他の子に甘えられないわっ。

「ではお嬢様、素材は何を使われますか」
「んー。せっかく作るなら、防具性能がないものなんて作りたくはないし……。よし、黒色にしたいからリリちゃんの防具と同じで『ダルメシアン織物』を使うわ。在庫はあったかしら?」
「服を一から作るには少し心もとないですね……」
「あら。まあ紡績店で買ったダルメシアンは、殆どが糸だったものね。じゃあ糸から布を、ちゃちゃっと作ってしまいましょうか。突然必要になるかもだし、次からはストックも考えておかないとね。アリシア、私が手持ち無沙汰になった時は教えて。きっと私、覚えてないから」
「承知致しました」

 部屋の机に素材を並べて、糸を編んで織物を作る。あの時よりもレベルは上がっているから、その分器用さも上がってスピードは格段に上がっているわね。
 流れ作業だったけど、気付けばすぐに必要分の織物が出来たから、そのまま服の作成をする。ママやリリちゃん、アリシアの時は丁寧に採寸をしたけれど、シラユキちゃんの身体は触るまでもなくわかる。この世界に現出した時から1ミリたりとも変わることなく、余計な肉が付いたり不足したりもない。完璧な身体のままだ。
 髪の毛だけはちょっぴり伸びているけれど、それ以外何も変わりがない。たったの2ヶ月でも、成長も衰退も起こさないこの身体は、あまりにも不自然すぎるけれど、何か理由があるのかしら。

「……出来たわ」

 やっぱり服を作るのって楽しいし、身体が覚えているわ。余計なことを考えながらでも出来ちゃうんだもの。
 ついでに、メインの下に付ける下着やシャツまで作っちゃった。

「これは……」
「えっ、これって……?」
「まずは着替えるわよ。2人とも手伝って」

 ショーツ以外の全てを脱ぎ捨て、新しい服に袖を通す。こういうタイプの服を自分で着るのは、この世界では初めてね。作るのは2度目だけど、あの時よりも素材は潤沢にあるから、あの子には悪いけど素晴らしく良い物が出来たわ。

********
名前:星空のタキシード
説明:ダルメシアン織物に白光糸や霊鉄線などが複雑に編み込まれた至高の逸品。強靭な繊維により斬撃打撃に耐性を持ち、防汚の効果も付与されている。エスコートする相手を全ての脅威から守り抜く紳士の為の服。
防御力:385
防具ランク:8
効果:DEX+80、VIT+80、AGI+80、CHR+150。耐熱、耐寒、斬撃耐性、打撃耐性、常時浄化
製作者:シラユキ
付与:物理耐性Ⅱ・軽量化
********

 物理耐性を2つ乗せることで耐性をⅡに出来たわね。これならどんな環境でも、エスコート相手を守る事が出来るでしょ。

「アリシア。髪はポニテでお願いするわ」
「しょ、承知致しました」

 ヘアピンと髪留めに控えめの意匠の花飾りを使ってと。
 よし、出来上がり。

 シラユキちゃん、男装の麗人バージョン!!

『てってれー!』

 等身大の鏡の前でポーズを取ると、どこからともなく効果音が流れてきたような錯覚を覚えた。ふふ、決まってるわね。
 たまにはこう言うシラユキちゃんも悪くないわ。最高に格好良くてカワイイわね!

「ごほん。あ、あー」

 てすてす。

「アリシア、どう? 今の私の姿は」

 わざと声を低くして喋ってみる。こう言う時は私の演技力が光るわ。

「お嬢様は何にでもなれるのですね。お見それしました」
「……」

 平静を装っているように見えるけど、私には通じないわよ。頬がちょっぴり赤いもの。絶対私の姿にドギマギしてるでしょ。
 無言でアリシアに近づき、壁ドンをかます。

「あっ……」

 そのまま無言で唇を奪った。

「……ご感想は?」
「幸せです……」
「そ。よかった」

 そうしてゆっくりと次の獲物を見定める。すると、両手で顔を押さえつつも隙間からチラチラとこちらを覗いているママと目があった。

「あ……。マ、ママは遠慮しようかな……」
「逃すわけないでしょ」
「ひぅっ!?」

 当然ママにも壁ドンからのキスコースをお見舞いした。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「お待たせっ! ……えっ!?」

 困惑したような声が聞こえたので振り返ると、いつもよりカワイらしく着飾ったソフィーが居た。貴族のデートだからって重たいドレスなんかじゃなく、動きやすさとカワイらしさを共存させた青いワンピース姿だ。
 後ろから現れた他の子達も、私を見て驚愕している。
 そして多分だけど、彼女達は私に注目しすぎて、アリシアとママがテーブルのところで再起不能になっているのには気付いていないかもしれないわね。
 ふふ、待ち時間の間に男装シラユキちゃんを堪能するために、遊びすぎちゃったかしら。

 まあ彼女達が驚いたり、耐性なく轟沈してしまうのも仕方がないかもしれない。カワイさに全振りしているシラユキちゃんが、男装するだなんて予想だにしていなかったんでしょうね。だからこそ、そんなシラユキちゃんを想定してイメトレしておくことも、事前に覚悟を決めておくことも出来ないまま今に至ると。
 まあ今回彼女達にとって想定外なこのチョイスをしたのは、あの人にをするためでもあるけど、10割近くは私がやってみたかったからだ。ゲームの世界ではたまーに男装していたりもしたんだけど、女の子とデートっていうこともあってなっちゃったのよね。
 きっと昨晩、小雪と思い出話をしてしまった影響ね……。

「ああソフィー、今日の君も素敵だね」

 彼女の前で傅き、手の甲にキスをする。
 そのまま愛しき今日のエスコート相手の全身を、ゆっくり堪能するように視線を上げていく。すると最後には、嬉しさと気恥ずかしさでカチコチに固まって動けない彼女と目が合った。
 微笑むと慌てたように目が泳ぐ。ふふっ、カワイイ。

「さあ、早速行こうか」
「ひゃ、ひゃいっ」

 彼女の手を掴んだまま、外へと歩き出す。
 まるでロボットのようにギクシャクした動きのソフィーに、思わず吹き出しそうになってしまったが、我慢我慢。ここで笑っちゃったら演技の意味がないし、何より彼女に失礼だわ。

 部屋を出る際、ふと気になって他の子達の様子を伺うと、誰も彼もがフリーズしてしまっていたけど、大丈夫だろうか?

 後で聞いた話によると、案の定彼女達が再起動を果たして教会に向かい始めたのは、私が出て1時間ほど経過した後だったらしい。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ソフィーの手を繋いだまま、無言で寮を出る。
 休みの日の午前中ではあるが、この時間から街に出たりする子も多いようで、私達は注目を浴びた。
 ソフィーは多少のお化粧とお洒落をしてはいるものの、誰が見てもソフィーである事は分かる。いつも以上にカワイイけどね。
 けれど隣を歩く麗人は一体誰なんだろう、と。そして銀髪からシラユキちゃんなのではと、2度見3度見は当たり前で、クラスメイトや同年代の子達だけでなく上級生達からも注目を集め始めていた。

 そんな状況になってもソフィーは一言も発さず、私の目を見ようとしない。けれど、私の手だけはしっかりと、力強く握られていた。珍しく照れきっている彼女があまりにも愛おしくて、私も笑みを深くする。

 そうした私達の雰囲気に居ても立っても居られなくなったのか、1人の勇気ある女子生徒がやって来た。

「あ、あのっ。し、失礼ですが、銀の髪を持つ素敵なあなた様は、シラユキ様でいらっしゃいますか?」

 聞き覚えのある声に目を向けると、そこにいたのはクラスメイトの子。それも、ソフィーと同じく進級をしてきた、普段からソフィーを気にかけてくれる良い子だ。
 今回もソフィーの様子が気になって、声をかけざるを得なかったんだろう。でも、その子も接近して伺いを立て始めた辺りで、この男装の麗人はシラユキちゃんであると理解出来たのだろう。
 問いかけ終わった瞬間に、あっ。って顔をしているわね。

 本来デート中に他の女の子を視界に入れたり夢中になるのはナンセンスなんだけど、彼女の勇気に免じて、無視せずに相手をしてあげよう。
 私は肯定するでも否定するでもなく、ただ微笑み……。

「これからソフィーとデートなの。そっとしておいて?」
「……は、はぃぃ」

 彼女はヘナヘナと崩れ落ちてしまった。
 いつもならここで、懇切丁寧に介抱してあげるんだけど、今日はごめんね。先約があるの。

 様々な視線や声を受けつつも、私達は賑やかで姦しい学園から外へと出るのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「……ねえシラユキ。そろそろやめましょ、その演技」
「お気に召さない?」
「そ、そうじゃないけど……。気恥ずかしくって、純粋に楽しめないわ」
「それは大変。……ごほん、うん。やめまーす!」

 全力の笑顔で、演技の終了を告げる。
 うーん、さっきまで笑っていなかったわけではないけれど、それでも麗人の微笑みというだけで、シラユキちゃんスマイルと呼べるほどのものではなかったわね。

「……はぁ。変わり身が早すぎよ。コロコロしすぎて私がついていけないじゃない」
「えへ、ごめんねー。喜んでもらえるかなって。……サプライズになった?」
「まあ……カッコよかったわよ」
「えへへー」
「ああもう、その格好でだらしない顔するんじゃないわよ。首から下は格好良いままなのに、首から上は普段のシラユキとかアンバランスが過ぎるわ」

 ソフィーが私の表情を整えようと、ムニムニする。

「うにゅー」
「ああダメね、直んないわ。……はぁ、せめて街中をエスコートする間は、もう少しマシな顔にしていきなさい。デートの相手を辱めるなんて真似、可愛いあんたがする訳ないわよね?」
「!」

 そう言われたら頑張らないわけにはいかないわ。
 もう、ソフィーったら。私のツボを的確に押さえてくるじゃない。

「すー、はー。……んっ!」
「……あら、元通り。と言えるほどでもないけど、マシな顔つきね。合格点を上げるわ」
「えへ」
「もうトロけた!?」
「冗談よ冗談」
「全く……。ま、それでこそシラユキよ。さっきまでのアンタは格好良かったけど、別物すぎて違和感あったもの」

 そう告げたソフィーは、腕を絡めてきた。

「さ、エスコートしてよね。婚約者様?」
「任せてー」

 そうして街へと繰り出した私達は、商店を回ったり、ソフィーが前から気になっていたという小物店や魔道具店に立ち寄ったり、女子一押しの喫茶店でケーキを食べたりと、充実した時間を過ごした。
 うんうん、ソフィーも楽しんでるみたいだし、あの日勇気を出してデートに誘って良かったわ。

「それにしても、注目を浴びてはいるけどシラユキはシラユキだってことは、中々バレないものね」
「そりゃそうよ。だって私、まだ写真集とか出してないし。人前で暴れたのだって決闘の時くらいだわ。私の噂は広がってるとしても、そこから今の男装シラユキちゃんと結びつけるのは難しいものよ」
「……言われてみればそうかも。街中でもアンタは有名だもんね」
「ソフィーも私の噂は聞いたんだ?」
「ほとんど配下からだから、直接ではないけどね。あと写真集って何? 初耳なんだけど」

 写真集を出す下地は出来ていないけれど、必要な道具である魔法のカメラはこの前作ったからね。そろそろ計画を練っても良い頃合いだと思う。

「前回のようなとびっきりの一瞬じゃなくて、色んなシラユキちゃんが見られるものよ。最初は20枚前後かなぁ……。ソフィーも欲しい?」
「それは、欲しいけど……。わざわざ束ねて出すってことは、売りに出したりするの?」
「勿論よ。タダで配っちゃうような安い女じゃないわ。でも、買った人全てが満足出来るような、最高にカワイイ仕上がりにして行きたいわね」
「ふぅん……。ま、楽しみにしているわ」

 そうしてソフィーは、絡めた手を強く握った。

「そろそろ、時間かしら」
「そうね。連絡していた刻限は、間もなくだわ」
「そっか……。初デートは緊張しっぱなしとは聞いていたけど、そんな事はなかったわね。むしろ楽しすぎて、時間が経つのもあっという間だったわ」
「ソフィー……」
「本当は午前中だけなんて言わないで、丸一日デートを楽しみたいところだけど、シラユキは忙しい身だし、我慢するわ」
「ごめんね。ある程度下地が出来てしまえば、あとは他の人に任せられるから……そうしたらまたデートに行きましょ」
「ええ、絶対よ。約束破ったら許さないんだから」
「うん!」

 そうして私達は、ランベルト家の門を潜った。

『良い感じにデートが出来たわね!』
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